完全再使用ロケットの経済性を決める整備時間

Starshipが帰還できるかどうかは、もちろん大きな節目です。ですが、完全再使用ロケットの経済性を決めるのは、着地の瞬間よりもその後です。異常を検知し、原因を切り分け、必要な検査・補修・部品交換・地上設備復旧・規制対応を終え、次の飛行へ戻せるまでに何日かかり、その日数がどれだけ安定しているか。そこを見ない限り、回収成功と低コストはつながりません。 

この論点は、スペースシャトルの長い教訓でもあり、Falcon 9が部分再使用で積み上げてきた実績の読み方でもあり、そしていまのStarshipを評価する物差しでもあります。Shuttleは当初、KSCで年40回打ち上げ、2週間ターンアラウンドを構想していましたが、実運用はそこから大きく乖離しました。Falcon 9は一方で、第1段の反復再使用を実際の打ち上げ頻度へ結び付けていますが、それは再使用という名目だけでなく、整備負担を相対的に抑えつつ、地上運用を回したからです。 

では、完全再使用を目指すStarshipはどこまで来ているのか。2026年7月21日時点で、SpaceXはStarshipの13回目の飛行試験を7月23日早ければ実施すると案内していますが、その直前の試行では、離昇の1秒未満前にエンジン始動不成立を含む異常で自動中止が発生しました。ここで見るべきなのは、中止したから失敗でも止められたから成功でもありません。何が検知され、何を交換し、どの工程を再試験し、再試行まで何日を要したのかです。 

見るべきものは帰還ではなく復帰力

完全再使用ロケットの採算は、物理的に帰還できたかどうかではなく、安全・品質・許認可・地上系を含めて次の任務へ投入できる状態にどれだけ短時間で復帰できるかで決まります。NASAの運用コスト研究でも、再使用システムのO&Sコストは、地上インフラ維持、車両物流、そして機体を飛行に復帰させるのに必要な一連の活動と、そのサイクル時間を含めて扱われています。つまり、整備時間は単なる技術指標ではなく、コストモデルそのものの中心項目です。 

この復帰力を見誤ると、三つの誤解が起きます。
第一に、帰還したことと、安く再使用できることを同一視してしまうこと。
第二に、最短再飛行記録をそのまま持続可能な平均運用だと誤認してしまうこと。
第三に、許可された年間最大回数を、そのまま実行可能回数だと読んでしまうことです。
FAAはテキサスのStarbaseで最大年25回のStarship/Super Heavy軌道打ち上げと各25回のStarship・Super Heavy着陸を許容する環境判断を出しており、フロリダのLC-39Aでは年44回規模の運用を扱うEIS/RODを公表していますが、これらは需要、要員、在庫、実整備能力、地上設備復旧時間を保証する数字ではありません。 

StarshipはSpaceX自身が100トン超を軌道へ運ぶ、完全再使用構成を前提に設計された輸送システムと位置付けています。ですが、2026年7月21日時点で公開情報から確認できるのは、設計意図と飛行試験の進捗までです。シャトルやFalcon 9のように、同一機の反復再飛行、平均整備日数、未計画整備率、交換率の分布まで公開されているわけではありません。したがって現時点の評価は、完全再使用を目指す飛行試験段階の運用システムを、どの公開指標で見るべきかを整理することになります。 

ここでの用語をはっきりさせます。「再使用可能」は物理的にもう一度使える状態、「運用可能」は安全・品質・許認可・地上設備を含めて次の任務へ投入できる状態です。「整備時間」は、整備者が手を動かす人時と、部品待ちや許認可待ちを含む暦日を分けて見ます。この区別を置かないと、同じ7日でも、工程がよく設計された7日と、ひたすら待っていた7日は見分けられません。 

整備時間に含まれる工程を帰還から発射許可まで分けてみる

帰還後の工程は、少なくとも「安全化と搬送」「データ取得と故障診断」「非破壊検査」「耐熱系補修」「推進系点検・交換」「極低温系とバルブ・シールの寿命管理」「地上設備復旧」「ソフトウェア・校正・品質保証」「規制・空域海域調整」に分けて考える必要があります。シャトルの運用研究でも、着陸後はまずガス排出や冷却、地上サービス接続、牽引移送が行われ、その後に保安処置、推進薬安全化、アクセス設備設置、検査・再構成作業が始まる流れが明示されています。これは時代が違っても、飛んだものをもう一度飛ばす以上は避けられない基本構造です。 

非破壊検査は、目視だけでは済みません。NASA KSCのNDE機能資料では、運用中の宇宙システムや地上設備を支えるため、超音波、X線、CT、渦電流、浸透探傷、フラッシュ赤外線サーモグラフィ、テラヘルツなど多様な手法が24時間体制の支援対象として挙げられています。Shuttle初期のNDEマニュアル研究でも、ターンアラウンドやプリローンチ時に検査すべき潜在的破壊重要部位が全機で整理され、熱防護系を含む構造の検査しやすさそのものが設計課題として扱われました。見えない整備労働の大部分は、こうした確認作業にあります。 

耐熱系は典型的なボトルネック候補です。シャトルの詳細分析では、1997年の8フローを対象にしたOrbiterターンアラウンド作業のうち、最大の集中領域は不計画トラブルシュートと修理で、全体の29.56%を占め、そのカテゴリーの中でも熱防護タイル作業が約30%寄与していました。つまり、派手な再突入映像の裏で、最も重かった仕事は異常が出たときの見つける・切り分ける・直すでした。StarshipのTPSはシャトルの脆いシリカタイルと同一ではなく、構造材も熱環境も異なりますが、耐熱系が整備負担から消えるとはまだ言えません。少なくとも公開情報だけでは、補修面積、接着待ち時間、再検査範囲の分布は分かりません。 

推進系も同じです。シャトル運用資料では、SSMEは毎ミッションごとの点検とリークチェック、3ミッションごとのタービントルク試験、より長周期では部品交換やエンジン交換が必要とされ、OMSポッドや前方RCSモジュールも5ミッションごとに外して詳細検査・試験・整備を並行実施していました。さらに後年のNASA資料は、SSMEをオービタから外して保守する方が実運用上は有利となり、1回ごとの整備に2万時間超の直接・間接労働と約2か月を要したと回顧しています。StarshipのRaptorがそこまで重いとは言えませんが、エンジン交換が可能であると交換を高頻度で必要としないは別の性能です。 

地上設備の復旧も整備時間に含めるべきです。Blue Originは2026年5月28日のNew Glenn統合打上げ機ホットファイア異常後、落雷塔、トランスポーター・エレクター、油圧シリンダーを失い、再飛行へ向けてパッド再建と運用概念見直しを進めると明かしました。ここから分かるのは、たとえ機体側が無事でも、発射台・給排液・支持設備・搬送設備が止まれば商業運用は止まるということです。ロケットの可用性は、機体単体ではなく「機体+射場+計測+調整手続き」の直列系として見る必要があります。 

最短記録だけでなく人時とばらつきを見なければ採算は分からない

整備時間を一つの数字で語ると、最短値の魅力に引っ張られます。ですが、NASAの離陸後エンジン運用研究やConceptual Rocket EnginesのDES研究は、ターンアラウンド時間を決めるのが、単なる平均作業量ではなく、並列整備か直列整備か、施設数と人員数、スケジューリング、未計画整備、診断時間であることを繰り返し示しています。DESでは、増員しても短くならない工程と、設備を足すと効く工程が分かれます。これは待ち行列理論の基本ですが、ロケットでは人命・安全余裕・文書化が絡むため、なおさら重要です。 

シャトルの実証史は、この点を非常に分かりやすく示します。NASAの2005年分析では、当初KSC年40回・2週間ターンアラウンド構想に対し、実際の処理フローでは大半が200日未満ながら大きな幅を持ち、300日超は延長整備や改修明け再投入が主因でした。しかも、1997年の8フロー分析では、Orbiterターンアラウンドの最大カテゴリは不計画トラブルシュートと修理、次いでシステム整備、処理支援、点検・チェックアウトでした。ボトルネックは目に見えない作業にあり、派手な打ち上げではありませんでした。 

この教訓をStarshipへそのまま当てはめるべきではありません。ステンレス構造、メタン、Raptor 3、現代センサー、デジタル診断、自動化、打ち上げサイトの専用化は、シャトル時代より有利な条件です。SpaceXもFalcon 9 Block 5で熱防護や共通化を見直し、迅速な回収・再整備を意図した設計変更を入れました。2025年5月版のFalcon Payload User’s Guideによれば、Falconは2024年末までに430回超打ち上げられ、2025年2月時点で第1段の再飛行は384回超に達しています。さらに2026年7月9日のミッションページでは、ある第1段が36回目の飛行に使われたことが確認できます。ここで重要なのは、Falcon 9が何度も使えただけでなく、部分再使用を実際の高頻度打ち上げへつないだことです。 

ただし、Falcon 9の強みをそのままStarshipへ移植することもできません。Falcon 9では定常運用中の再使用範囲が主に第1段とフェアリングで、上段は基本的に再使用していません。Starshipは上段側まで再使用しようとしている点で、整備対象の広さが違います。加えて、Starshipの目標は大型上段の再突入・再点火・着地・発射塔復帰まで含むため、TPS、メタン系、再点火信頼性、キャッチ設備、地上安全化の負担が一段とクリティカルになります。設計上の完全再使用と、反復実証済みの完全再使用を必ず分けて読む必要があります。 

ここで使える概念モデルは二つです。
年間実施可能便数 = 機体可用性、発射台能力、レンジ・規制能力、要員・在庫能力、需要のうち最も小さい制約。
一便当たり総コスト = 直接運用費 + 補修・交換費 + 地上設備・要員固定費の配賦 + 資本費 + 長期停止や失敗の期待費用。

どちらも実測式ではなく説明用の枠組みですが、少なくとも「365÷整備日数」より現実に近い見方です。もし整備日数を短縮するために要員を大幅増員し、予備エンジンを多く抱え、発射台を二重化するなら、暦日短縮はできても費用が下がるとは限りません。逆に、暦日が多少長くても、ばらつきが小さく、必要要員が安定し、部品待ちが起きないなら、商業計画は立てやすくなります。 

Starshipの直近の発射中止は何を示したのか

2026年7月16日木曜日、StarbaseからのStarship第13回飛行試験の打ち上げ試行は、計画離昇時刻である午後5時45分CTの1秒未満前に自動中止されました。Reutersは、33基のうち一部エンジンが始動せず、離昇直前のabortが発生したと報じています。Reutersが併記した22時45分GMTは、日本時間では7月17日7時45分に当たります。対象は本番のFlight 13であり、静的燃焼やWDRではありません。 

ここで用語を均してはいけません。Reuters見出しはabort、記事本文もautomatic launch abortと表現していますが、同記事が引用したSpaceXライブ配信でのDan Huot発言は「We did trigger a hold on the booster that aborted our liftoff」です。つまり公開情報上、少なくとも報道文脈ではabort、SpaceXのライブ解説は、直接的な作動をhold、その結果をabortとして説明した語が混在しています。意味は似ていても、運用現場では「どの段階で止めたのか」「自動だったのか」「カウント再開の前提が何か」に差が出ます。ここを一語の「中止」で均してしまうと、整備工程の読解力が落ちます。 

異常の性質については、一次情報と二次情報で線を引く必要があります。Reutersは「some of its 33 engines failed to start」と伝え、MuskのX投稿として「2 Raptors will be removed & replaced」を引用しています。APは、ライブ画面上のデータから4基が点火していないように見え、残る29基も即座に停止したと報じましたが、これはAPによる画面観測であって、SpaceX公式の交換完了報告ではありません。したがって、公開情報から確実に言えるのは「エンジン始動系統に関わる異常で自動中止が起き、MuskはRaptor 2基の交換方針を述べた」というところまでです。交換対象段の機番、実際の交換完了、交換後試験の内容は、2026年7月21日時点ではSpaceX公式ページやFAA公開ページで詳細確認できません。 

では、この事象をどう読むべきか。
第一に、安全側で止まったこと自体は、最低限の検知能力が働いたことを示します。Falcon系ガイドでも、SpaceXは「全システムが正常と確認されるまでホールドダウンする」と明記しています。
第二に、それだけでは整備性の高さは証明されません。交換容易性が高ければ再試行は早まりますが、交換頻度が高ければ在庫費・試験費・品質保証負荷は増えます。
第三に、評価の核心は「再試行までの日数」と「その間のクリティカルパス」がどこだったかです。7月19日付ReutersとSpaceXのFlight 13ページは、次回試行を早ければ7月23日としています。現時点では、約1週間以内の再試行計画までは見えますが、同一機体・同一ブースターの将来の反復実績、交換率の定常値、原因の再発率はまだ分かりません。 

直前のFlight 12について、SpaceXの公開ページは上昇中に単発のRaptor停止があったことを示しています。またSpaceXの更新ページは、FAAレビュー向けのmishap reportを提出し、FAAのflight safety determinationを受けて次の飛行を可能にしたと述べています。ここから分かるのは、Starshipの運用成熟度評価において飛行中の異常そのものだけでなく、報告・是正・再飛行許可までの流れもまた整備時間の一部だということです。規制は外部要因ですが、当局へ出せるだけの原因切り分け能力と是正の説得力は、事業者側の運用能力でもあります。 

ShuttleとFalconとStarshipの違いは再使用回数より毎回の整備項目に出る

システム再使用される範囲運用段階公開されている再飛行実績帰還後に公表されている主な検査・補修エンジン取り外し・交換の公開情報耐熱系の整備負担地上設備の主な制約同一機ターンアラウンドの確認可能な値データ透明性と比較上の限界
Space ShuttleOrbiter、SSME、SRB一部回収再使用退役数十年の運用実績TPSタイル、各種LRU、流体系整備、点検・チェックアウトSSMEは高頻度点検・定期取外し系、後年は機外整備が一般化非常に大きいOPF、VAB、SRB回収、広大な国家インフラ当初2週間構想、実運用は多くが200日未満だが大きい分散詳細だが時代差が大きい
Falcon 9第1段第1段とフェアリングが定常再使用商用成熟運用2025年2月時点で第1段再飛行384回超、2026年7月時点で36回目飛行の例あり回収後検査、Block 5で迅速な回収・再整備を意図した変更モジュール交換詳細は限定的だが、実フリート運用は豊富Shuttleより軽いが詳細分布は未公表射場、ASDS、レンジ、天候“数週間級”の同一boosters再飛行事例はあるが公式平均統計は未公表実績は厚いが整備人時・交換率は非公表
Starship/Super Heavy設計上は両段完全再使用飛行試験段階2026年7月21日時点で公開確認できる軌道級の同一機反復再飛行実績は乏しいFlight 12/13公開情報では飛行試験ごとの異常・是正、詳細整備項目は限定的7月16日試行後、Musk投稿ベースでRaptor 2基交換方針重要だが補修面積・交換率未公表発射塔、キャッチ設備、メタン地上系、FAA手続き7月16日試行中止から7月23日再試行計画という“一例”のみ設計意図は多いが定常運用データは未成熟
New Glenn第1段第1段再使用を設計初期運用後、復旧段階NG-2で第1段着陸成功回収後整備詳細は限定的同一ブースターをNG-3へ向け整備中と公表上段水素系との分担でStarshipと条件違い2026年5月ホットファイア異常でパッド損傷、復旧CONOPS見直し同一機再飛行の定常値は未公表実績サンプルが小さい

表の根拠は、ShuttleについてNASAの運用・整備研究、Falcon 9についてSpaceXのPayload User’s Guideと公開ミッションページ、StarshipについてSpaceX公式FlightページとFAA Boca Chicaページ、New GlennについてBlue Originのミッションページと復旧報告です。比較可能なのは公開された運用概念と一部実績であって、整備人時や交換率の横並びではありません。 

この表から見える本質は、スペースシャトルが再使用できたのに整備が重かった歴史的失敗作だった、という単純な話ではないことです。むしろシャトルは、どこで整備負担が増殖するかを極めて具体的に教えてくれました。不計画修理、TPS、点検・チェックアウト、エンジン系、広大な地上インフラ。この教訓があるから、後続の再使用系は、アクセス性、モジュール交換性、診断自動化、地上作業簡素化を性能として設計する必要があります。 NASAの2003年運用論文も、SSMEの高い性能は一方で高い複雑性と人的負担を伴い、運用性・保全性を初期設計へ織り込まないと経済性は成立しにくいと述べています。 

Falcon 9は逆に、部分再使用でも運用を回せば経済性に効くことを示しました。Starshipはそこからさらに一段難しい課題に踏み込んでいます。完全再使用の経済性を考えるとき、比較すべきは何回使えたかではなく、毎回どこに手がかかったかです。累積フライト数は重要ですが、それだけでは見えないコストの塊が整備工程にあります。 

整備時間が一便コストに変わる仕組みをコスト構造で捉える

整備時間が長いと高コストになる理由は単純なようでいて、実際には複数の経路があります。
第一に、機体が収益を生まない待機時間が増え、資本回転が下がります。
第二に、発射台や検査設備や管理要員の固定費が、少ない便数に配賦されます。
第三に、未計画整備が多いと、予備品、再試験、再作業、スケジュール再調整の間接費が膨らみます。
LSOCMが「地上インフラ」「車両物流」「飛行再開に向けた作業」「サイクルタイム」を同時に入れるのは、このためです。 

ただし、整備日数が短いほど必ず安いとも言えません。短縮の方法が、夜間シフト増、予備エンジン大量保有、発射台複線化、検査設備増設なら、暦日は縮んでも固定費と在庫費が増えます。DES研究でも、並列化はクロックタイムを縮めますが、そのぶん必要人員と設備台数は増えます。したがって経済性の核心は、最短値より必要資源をどこまで抑えつつ、ばらつきを小さくできるかです。これは航空機MROにも通じる考え方ですが、ロケットでは熱・振動・安全要求・データ量が異なるため、概念比較にとどめるのが妥当です。 

Falcon 9の事例は、整備負担を抑えながらフリート全体の飛行率を上げると、1便あたり固定費配賦が下がりやすいことを示しています。Payload User’s Guideは、Block 5で熱防護や共通化を見直し、迅速な回収・再整備に寄与する変更を入れたと説明しています。これは、単に使い回せるのではなく、回しやすいように変えたということです。完全再使用のStarshipでも同じで、機体寿命より先に、アクセス性、点検自動化、交換容易性、地上接続の標準化が効いてきます。 

New Glennの2026年ホットファイア異常が示したのは、地上設備復旧時間がコストへ直結するという当たり前の事実です。Blue Originは、再飛行に向けて同じパッドを単純復元するのではなく、既存資産を使った水平/垂直ハイブリッドの運用概念へ切り替えると述べました。これは、パッドが一度壊れた経験を復旧工事ではなく運用設計の変更として吸収しようとしている例です。完全再使用の競争は、機体だけではなく、整備しやすい地上システムを誰が設計できるかの競争でもあります。 

完全再使用を見抜く公開指標はどれか

指標名なぜ重要か公開情報から確認できるか改善と判断できる変化誤読しやすい点
非破壊検査の範囲隠れた損傷を見つける能力そのものだから一部のみ手法の標準化、自動化、毎回必要箇所の縮小非公開だから検査不要とは言えない
TPS補修量・補修待ち時間再突入系の整備負担を直撃するからStarshipはほぼ不可、Shuttleは豊富補修面積や再作業率の低下素材が違う機体を単純比較しやすい
エンジン交換率交換容易性と消耗の両面を映すから部分的交換頻度低下と交換時間短縮の両立交換できること自体を良い話にしやすい
計画外整備率ばらつきの主因だからほぼ不可突発停止の減少成功フライト数だけでは分からない
直接・間接整備人時労務費と技能負荷を示すからShuttle中心に可同じ安全水準で人時減少人数化を無条件に善と見やすい
地上復旧時間パッドが直列ボトルネックだから事例ベースで可同規模異常後の復旧短縮機体無傷なら問題なしと考えやすい
同一機再飛行間隔真の再使用実績だからFalconで一部可、Starshipはまだ弱い同一機の複数回反復フリート全体の発射間隔と混同しやすい
年間飛行回数固定費配賦を左右するから連続年で増加許可回数を実績と読みやすい
再使用回数耐久性の最低条件だから一部可回数増と故障率安定の両立回数だけで採算を判断しやすい
予備品待ち在庫設計の弱点が出るからほぼ不可交換後再試行の安定化外からは遅延理由が見えにくい
規制停止期間事業継続性に効くから是正完了までの時間短縮規制だけの問題に見えやすい
発射台・塔設備の再利用安定度完全再使用では地上系も再利用対象に近いから一部可復旧工事の縮小、連続運用機体だけ見て議論しやすい

この表は、Shuttleの運用史、NASAのコスト・運用モデル、FAAのライセンス運用、Starship/Blue/Falconの公開ページから整理したものです。重要なのは、公開される指標と公開されない指標を分けることです。特にStarshipでは、NDE範囲、TPS補修量、整備人時、予備品待ち、交換率の定量は未公表です。したがって現時点で読者が追うべきなのは、同一機の再飛行、異常から再試行までの日数、Flight間の停止理由、地上設備損傷の有無、FAAの是正・追加審査の有無、そしてそれらが複数回続いたときに分布がどう落ち着くかです。 

日本の読者にとっては、JAXAのCALLISTO計画がこの論点をかなり率直に言語化しています。JAXAは、CALLISTOの研究目標に着陸から再飛行までの一連の運用を通じて、ヘルスマネジメント技術などのエンジン再整備を効率化する技術を試行し、運用コストに関するデータを蓄積するとしています。再使用ロケットの本丸が、帰還デモより再飛行までの整備データ収集にあることを示す、分かりやすい国内の示唆です。 

結論として競争の焦点は推力から運用設計へ移ります

ここまでの公開情報から言える結論ははっきりしています。完全再使用ロケットの単位コストを左右するのは、機体単体の再使用回数そのものより、検査・補修・交換・地上復旧・在庫・規制対応まで含めた運用サイクルの平均時間とばらつきです。これはNASAのコストモデル、Shuttleの実運用史、DESによる運用モデリング、そして最新のStarshipやNew Glennの出来事を並べると、一貫して支持されます。 

同時に、反証や限定もあります。Falcon 9は、公開される整備人時が少なくても、実際の高頻度反復運用によって整備可能性をかなり強く示してきました。つまり、すべての内部データが公表されなくても、同一機再飛行やフリート発射頻度が積み上がれば、運用成熟度は外からもかなり読めます。Starshipも将来そうなる可能性はあります。ただし2026年7月21日時点では、そこまでのサンプルはまだありません。したがって今は、帰還率ではなく、異常からの復帰工程と、そのばらつきを見る段階です。 

要するに、完全再使用の競争は、推力や着陸映像の競争から、運用を設計する能力の競争へ移りつつあります。整備が短いことだけでは足りません。安全に、反復可能に、予測可能に短いことが必要です。そして、その状態に近づいたとき、整備は大ニュースではなくなります。ロケットが航空機に近づいたかどうかを判断する瞬間は、もしかすると着陸の歓声より、整備の静けさの中に現れるのかもしれません。 

よくある疑問Q&A

Q.完全再使用なら必ず安くなりますか。
必ずではありません。回収後の検査、補修、交換、地上設備の維持、在庫、規制停止が重ければ、再使用回数が多くても一便当たりコストは下がりません。NASAのLSOCMも、飛行再開に向けた作業と地上インフラ維持を運用コストの中心に置いています。 

Q.何日なら採算が合うと言えますか。
一律の日数は置けません。複数機か、発射台が何基か、予備品在庫をどれだけ持つか、需要があるかで採算点は変わるからです。短い日数でも要員増や在庫増で高コスト化することがあります。 

Q.エンジン交換は悪い兆候ですか。
一概には言えません。交換しやすい設計は整備性の強みですが、交換頻度が高いなら消耗、在庫、再試験の負担が増えます。重要なのは交換の有無より、交換率、交換時間、再発率です。 

Q.Falcon 9の実績をそのままStarshipへ当てはめられますか。
当てはめられません。Falcon 9の定常再使用は主に第1段とフェアリングで、Starshipは上段も含む完全再使用を目指しています。整備対象の広さと熱環境が違います。 

Q.非破壊検査は毎回必要ですか。
必要性の程度は機体と工程で異なりますが、少なくとも再使用機ではNDEを初期設計から考える必要があるというのがNASA資料の一貫した教訓です。検査を減らせるなら、それ自体が設計成熟の証拠になります。 

Q.発射台の復旧も整備時間に入りますか。
入れるべきです。機体が使えても、パッド、給排液、電力通信、支持設備が復旧しなければ収益飛行へ戻れません。New Glennの2026年復旧事例は、そのことを明瞭に示しました。 

Q.FAAの調査期間は企業の整備能力に入りますか。
完全には入りませんが、事業者が原因を切り分け、是正策をまとめ、当局へ説明し、次回飛行判断に耐える資料を出せるかは運用能力の一部です。Part 450系の枠組みでも、事故時の調査と報告、是正措置が要件化されています。 

参考

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