東京のアライグマ・ハクビシンは本当に増えている?最新データで見る被害・違い・対策

東京でアライグマやハクビシンを見かける機会や行政への相談は、長期的には増えてきました。ただし、「相談件数が増えた」「捕獲数が増えた」という数字を、そのまま東京の個体数が同じ割合で増えた証拠と読むことはできません。東京都のFY2024データを見ると、区部では相談総数がFY2023の4,092件から3,651件へ減る一方、アライグマと判明した相談は775件から856件へ増えています。多摩では相談総数が2,378件から2,516件へ増えました。 

したがって、2026年時点で最も正確なのは、「東京本土部で2種をめぐる生活・生態系上の問題が広い地域に定着しており、特にアライグマは区部でも行政相談が高水準になっている。ただし、正確な都内個体数やその増加率までは相談・捕獲統計から分からない」という答えです。東京都も島しょ部を除く都内全域で影響が生じているとして対策を進めています。 

屋外で1頭見ただけなら、自分で追い詰めたり触ったり捕まえたりする必要はありません。生活被害や家屋侵入が疑われる場合は、居住する区市町村の制度を確認してください。支援条件は自治体によってかなり異なり、東京都内だから同じ対応を受けられるわけではありません。 

東京でアライグマ・ハクビシンは本当に増えている?

東京で問題が広がってきたと言う根拠はありますが、個体数が相談件数と同じ割合で増えたとは言えません。

東京都は2026年4月更新の公式ページで、アライグマ・ハクビシンの相談件数を長期的な増加傾向として説明しています。しかし実際の年次グラフには増減があります。ここを分けて読むことが重要です。 

東京都の相談統計は、目撃だけではありません。家屋・倉庫への侵入、庭の作物・樹木、糞尿、ペット等への被害などが含まれます。つまり動物を何頭確認したかではなく、都民から行政へ寄せられた接点・問題の件数です。 

年度区部:アライグマ区部:ハクビシン区部:種不明多摩:アライグマ多摩:ハクビシン多摩:種不明
FY201391,18424205
FY20181422,199580295887277
FY20214003,079901580721708
FY20237752,979338677891810
FY20248562,211584854729933

出典:東京都「都民からの相談件数」。なお、種不明区分の扱いが途中年度で変わっているため、長期比較には注意が必要です。 

この表から読み取れる重要な点が3つあります。

まずアライグマです。FY2013には区部9件、多摩24件だった種判明相談が、FY2024には区部856件、多摩854件に達しています。これは東京でアライグマとの接点が地理的に広がったことを強く示唆します。ただし、相談制度の認知、自治体の対策拡大、種同定の改善なども数字を増やし得るため、この比率を個体数増加率に置き換えることはできません。 

次にハクビシンです。区部ではFY2013の1,184件から長期的には高水準になりましたが、FY2023の2,979件からFY2024は2,211件へ減っています。多摩でも891件から729件へ減りました。ハクビシン相談が現在も毎年増え続けていると書くのは正確ではありません。 

さらに相談総数を見ると、FY2024は区部3,651件、多摩2,516件です。区部はFY2023の4,092件から減り、多摩は2,378件から増えました。したがって、東京全体が同じ速度・同じ方向に増加という単純な説明も避けるべきです。 

相談内容にも地域差が見えます。FY2024の区部では、種が判明したハクビシンについて目撃1,046件、家屋・倉庫侵入636件など生活圏での相談が多く、多摩ではアライグマについて庭の農作物・樹木被害237件、農業被害29件なども記録されています。これは相談内容の構成であって、被害総額や個体密度ではありません。 

捕獲についても同じ注意が必要です。東京都の「生物多様性地域戦略 アクションプラン2025」で確認できるFY2023実績はアライグマ640頭、ハクビシン386頭ですが、捕獲頭数は個体数調査ではありません。わなの数、設置期間、実施自治体、捕獲従事者、重点地域が変われば捕獲数も変化します。 

現在、防除実施計画への参加は50自治体です。農作物獣害対策事業まで含めると、島しょ部を除く対象53自治体のうち51自治体が対策に取り組んでいます。行政側の捕獲努力や対象範囲が広がっている以上、捕獲数が増えた=同じ率で生息数が増えたとは評価できません。 

逆に、捕獲数が多いから行政対策が失敗しているとも限りません。捕獲強化そのものが数字を押し上げるからです。狭山丘陵のアライグマ研究がCPUEを利用しているのは、まさに捕獲努力量を無視した頭数だけでは生息状況を評価しにくいからです。 

つまり、東京で増えていると言えるのは、少なくとも長期的な相談という人間との接点、対策対象地域、アライグマの行政相談上の広がりです。一方、2026年8月時点で東京都には何頭いて、前年比何%増えたと示せる精密な全都推定個体数は、今回確認した東京都資料にはありません。

アライグマとハクビシンは何が違う?見分け方と法的位置づけ

見た目が似た中型哺乳類として一緒に語られがちですが、アライグマとハクビシンは分類も外見も、外来生物法上の扱いも同じではありません。

アライグマハクビシンタヌキ
分類アライグマ科ジャコウネコ科イヌ科
外見の目安目の周囲に黒いマスク状模様額~鼻に白い筋顔に黒い部分があるが体つき・尾が異なる
黒い輪状模様が5~7本細長く、アライグマのような明瞭なリングではない太めでふさふさ
体長の目安胴長約60cm胴長約50~60cm約45~55cm
足跡5本指、長い指・爪が比較的明瞭5本指4本指が目立つ
移動木登り可能、手先をよく使う登攀能力が高く、配管・柱等も利用主として地上
東京でのFY2024種判明相談区部856、多摩854区部2,211、多摩729本統計の対象外
外来生物法特定外来生物特定外来生物ではない対象外
捕獲外来生物法に基づく防除等の制度が関係鳥獣保護管理法上の捕獲許可等が関係鳥獣保護管理法が関係

外見・足跡は東京都の見分け方資料によります。写真や暗所での目撃だけで一般の人が100%同定できるとは限りません。 

アライグマは環境省の特定外来生物一覧に明記されています。特定外来生物は、飼養・保管・運搬、輸入、野外への放出などが原則規制されます。したがって捕まえて遠くへ放せばよいという扱いにはできません。 

ハクビシンは特定外来生物一覧には掲載されていません。一方、野生鳥獣として捕獲を自由に行えるわけでもなく、東京都はアライグマとともに有害鳥獣捕獲の対象として案内しています。東京都の防除計画でも、外来生物法に基づく防除と鳥獣保護管理法に基づく捕獲を区別して制度運用しています。 

ハクビシンの日本での由来にも注意が必要です。分子系統研究は本州・四国の個体群について台湾等からの導入を支持してきましたが、2023年の研究では島根県個体から国内既知系統とは異なるミトコンドリアDNA型も報告されています。したがって、ここでは外来起源を支持する分子遺伝学的証拠があるとしつつ、日本への導入時期・経路・国内全個体群の成立史まで完全に解明されたわけではないというのが妥当です。 

ハクビシンは建物への侵入能力が高く、小平市は約8cm四方、直径約10cm程度の開口を通れる目安を示しています。

なぜ東京の住宅街で暮らせるのか

重要なのは、野生動物が自然から都市へ侵入してきただけでなく、都市の中に彼らが使える資源があるという見方です。

東京都の公式な被害予防策は、捕獲をして数を減らすだけではありません。「餌資源をなくす」「繁殖場所をなくす」を同時に行うことを重視しています。これは、被害が動物の存在だけでなく、人間側が提供する環境条件にも左右されるという発想です。 

食べ物では、庭の果実、未収穫作物、ペットフード、生ごみなどがあります。小平市は果物・野菜・ペットフード等をアライグマの利用可能な食物として示しています。東京都の鳥獣保護管理事業計画も、生ごみ、未収穫作物等の不適切な管理を結果として餌付けとなる行為と位置づけています。 

ここでいう餌付けは、手で餌を与える行為だけではありません。収穫しない果実を長期間放置する、屋外のペットフードを常時食べられる状態にする、野生動物が容易にごみにアクセスできる、といった意図しない食物供給も都市生態学上は重要です。

アライグマについては、日本の研究レビューでも、農業地域や都市環境には食物と隠れ場所を得やすい条件があり、非常に幅広い環境を利用できることが指摘されています。これは東京のごみが個体数増加の主因であると直接証明するものではありませんが、都市生活が成立する生態学的メカニズムとして整合的です。 

建物も資源になり得ます。東京都に寄せられる相談には屋根裏・倉庫等への侵入が含まれ、FY2024の区部だけでも、種が判明した家屋・倉庫侵入相談はアライグマ121件、ハクビシン636件でした。これは東京の住宅そのものが、野生動物との接点になっていることを示します。 

ただし、「古い家ほど必ず侵入される」「東京の空き家増加がハクビシン増加の主要因だ」といった因果関係を裏付ける都内データは今回確認できませんでした。老朽化や空き家は利用可能なねぐらを増やし得る説明候補であって、東京の増加原因として確定した事実ではありません。

移動経路も同じです。ハクビシンは柱や配管を登り、電線等を利用することが自治体資料で説明されています。アライグマも住宅街、農地、緑地、河川など多様な環境を利用することが研究で報告されています。都市の緑や水辺そのものが悪いわけではありませんが、動物にとって移動可能な空間が連続すれば、人間が想像する自然と住宅地の境界は必ずしも明瞭ではありません。 

したがって動物側の繁殖・雑食性・移動能力だけでなく、人間側が供給する果実、生ごみ、ペットフード、建物の空間などが重なることで、生活圏そのものが利用可能な生息環境になる、という中心仮説は、現時点では次の範囲まで支持できます。

動物側の適応能力に加え、人為的な食物、建物内の隠れ場所、都市内の移動可能な環境が重なると、東京の生活圏でも生存・繁殖の条件が成立し得る。

一方、この都市構造が東京での増加を何%説明するかまでは証明されていません。そこは研究上の限界として残します。

人にとって何が問題なのか――住宅・生態系・健康を分けて考える

アライグマ・ハクビシンは危険という一言では、問題を正しく理解できません。住宅被害、生態系への影響、健康リスクは別々に評価する必要があります。

住宅・生活被害

行政相談で現実に多いのは、屋根裏などへの侵入、騒音、糞尿、臭気、建物の汚損、庭の果実・作物への被害です。FY2024の区部では、目撃だけでなく、家屋・倉庫侵入や庭での被害が多数記録されています。 

1頭を道路上で見ただけなら、自宅に棲みついている証拠にはなりません。反対に、夜間の天井裏の繰り返す足音、同じ場所での糞尿、果実の継続的被害など複数の兆候がある場合には、「目撃」とは別の生活被害として自治体へ相談する意味があります。自治体もこの違いで事業対象を分けています。 

生態系への影響

アライグマでは、両生類を含む在来生物への捕食が日本各地で研究されています。狭山丘陵ではトウキョウサンショウウオの生息地とアライグマの分布が重なり、捕食も確認されています。東京都もトウキョウサンショウウオ等の保全を意識して保全地域でアライグマ捕獲を進めています。 

ただし、ここからトウキョウサンショウウオが減った原因はアライグマだけと結論づけることはできません。両生類の個体群には繁殖地の環境改変、水環境、乾燥化、他の捕食要因など複数の要因が作用し得ます。

健康リスク

アライグマ回虫 Baylisascaris procyonis は、虫卵を経口摂取すると人や他の動物で幼虫移行症を起こし得る寄生虫です。現在JIHSが公開している解説ページにも、日本国内の飼育アライグマや飼育施設で寄生・動物への感染が確認された過去の事例が掲載されています。 

しかし、そのJIHSページはIDWR 2002年第42号の記事であり、ページ冒頭に更新作業中のため、ページの一部に古い情報が含まれる場合がありますと明記されています。「日本で人への感染事例は報告されていない」「野生アライグマから寄生例を確認していない」という記述も当時の情報です。

今回は、東京の野生アライグマにおける2026年時点のアライグマ回虫保有率を示す最新公的調査を確認できませんでした。よって、「東京のアライグマは回虫を持っている」「東京では存在しない」のどちらも断定しません。

海外では現在も人の症例が報告されていますが、それを東京の感染確率へ直接置き換えることもできません。たとえば米国CDCは2024年にロサンゼルス郡で小児2例を報告していますが、これは東京の現在の疫学状況ではありません。 

実用上もっと重要なのは、「野生個体を触らない、糞便に素手で接触しない、餌を与えて人との距離を縮めないという基本です。JIHSもアライグマの糞との接触・経口曝露を避けることを予防上の重要点として説明しています。 

One Healthの観点では、人だけでなく、ペット、野生動物、都市環境を同時に見る必要があります。日本の研究でも、導入されたアライグマが国内のマダニ類との生態学的関係を持つことが研究されており、外来動物が運んできた病原体だけでなく、侵入先の寄生者・宿主ネットワークへどう組み込まれるかを見る視点が必要です。これは東京で直ちに感染危機があるという意味ではありません。 

見かけた・被害がある・家に入った――状況別に何をすればいい?

最も重要なのは、目撃しただけなのか、生活被害があるのか、建物内への侵入が疑われるのかを分けることです。

状況まずすることしない方がよいこと相談の目安
屋外で見ただけ距離を取り、餌になるものを残さない触る、餌を与える、追い詰める、自己捕獲自治体が目撃情報を受け付ける場合のみ
庭・果実・ごみ・糞などの被害果実・ペットフード・ごみ等の誘引物を管理し、被害日時・場所を記録無許可のわな、毒物、素手で糞を触る区市町村の捕獲・相談制度を確認
屋根裏・建物内侵入が疑われる所有者・管理者、自治体、必要に応じ専門業者へ相談動物の在室確認なしの完全封鎖、高所DIY、追い詰める早めに相談。賃貸・集合住宅は管理者経由になる場合あり

屋外で見ただけの場合

江東区や小平市などは、見かけただけなら過度に心配せず、餌を与えたり触ったりしないよう案内しています。北区では、すでに広く生息しているとして、捕獲相談でない単なる目撃情報の連絡を不要としています。 

つまり見た=即、駆除業者ではありません。写真を撮るために近づいたり、追い回したりする必要もありません。

庭、ごみ、果実、糞などに継続被害がある場合

まず、人間側の誘引条件を減らします。落果・未収穫果実を放置しない、屋外のペットフードを常設しない、ごみを野生動物が容易に利用できる状態にしないといった対策です。東京都も捕獲、餌資源の除去、繁殖場所の除去を組み合わせる方針を示しています。 

糞を見つけても、種同定のために素手で触る必要はありません。特にアライグマの糞については寄生虫卵への経口曝露を避けることが公衆衛生上の基本です。 

屋根裏・建物内への侵入が疑われる場合

ここでは穴を見つけたら今すぐ全部塞ぐと単純化しない方が安全です。個体や幼獣が内部に残っている可能性を読者自身が判断できないため、本記事では在室確認なしの完全封鎖をDIYで勧めません。

また、屋根・高所へ登って侵入口を探すことも一般読者向けの対策から外します。地上から確認できる範囲を記録し、自治体制度、建物所有者・管理者、必要に応じて専門事業者へつなぐ方が現実的です。

自治体制度の違いは想像以上に大きいです。

新宿区は、家屋内への侵入による糞尿・臭気・騒音、庭の果実被害など具体的被害がある住宅等を対象に調査し、対象と判断すれば委託業者が箱わなを設置します。集合住宅でも管理会社・管理組合管理の場合は一般の住宅とは扱いが異なります。 

練馬区では、実際の家屋侵入や食害があり、所有者・管理者からの申込み等の条件を満たした場合に、委託事業者による現地調査・捕獲器設置を行います。設置は原則約1週間、最長2週間という条件もあります。 

文京区は、実害のある住宅・集合住宅等を対象に屋外へ捕獲器を設置する制度ですが、侵入口の閉塞や糞尿清掃まで行政事業に含まれるわけではありません。つまり捕獲支援=建物復旧まで無料ではありません。 

町田市は、屋根裏の大きな足音、糞被害、果実、飼育魚等の具体的被害がある場合に業者を派遣し、「庭や屋根の上を歩いている」「よく見かけて怖い」だけでは事業対象外と明記しています。 

一方、小平市は「積極的駆除」として、特段の被害がなくても相談者の協力が得られ、設置条件を満たす場合には捕獲を行う方針を示しています。これは東京都では目撃だけなら絶対に捕獲しないと一般化できない好例です。 

さらに足立区には、区の捕獲事業利用後、条件を満たす侵入口閉塞工事について助成する制度があります。ここでは捕獲と再侵入防止を別工程として制度化している点が注目できます。 

つまり、自治体へ連絡するときは「アライグマを見ました」だけでなく、どこで、いつ、何が起きているかを伝える方が制度判定につながりやすくなります。ただし捕獲器の設置・操作を自分で始めるのではなく、自治体の正式な手続を確認してください。

東京都と区市町村は何をしている?最新の防除計画を読み解く

東京都の現行「東京都アライグマ・ハクビシン防除実施計画」は2026年度改定版で、期間は2026年4月1日から2031年3月31日までです。既存記事の旧計画情報は更新が必要です。 

東京都は2013年度からこの枠組みを設け、区市町と連携して防除を進めてきました。2026年4月現在、計画に基づく防除を行う参加自治体は50です。内訳は22区、25市、3町で、以前より参加範囲が広がっています。 

さらに農作物獣害対策事業で取り組む自治体を含めると、対象53自治体のうち51自治体が何らかのアライグマ・ハクビシン対策を行っています。したがって「計画参加自治体数」と「実際に対策を行う自治体数」は別の指標です。 

東京都の生物多様性政策では、本土部のアライグマ・ハクビシンについて、生態系、農業、生活環境の被害軽減に加え、生息数の削減と分布域の縮小を目標として示しています。また、捕獲、モニタリング、被害防止を区市町村と連携して進める方針です。 

アライグマについては特定外来生物です。環境省の外来生物法制度では、特定外来生物の飼養・保管・運搬、放出等が原則規制され、2023年施行の改正法以降、都道府県が必要に応じて防除を実施する制度も整理されています。 

ハクビシンは特定外来生物ではありませんが、鳥獣保護管理法の捕獲規制の対象となる野生鳥獣です。東京都は両種を有害鳥獣捕獲対象としており、無許可で野生鳥獣を捕獲できない旨を明示しています。 

この制度差は、読者にとって結局どちらも役所へ相談するのだから同じに見えるかもしれません。しかし法的には重要です。特にアライグマは捕獲後の保管・運搬・放出にも外来生物法上の規制が関係します。かわいそうだから自分で別の公園へ逃がすといった自己判断を勧められない理由の一つです。 

では政策の効果は何頭捕ったかで測ればよいのでしょうか。

捕獲数は必要な指標ですが、それだけでは不十分です。捕獲を強化すれば、短期的に捕獲数が増えることがあります。逆に捕獲数が減っても、個体数が減ったのか、捕獲努力量が減ったのか、捕獲しにくい場所へ分布が移ったのかを頭数だけでは判別できません。狭山丘陵の研究が捕獲努力量を考慮した指標を用いていることも、この問題を示しています。 

ここからは東京都の公式KPIではなく、本記事上の政策評価案です。

捕獲頭数に加え、捕獲努力量、同一物件での再侵入・再相談、家屋侵入相談、農作物・生活被害、分布域、重点保全地域での在来種の回復状況などを組み合わせて見る方が、捕った結果、問題が小さくなったかに近づきます。

特に住宅地では、捕獲後も餌と侵入口が残れば、別個体が同じ条件を利用する可能性があります。東京都自身が「捕獲」「餌資源の除去」「繁殖場所の除去」をセットで示していることからも、捕獲だけを政策の終点とみなさない方が整合的です。 

「かわいいのに駆除するの?」という違和感をどう考えるか

アライグマやハクビシンを見てかわいいと感じることと、被害対策が必要だと考えることは矛盾しません。

反対に、天井裏の糞尿や騒音、農作物被害を繰り返し受けた人がもう来てほしくないと思うことも不自然ではありません。その感情を、動物への理解が足りないと評価する必要もありません。

外来種管理で判断されるのは、個体の善悪ではなく、その種が置かれた場所でどのような影響を生じさせているかです。環境省の外来生物法も、生態系、人の生命・身体、農林水産業に被害を及ぼす、またはそのおそれのある国外由来生物を制度対象にしています。 

アライグマが悪い動物だから特定外来生物なのではありません。人間が本来の分布域の外へ移動させ、日本の生態系で影響が生じたことが管理の背景です。

ハクビシンの場合はさらに慎重さが必要です。分子系統学的には外来起源を支持する研究がありますが、日本列島への導入経路や時期の細部には研究上の余地があります。人間が近年持ち込んだことが完全に証明されたと一文で片づけない方が正確です。 

また、「共存」という言葉も一つの答えではありません。

屋外を一時的に通過している個体と一定の距離を取ること、住宅への侵入を防ぐこと、希少両生類の繁殖地でアライグマを集中的に防除することは、同じ地域でも目的が違います。東京都が保全地域でアライグマ対策を行うのは、都市住宅の糞尿被害対策とは別の、生物多様性保全という目的があります。 

動物福祉への配慮と個体数管理も、本来は対立語ではありません。必要な防除を制度に沿って行うことと、無用な苦痛や不用意な接触を避けることは両立し得ます。

「かわいいから何もしない」「害獣だから何をしてもよい」という二択を避けること。それが、この問題を都市の野生動物管理として考える出発点です。

東京のアライグマ・ハクビシン問題から見える「都市と野生動物」の境界

東京では、アライグマ・ハクビシンをめぐる行政相談や対策対象地域が長期的に広がってきました。特にアライグマはFY2024に区部856件、多摩854件の種判明相談があり、多摩の山沿いだけの問題という説明では現在の状況を捉えきれません。ハクビシンも区部で2,211件の相談が確認されています。 

ただし、その数字は推定生息個体数ではありません。相談件数は住民と行政の接点、捕獲数は捕獲活動の結果です。参加自治体が増え、対策が51/53自治体まで広がっている現在、行政努力量の変化も数字の読み方に入れる必要があります。 

ここから見えてくるのは、野生動物が東京へ侵入してきたという一方向の物語だけではありません。

都市には、果実、生ごみ、ペットフードなどの食物があり、建物には入り込める空間が生じることがあります。配管、庭木、緑地などは移動に利用され得ます。東京都自身も対策を捕獲だけでなく、餌資源と繁殖場所を減らす問題として捉えています。 

つまり、私たちが野生動物のためにつくったつもりのない都市資源が、結果として野生動物に利用されることがあるわけです。

この解釈は、東京の増加を都市構造だけで説明するものではありません。アライグマの歴史的導入と分布拡大、2種の行動・食性、繁殖、周辺地域との連続性、自治体の捕獲努力、住民の認知も同時に考える必要があります。日本のアライグマ研究は高い環境適応力を示し、東京の狭山丘陵研究は地域内でも生息状況に空間差があることを示しています。 

それでも、政策上は重要な帰結があります。

1頭捕まえたことと、その家や地域が野生動物に利用されにくくなったことは同じではありません。被害を繰り返さないためには、捕獲の是非だけでなく、餌、侵入口、ねぐら候補、再侵入、生活被害、生態系への影響まで見なければなりません。

東京のアライグマ・ハクビシン問題は、動物だけを観察する問題ではなく、私たち自身がどんな都市環境をつくり、どう維持しているかを見る問題でもあります。

野生動物をただ遠ざけることだけでなく、そもそも都市が無意識に提供している餌・侵入口・ねぐらをどう減らすのか。そこまで考えなければ、同じ場所で同じ問題が繰り返されるのではないでしょうか。

関連銘柄

なお、住宅被害対策・害獣駆除サービスという産業面から見ると、関連する上場企業もあります。投資テーマとして整理した記事は下記に分けています。

アライグマ・ハクビシン被害の関連銘柄3選|アサンテ・NITTOH・シェアテク | ブルの道、馬の蹄跡

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