メルコスールとは何か 南米を代表する経済圏の実像と注目理由

メルコスール(MERCOSUR、南米南部共同市場)は、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイを創設国とし、現在はボリビアが新規加盟国として移行期間に入っている、南米を代表する地域統合枠組みです。ベネズエラは法的には締約国として扱われますが、権利義務は停止中で、関連国も加盟国とは区別して見る必要があります。

この枠組みが注目される理由は、ブラジルを中心に農業、鉱業、石油、電力、自動車などの生産基盤を併せ持ち、世界の食料・資源・製造サプライチェーンで無視できない位置にあるためです。ブラジルの2025年輸出では原油、大豆、鉄鉱石、コーヒー、牛肉が上位を占め、アルゼンチンはトウモロコシ、大豆かす、原油、自動車、小麦、牛肉、パラグアイは大豆、牛肉、電力、ウルグアイは牛肉、乳製品、車両、ボリビアは天然ガス、亜鉛、銀、金が目立ちます。

ただし、世界第3位の経済圏という表現は、2026年時点の主要指標ではそのまま使えません。世界銀行の最新国別データを合算すると、メルコスール5カ国の名目GDPは2025年時点で約3.16兆ドル、人口は約2.82億人です。これはEUの21.24兆ドル、USMCAの約34.92兆ドル、RCEPの世界GDP約30%規模、さらにはASEANの3.8兆ドルよりも小さく、普遍的に第3位とは言いにくいからです。

正確に言うなら、メルコスールは南米を代表する地域統合枠組みであり、世界有数の食料・資源・工業供給力を持つ経済圏です。重要なのは順位より、ブラジル偏重の構造、域内分業の実態、対外協定の進展、日本との関係を合わせて見ることです。

メルコスールが今 注目される理由を先に整理

メルコスールが注目される理由は、大きく五つあります。
第一に、ブラジルを核に2.8億人超の人口と3兆ドル超の名目GDPを持つこと。
第二に、大豆、牛肉、鉄鉱石、原油、天然ガス、電力など供給網上重要な品目を持つこと。
第三に、自動車・部品を含む工業基盤が残っていること。
第四に、EU、EFTA、シンガポール、日本との対外経済連携が動いていること。
第五に、米中欧の供給網多角化の文脈で南米の入口としての意味が強まっていることです。
もっとも、統合は不完全で、為替・インフレ・政策変更・国内実施の差が大きい点は同時に押さえる必要があります。

世界第3位は短いキャッチとしては目を引きますが、現時点では信用しない方が安全です。名目GDPでも人口でも、EU、USMCA、RCEPを下回り、名目GDPではASEANよりも小さいためです。現時点では南米を代表する、世界有数の資源・食料供給力を持つ、という表現が整合的です。

メルコスールとは何か 加盟国と仕組み

メルコスールは、1991年のアスンシオン条約に基づいて設立された地域統合枠組みで、目的は財・サービス・生産要素の自由な移動、共通域外関税の設定、対外通商政策の共通化、マクロ政策協調、法制度の調和です。ただし、条約上の目標がそのまま完全実施済みであるわけではありません。メルコスール自身も、自由化の目標を掲げつつ、ルールの国内法化と同時適用の手続きを明示しています。

2026年7月時点で、創設国はアルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイです。ボリビアは2015年の加入議定書署名後、2024年7月に批准書を寄託し、最大4年の法令取り込み期間に入っている「新規加盟国」です。ベネズエラは締約国として記載される一方、ウシュアイア議定書に基づき権利義務が停止されています。関連国はチリ、コロンビア、エクアドル、ガイアナ、パナマ、ペルー、スリナムで、加盟国とは別枠です。つまり、メルコスールは南米全体と同義ではありません。

制度面では、メルコスールはEU型の超国家機関ではなく、政府間主義の枠組みです。主要な意思決定機関は、最高機関の共同市場理事会、執行機関の共同市場グループ、共通通商政策を扱うメルコスール通商委員会で、各国1票、全会一致で決定します。決定は拘束力を持ちますが、必要に応じて各国の国内法に取り込まれて初めて同時発効するため、実施速度に差が出やすい構造です。

この点が、メルコスールとEUの最も大きな違いです。
EUは単一市場・欧州委員会・欧州司法裁判所などを通じた強い執行構造を持ちますが、メルコスールは共同市場を名称に含みつつも、現実には関税同盟を基礎にした政府間協調の色彩が強いです。人の移動については、加盟国の国民がパスポートなしで行き来しやすい旅券・身分証の相互利用制度が整備されていますが、サービスや資本移動の完全な単一市場とは言えません。

世界第3位の経済圏は本当か

2026年時点でメルコスールを普遍的に世界第3位の経済圏と呼ぶのは不正確です。
最新の世界銀行データを基にすると、加盟5カ国の名目GDP合計は2025年で約3.16兆ドル、PPPベースGDP合計は2024年で約6.54兆国際ドル、人口は2025年で約2.82億人です。ブラジル1国で名目GDPの約72%、人口の約76%を占めるため、ブロックの規模感はかなりブラジル依存です。

一方、比較対象を見ると、EUの名目GDPは2025年で21.24兆ドル、人口は4.51億人です。USMCAは米国・カナダ・メキシコの単純合算でも2025年に約34.92兆ドルになります。RCEPは日本政府とシンガポール政府の公式説明で、世界のGDP・人口・貿易のおおむね30%を占めるとされます。ASEANも2023年の結合GDPが3.8兆ドルで、メルコスールの3.16兆ドルを上回ります。

そのため、少なくとも名目GDP、PPP、人口の主要三指標で見れば、第3位は成立しません。仮に古い記事がこの表現を使っていたとしても、それは1990年代から2000年代初頭に、比較対象をEUとNAFTA中心に置いた古い文脈を引きずっている可能性が高いです。実際、1998年や2004年の報道には、EUとNAFTAに次ぐ第3位と表現したものが見られますが、これはRCEPやASEAN、CPTPPなど現在の比較対象を織り込んだものではありません。

指標別の比較表

指標メルコスール主な比較対象検証結果
名目GDP約3.16兆ドル(2025、5カ国合算)EU 21.24兆ドル、USMCA 約34.92兆ドル、ASEAN 3.8兆ドル第3位ではない
PPP GDP約6.54兆国際ドル(2024、5カ国合算)RCEPは世界GDPの約30%第3位とは言いにくい
人口約2.82億人(2025)EU 4.51億人、RCEP 約世界人口の30%第3位ではない
領域・資源供給力南米の中で非常に大きい食料・鉱物・電力で存在感世界有数は妥当

表注:メルコスールは自計算、EU・ASEAN・RCEPは各機関公表値です。RCEPやCPTPPはメンバー重複があり、制度も関税同盟ではないため、単純順位には限界があります。

したがって、正確に表現するなら、世界第3位の経済圏ではなく、「南米を代表する地域統合枠組み」「世界有数の資源・食料・工業供給力を持つ経済圏」が適切です。

主要5カ国の産業構造を理解する

メルコスールは資源国の寄せ集めでも工業圏でもなく、ブラジルの多角的大国経済を中心に、アルゼンチンの農工エネルギー複合、パラグアイの農業・電力、ウルグアイの農牧業・物流・サービス、ボリビアの天然ガス・鉱物が補完し合う構造だという点です。輸出の顔だけを見ると一次産品色が強く見えますが、GDPそのものは各国ともサービス部門の存在が大きく、輸出構成と産業構成は同じではありません。

主要5カ国の比較表

GDP・人口輸出の顔主な貿易相手域内での役割主な制約
ブラジルGDP 2.28兆ドル、人口2.13億人原油、大豆、鉄鉱石、コーヒー、牛肉、砂糖中国、EU、米国、アルゼンチン中核市場、製造・資源・農業の三本柱ブラジル依存の集中、制度調整負担
アルゼンチンGDP 6,831億ドル、人口4,585万人トウモロコシ、大豆かす、原油、大豆油、自動車、小麦、牛肉ブラジル、EU、米国、チリ、中国農工複合、エネルギー・食品・自動車インフレ、為替、政策継続性
パラグアイGDP 493億ドル、人口701万人大豆、牛肉、電力、大豆油、大豆かす、トウモロコシ、ワイヤリングブラジル、アルゼンチン、チリ農業・水力・マキラの供給拠点内陸物流、外需依存
ウルグアイGDP 853億ドル、人口338万人牛肉、粉乳、大豆、車両、コメ、麦芽ブラジル、中国、米国、EU農牧品、港湾・物流、サービス拠点小国ゆえの市場規模制約
ボリビアGDP 648億ドル、人口1,258万人天然ガス、亜鉛、銀、金、大豆副産物、錫ブラジル、中国、EU、日本鉱物・ガス供給、新規加盟国物価不安定、移行途上、制度整備

表注:GDPと人口は世界銀行の最新公表値、輸出と相手先はWTOプロフィールの最新値を使用。アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイ、ボリビアの貿易データ年は主として2024年、ブラジルは2025年で、厳密比較には注意が必要です。

ブラジル 多角的な大国経済

ブラジルはメルコスールの規模と多様性を一手に引き受ける国です。2025年のGDPは約2.28兆ドル、人口は約2.13億人で、ブロック名目GDPの約72%を占めます。輸出は原油と大豆が双璧で、鉄鉱石、コーヒー、牛肉、砂糖、木材パルプ、トウモロコシ、大豆かすが続いています。相手先は中国が28.7%と突出しつつ、EU、米国、アルゼンチン、日本にも輸出しており、単一市場依存ではありません。

産業面では、農業と鉱業が目立つ一方で、工業とサービスを合わせた厚みが大きいのがブラジルの特徴です。IBGEによれば、2025年のGDP成長率は2.3%で、農業、工業、サービスのいずれも成長しました。つまり、ブラジルを一次産品輸出国だけで説明すると、国内市場・製造基盤・金融サービスの大きさを見落とします。

アルゼンチン 農業 エネルギー 製造業の複合構造

アルゼンチンは、農業輸出国のイメージが強いものの、実際には農業、エネルギー、自動車を併せ持つ複合経済です。2025年のGDPは約6,831億ドル、人口は約4,585万人です。WTOプロフィールでは、2024年の主要輸出品はトウモロコシ、大豆かす、原油、大豆油、自動車、小麦、大豆、牛肉、金で、相手先はブラジル、EU、米国、チリ、中国に分散しています。

一方で、マクロ面の制約は大きいです。世界銀行の国別ページでは、2024年の消費者物価上昇率が219.9%と極端に高く、2025年も制度・為替・金融環境への警戒が必要です。つまり、産業の裾野は広い一方、価格安定と政策継続性が企業活動の大きな制約になります。

パラグアイ 農業 電力 内陸物流

パラグアイの経済規模は小さいですが、メルコスール内部での役割は明確です。2025年のGDPは約493億ドル、人口は約701万人です。主要輸出は大豆、牛肉、電力、大豆油、大豆かす、トウモロコシで、輸出先はブラジルとアルゼンチンで6割以上を占めます。さらに、ワイヤリングなどマキラ由来の工業財も見え始めており、農業だけの国とは言い切れません。

また、パラグアイは電力供給国としての性格が極めて強いです。イタイプ二国間発電所は、パラグアイの消費電力の約90%、ブラジルの約10%を供給しています。中央銀行の報告でも、輸出見通しや外需動向に電力輸出が影響することが繰り返し指摘されています。

ウルグアイ 農牧業 サービス 制度と物流の拠点

ウルグアイは小国ですが、農牧品輸出、制度安定、物流・サービスの使いやすさで存在感があります。2025年のGDPは約853億ドル、人口は約338万人です。WTOプロフィールでは2024年輸出の上位に牛肉、粉乳、大豆、車両、コメ、麦芽が並び、輸出先はブラジル、中国、米国、EU、アルゼンチンです。Uruguay XXIによれば、2025年の物品輸出は134.9億ドルで過去10年の最高水準となり、牛肉が最大の輸出品でした。

加えて、ウルグアイはサービス面も無視できません。WTOのケーススタディは、同国の近代的サービス輸出をダイナミックな分野と位置づけています。つまり、ウルグアイは農牧業国であると同時に、域内の安定的な物流・サービス拠点として理解した方が実態に近いです。

ボリビア 鉱物 天然ガス 加盟移行中の新加入国

ボリビアは2026年時点でメルコスールの新規加盟国ですが、なお移行期間中です。2024年7月の批准書寄託後、最大4年でメルコスールの規範体系を取り込むことになっており、制度的には完全に既存4カ国と同じ状態ではありません。

経済構造では、天然ガスと鉱物の比重が大きいです。世界銀行では2025年GDPが約648億ドル、人口が約1,258万人、成長率はマイナス1.6%、インフレ率は19.5%とされます。WTOプロフィールでは、輸出上位は天然ガス、亜鉛鉱、銀鉱、金、錫、大豆副産物で、輸出先はブラジル、中国、EU、日本、ペルー、韓国、アルゼンチンなどに広がります。加盟移行中の新メンバーとして、資源供給面の存在感は大きい一方、マクロ安定と制度取り込みが課題です。

各国はどう結び付くのか 域内分業と域外貿易

メルコスールの実像は、域内貿易比率だけでは測れません。EUほど域内比率が高いわけではなくても、自動車、農産物、電力、資源、港湾物流で国ごとの役割分担が存在します。ブラジルが最大市場であり製造と需要の中心、アルゼンチンが農工複合、パラグアイが農産物・電力・一部マキラ、ウルグアイが農牧品と物流、ボリビアがガス・鉱物という構図です。

自動車・部品では、ブラジルとアルゼンチンの結び付きが特に重要です。両国はALADIのACE14に基づく自動車取り決めを更新しており、2025年には第46追加議定書がブラジル側で国内実施されました。メルコスールの自動車分業は、純粋な域内関税撤廃だけでなく、原産地規則や二国間取り決めを組み合わせた現実的な制度運用の上に成り立っています。

農畜産・食品では、ブラジル、アルゼンチン、パラグアイの大豆複合と、ウルグアイの牛肉・乳製品が補完的です。パラグアイは大豆・牛肉・電力、ウルグアイは牛肉・粉乳、アルゼンチンはトウモロコシ・大豆かす・大豆油、ブラジルは大豆・牛肉・砂糖・コーヒー・トウモロコシを大量に輸出しており、域内での加工・積み替え・需要の差がサプライチェーンを形づくっています。

エネルギー・電力では、パラグアイの役割が際立ちます。イタイプはブラジルとパラグアイの二国間発電所で、パラグアイの国内需要を大きく超える発電能力を持ち、ブラジルにも電力を供給しています。ボリビアは天然ガス輸出国としての性格が強く、ブラジルやアルゼンチンとの関係でもエネルギーが重要です。

域外では、中国、EU、米国の存在が圧倒的です。ブラジルの輸出先は中国が最大で、EU、米国、アルゼンチンが続きます。アルゼンチンはブラジル依存が比較的大きいものの、EU、米国、中国も重要です。ウルグアイはブラジルと中国を両輪とし、ボリビアはブラジル、中国、EU、日本に取引が広がっています。つまり、メルコスールは域内だけで閉じた経済圏ではなく、域内分業と域外需要の両方で成立しているブロックです。

なぜ今なのか 対外協定と世界の供給網再編

今メルコスールを追う価値が高い最大の理由は、対外協定が「交渉中」から「署名」「暫定適用」「発効」へ進んでいるものが増えたからです。近年のメルコスールは、内向きな関税同盟としてだけでなく、対外接続を広げる通商プラットフォームとして見た方が実態に近くなっています。

主要対外協定の進行状況

相手状態主な根拠
EU2024年12月に交渉妥結、2026年1月に署名、暫定貿易協定は2026年5月1日から暫定適用欧州委員会・EU理事会
EFTA2025年7月に交渉妥結、2025年9月署名、2026年7月時点で未発効EFTA事務局・メルコスール
シンガポール2023年12月署名、2026年2月にシンガポール・パラグアイ間、同年3月にシンガポール・ウルグアイ間で二国間発効シンガポールMTI・メルコスール
日本2025年12月に戦略的パートナーシップ枠組み開始、2026年6月にEPA立ち上げ共同声明日本外務省
韓国交渉継続・署名前メルコスール公式アーカイブ

表注:交渉妥結、署名、暫定適用、発効は別段階です。特にEU案件は「署名済み」と「全面発効」を混同しない必要があります。

EUとの関係は象徴的です。欧州委員会によれば、メルコスールとの協定は2024年12月に政治合意へ達し、2026年1月17日に署名、暫定貿易協定は同年5月1日から暫定適用に入りました。ただし、EU理事会自身が示すとおり、包括的パートナーシップ協定の全面発効には別途の手続きが必要です。つまり、「署名済み」と「全面的に発効済み」は同義ではありません。

EFTAとのFTAも、2025年7月の交渉妥結、9月の署名まで進みましたが、2026年7月時点ではなお発効待ちです。シンガポールとのFTAは、2023年12月に署名後、2026年に相手国ごとの国内手続き完了に応じて二国間ベースで発効し始めています。ここでも、メルコスールの対外協定は一斉に全部発効というより、相手側・加盟国側の国内手続きに応じて進むことが分かります。

ここからは推論です。公開情報から考えると、メルコスールが今注目されるのは、食料、金属資源、原油、天然ガス、水力、自動車市場を抱えながら、対外協定を再び動かし始めたためです。世界の供給網が一点集中から分散へ向かう中で、メルコスールは単なる農産物供給地ではなく、資源・食料・製造・市場の複合拠点として見直されています。

日本にとってメルコスールは何を意味するか

日本にとってメルコスールは、遠い南米市場以上の意味を持ち始めています。2025年12月に日本とメルコスールは戦略的パートナーシップ枠組みを立ち上げ、2026年6月には日本・メルコスールEPAの立ち上げ共同声明まで進みました。日本政府自身が、通商・投資の関係深化を戦略的テーマとして扱い始めたことは重要です。

経済面では、日本がメルコスールを見る理由は大きく三つあります。
第一に、食料と資源の供給網です。ブラジルは原油、大豆、鉄鉱石、コーヒー、牛肉の大型輸出国で、ボリビアは天然ガス、亜鉛、銀、金、錫を輸出しています。
第二に、自動車・機械・部材の市場と生産ネットワークです。ブラジルとアルゼンチンは自動車が輸出上位に入り、パラグアイはワイヤリングのような部材輸出も持ちます。
第三に、脱炭素と電力・バイオ・素材の観点です。パラグアイの水力、ウルグアイの再エネ比率の高さ、ブラジルの原油と農業の両立は、日本企業にとって調達・投資・事業連携の論点になりやすいです。

一方で、機会だけを見て巨大市場だから有望と考えるのは危険です。アルゼンチンのようにインフレと為替が極端に振れる国もあれば、ボリビアのようにマクロ不安定化が進む国もあります。メルコスールの制度は各国国内法への取り込みを要するため、関税・原産地・規制の扱いが実務上すぐに均一になるわけでもありません。日本企業が見るべきなのは、ブロック全体のサイズより、どの国のどの産業に、どの制度条件で、何を供給するかです。

ここからも推論です。公開情報から考えると、日本の消費者や産業への影響は、完成品輸入よりも、飼料穀物、コーヒー、金属原料、エネルギー、パルプ、部材などのサプライチェーンを通じた間接的な形で表れやすいです。したがって、日本でメルコスールを見るときは、南米向け輸出市場よりも、資源・食料・産業政策・通商ルールの連動として捉える方が実態に近いと言えます。

メルコスールを見るときの注意点と今後の確認指標

メルコスールを見るときの最大の注意点は、経済規模と制度統合の深さを混同しないことです。メルコスールは大きな市場ですが、EUのような単一市場や超国家的執行体制を持つわけではありません。全会一致、国内法化、同時発効という構造上、統合はどうしても遅く、例外や実施差も生まれやすいです。

第二に、ブラジル依存の大きさです。2025年の名目GDPベースでブラジルはブロックの約72%、人口では約76%を占めます。メルコスールの成長や停滞を論じるとき、実質的にブラジル景気を見ているのか、他国も含めた制度変化を見ているのかを分けないと誤解が生じます。

第三に、マクロ不安定です。アルゼンチンの2024年インフレ率は219.9%、ボリビアの2025年インフレ率は19.5%でした。名目GDPのドル換算は為替にも大きく左右されるため、規模や順位を語るときは実体経済と為替要因を分ける必要があります。

第四に、環境・社会・人権や農業基準の論点です。EUとメルコスールの協定をめぐっても、環境・農業・国内産業への影響をめぐる対立は強く、署名後も政治的争点が残りました。自由化は利益だけでなく、調整コストや規制順守コストを伴います。制度評価を一方向に決めつけないことが重要です。

第五に、今後追うべき指標です。実務的には、ボリビアの移行スケジュール、EU協定の正式範囲、EFTA協定の発効、シンガポール協定の加盟国別拡大、日本EPA交渉の正式立ち上げ後の進展、ブラジルとアルゼンチンのインフレ・為替・通商政策、そしてWTOプロフィールで見える中国・EU・米国向け比率の変化を見続けるべきです。これらが変われば、メルコスールの評価も変わります。

よくある疑問Q&A

Q.メルコスールにはどの国が加盟しているのか
創設国はアルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイです。ボリビアは新規加盟国として移行期間にあり、ベネズエラは権利義務停止中です。関連国はチリ、コロンビア、エクアドル、ガイアナ、パナマ、ペルー、スリナムで、加盟国とは別です。

Q.メルコスールとEUの違いは何か
EUは超国家的な制度と単一市場を持ちますが、メルコスールは政府間主義の色彩が強い枠組みです。メルコスールは共通域外関税や財・サービス・要素移動を目標に掲げる一方、意思決定は全会一致、ルールは国内法化を要するため、実施にばらつきが出やすいです。

Q.世界第3位という表現は正しいのか
2026年時点の主要指標では正確ではありません。名目GDPは約3.16兆ドルで、EU、USMCA、RCEP、ASEANなどを下回ります。人口約2.82億人でも第3位ではありません。古い文脈では使われた表現ですが、現在は「南米を代表する地域統合枠組み」と言う方が正確です。

Q.ブラジルとアルゼンチンの主要産業は何か
ブラジルは原油、大豆、鉄鉱石、コーヒー、牛肉、砂糖などの輸出が大きく、農業・資源・工業・サービスを併せ持つ多角経済です。アルゼンチンはトウモロコシ、大豆かす、原油、大豆油、自動車、小麦、牛肉などが主力で、農業、エネルギー、製造業が重なっています。

Q.パラグアイとウルグアイの役割は何か
パラグアイは大豆、牛肉、電力、ワイヤリングなどを通じて農業・電力・軽工業の供給拠点になっています。ウルグアイは牛肉、乳製品、コメ、車両に加え、物流とサービス面で使いやすい小国ハブとしての役割があります。

Q.日本にどのような関係があるのか
日本とメルコスールは2025年末に戦略的パートナーシップ枠組みを立ち上げ、2026年6月にはEPA立ち上げ共同声明まで進みました。日本にとっては、単なる輸出市場というより、食料・資源・エネルギー・産業サプライチェーンの観点で重要性が増しています。

Q.今後どの情報を追えばよいか
ボリビアの移行進捗、EU協定の全面発効条件、EFTA協定の発効、シンガポール協定の拡張、日本EPA交渉、ブラジルとアルゼンチンのマクロ安定、中国向け比率の変化を追うと評価が更新しやすいです。

参考

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Banco Central del Paraguay(2025年12月)「Reporte de Comercio Exterior – Diciembre 2025」BCP, https://www.bcp.gov.py/web/institucional/w/reporte-de-comercio-exterior-diciembre-2025

Banco Central del Paraguay(2026年3月)「Monetary Policy Report Executive Summary March 2026」BCP, URLはBCP配布PDF参照

Itaipu Binacional(2026年)「Integration that generates energy」Itaipu Binacional, https://www.itaipu.gov.br/en

Uruguay XXI(2026年)「Foreign Trade Annual Report – 2025」Uruguay XXI, https://www.uruguayxxi.gub.uy/en/information-center/article/foreign-trade-annual-report-2025/

WTO(2026年)「Uruguay’s approach to foster modern services」WTO, https://www.wto.org/english/tratop_e/ts4d_e/case_studies_e/uruguay.pdf

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