Cannes Lionsで見えたクリエイターエコノミーの本流化

Cannes Lionsでは、クリエイター経済が広告・マーケティングの中心テーマの一つとして扱われ始めています。その根拠は、LIONS Creatorsという専用の場ができたこと、Social & Creator Lionsという部門設計が導入されたこと、広告費がcreator/influencer領域へ移っていること、そして受賞作の評価軸がバズではなくブランド成果や商業成果を含む方向に進んでいることです。いっぽうで、これを単なるインフルエンサーPRや案件投稿と同一視すると、何が変化しているのかを見誤ります。日本企業にとって重要なのは、クリエイターを広告枠ではなく、共創者・コミュニティ接点・コマース接点として見る視点です。

一言でいえば、Cannes Lionsにおけるクリエイターエコノミーの本流化とは、クリエイターが広告キャンペーンの補助役から、ブランド成長・メディア投資・文化形成・購買導線の中核へ移りつつあることです。これは広告会社だけの話ではなく、企業のマーケティング担当者、SNS運用担当者、クリエイター本人、メディア企業、プラットフォーム企業、そして広告・メディア産業を投資テーマとして観察する読者にも関係します。この記事では、その根拠を制度、予算、戦略、成果、AI、規制、日本市場という順番でつないでいきます。

Cannes Lionsとは何か

Cannes Lionsの正式名称は Cannes Lions International Festival of Creativity です。毎年フランス・カンヌのPalais des Festivals et des Congrèsで開催される、広告・マーケティング・コミュニケーション業界の国際イベントであり、世界で最も権威のある広告賞の一つを核にしています。公式サイトでも、Cannes Lionsは「creative marketing communications industry」が集まる場であり、「world’s most prestigious advertising awards」の本拠地だと説明しています。つまり、これは映画祭ではなく、広告とマーケティングの祭典です。

混同されやすい Cannes Film Festival は、別組織の映画祭です。公式サイトは「Festival de Cannes」として映画の公式選考やパルム・ドールを扱っており、開催時期も通常は5月です。Cannes Lionsと場所名が同じでも、目的も審査対象も産業文脈も異なります。この記事では後者、つまり広告業界のCannes Lionsだけを扱います。

なぜCannes Lionsの変化が重要なのか。理由は、このイベントが単に作品を表彰する場ではなく、広告業界が何を高く評価し、どこに予算と人材を寄せ、何を次の標準と見なしているかを映すからです。2026年には約20,050件の応募が92カ国から集まり、約400ブランドがCannesに参加し、LIONS Creatorsを含む専用プログラムを展開しました。これは、Festivalが広告業界の制度・評価・商談のハブになっていることを示しています。

クリエイターエコノミーとは何か

クリエイターエコノミーは、単にSNSで影響力のある人の話ではありません。Goldman Sachsは、個人クリエイターだけでなく、その活動を支えるプラットフォーム、広告収益分配、サブスクリプション、投げ銭、ブランド案件などを含む広いエコシステムとして クリエイターエコノミー(creator economy) を捉えています。2023年時点で世界のクリエイターエコノミーの総アドレス可能市場を約2,500億ドル、2027年には約4,800億ドルと見積もり、収益源としてブランド案件、プラットフォーム収益分配、サブスクや寄付を挙げています。つまり、クリエイターエコノミーは投稿の仕事ではなく、メディア・商取引・コミュニティ・IP・ツール群を含む産業です。

Deloitteも、クリエイターエコノミーは、ブランド、メディア、購買経路との関わり方を変えると整理しています。さらに、クリエイターとインフルエンサーは同じものとして扱える存在ではない、と明言しています。

Deloitteによれば、高い投資対効果を出しているブランドは、クリエイターとの提携・協業への投資比率が高く、複数のクリエイターと関係性を築くネットワーク型の運用を採用しています。また、クリエイターの創造性や長期的な成長支援を重視している点も特徴です。

ここでいうクリエイターは、単なる媒体枠ではなく、企画力と関係資本を持つ存在です。

この違いを実務的に言い換えると、以前のインフルエンサーPRが「ブランドが作った訴求を、フォロワーの多い人に届けてもらう」ものだったのに対し、現在のクリエイターエコノミーは、SNS投稿、動画、ライブ配信、ポッドキャスト、ニュースレター、コミュニティ、アフィリエイト、ライブコマース、商品開発、共創までを含みます。IABは、いまブランドは、クリエイターを単なるSNSパートナーではなく、集客・認知・販売を担う独立したマーケティングチャネルとして見始めています。ここが決定的な違いです。

なぜCannes Lionsでクリエイターエコノミーが本流化しているのか

制度化

Cannes Lionsは2024年に「LIONS Creators」を立ち上げました。公式発表では、これはクリエイターエコノミーのための専用フォーラムであり、学びとネットワーキングの場だと説明されています。

さらに2026年の公式サイトでは、LIONS Creatorsを「Cannes Lionsにおけるクリエイターエコノミーのための専用パス、専用プログラム、専用スペース」と位置づけています。そこには、専用ビーチ会場、ステージ、コンテンツスタジオ、編集スイート、ブランド側の意思決定者と直接つながるネットワーキング、クリエイター向けのトークやワークショップが用意されています。

これは、クリエイターがイベントの周辺参加者ではなく、制度設計の中に組み込まれた当事者になったことを意味します。

しかも、LIONS Creatorsは孤立した施策ではありません。2026年のプログラムには「Inside the Jury Room: Social & Creator Lions」のように、審査の内側をクリエイター向けに開くセッションがLIONS Creators Beachで設けられています。

つまり、Cannes Lionsというフェスティバルの学習、交流、審査理解の導線そのものに、クリエイターエコノミーが組み込まれているのです。

部門化

Social & Creator Lionsの歴史について、Cannes Lionsは公式に明確な説明をしています。もともとSocial & Influencer Lionsは2018年に導入され、Cyber Lionsから発展した部門でした。そして2025年に、この部門はSocial & Creator Lionsへと再定義・改称されました。

さらに同年、Creator & Influencer Marketingという区分が追加され、5つの下位分類も新設されています。これは単なる名称変更ではありません。Cannes Lions側が、クリエイター主導のマーケティングを独立した評価対象として扱う必要があると判断したことを意味します。

その分類設計を見ると、意図はさらに明確です。Social & Creator Lionsには、Creator Cross-Channel Storytelling、Creator Collaboration、Creator-Led Content Strategy、Excellence in Craft、Community Buildingといった項目があります。さらにSocial Commerceも含まれており、評価対象は投稿単体にとどまりません。

ストーリー設計、共創、長期的なコンテンツ戦略、コミュニティ形成、購買導線まで含めて評価する構造になっています。ここまで定義されると、もはやインフルエンサーに投稿してもらう部門ではありません。

予算化

制度変更だけなら、まだイベント内の話で終わります。ですが、広告費の動きもこの変化を裏づけています。

IABの「2025 Creator Economy Ad Spend & Strategy Report」によれば、米国のクリエイター関連広告支出は、2025年に370億ドルに達するとされています。前年比では26%増で、媒体産業全体の成長率より約4倍速い伸びです。さらに、2021年の139億ドルから2024年の295億ドルへと3年間で倍増超となっており、2026年には440億ドルに達すると見込まれています。

またIABは、クリエイター広告の買い手の48%が、クリエイターを必須の買い付け対象とみなしているとも述べています。ここでいう必須の買い付け対象とは、単なる試験的な出稿先ではなく、広告計画に組み込むべき重要な出稿先という意味です。なお、これは米国市場を対象とした数字であり、単位は米ドルです。

eMarketerの定義でも、米国のインフルエンサーマーケティング支出は、2025年に105.2億ドルに達するとされています。これは従来予想より1年前倒しで100億ドルを超える見通しです。

ただし、eMarketerの数字は、米国拠点のクリエイターへのブランド支払いを対象とし、主にソーシャルメディアや動画プラットフォーム上のスポンサードコンテンツ収益を指す、より狭い定義です。つまり、狭い定義でも二桁十億ドル、広い定義で見れば数百億ドル規模ということです。定義に差があるため、IABとeMarketerの数字は直接比較するのではなく、市場規模の幅として読むのが適切です。

WARCも、2026年に向けて増額が見込まれる上位チャネルとして、オンライン動画、インフルエンサー/クリエイターマーケティング、ソーシャルメディアを挙げています。全体予算が厳しくなる中でもクリエイター/インフルエンサー領域が増額候補に残っていることは、この領域が余剰予算の遊び先ではなく、限られた予算をどこへ振り向けるかという優先順位の中に入り始めていることを示しています。

もちろん、予算が増えることは効果を自動的に保証するものではありません。むしろIABが示すように、測定、適切なクリエイター選定、標準化、AI活用のあり方が、今後の重要課題になります。

戦略化

Cannes Lionsを通じて見えてくる変化の核心は、ここにあります。

Unileverは、2026年のCannes現地発信で、クリエイターを媒体経路ではなく協働者と明言しています。DoveのReddit施策では、ブランドがレビューを管理するのではなく、コミュニティが何を広げていくかに賭けています。Vaselineでは、コミュニティが生み出した使い方の工夫を検証・認定し、さらにその発案者たちと新商品を共創したと説明しています。

これは、広告主が企画し、クリエイターが投稿するという一方向のモデルから、明確に離脱していることを示しています。

Deloitteも、効果の高いブランドはクリエイターとの提携・協業を単発施策ではなく、戦略能力として扱っていると述べています。少数の有名人に依存するのではなく、複数のコミュニティの中で関係性の網をつくっていくという考え方です。

さらにDeloitteは、クリエイターが創作上の自由と長期的な支援を求めている点も指摘しています。ブランド側は、その前提を認識する必要があります。

ここで重要なのは、クリエイターが単なる広告枠ではなく、生活者の文脈を理解する事業パートナーとして扱われ始めている点です。

もっとも、すべての企業がこの水準に到達しているわけではありません。これは現在進行形の移行であり、Cannes Lionsはその先頭集団の動きを映していると見るべきです。

成果化

Cannes Lionsは、創造性だけを称賛する場ではありません。

2026年の審査強化では、事実性・正確性に関する宣言の追加、根拠資料の提出、AIによる応募内容の検証、Integrity Handbookの整備など、本当に起きた成果なのかを担保する方向へ進んでいます。

Social & Creator Lionsの部門説明も、単なる話題化にとどまりません。ブランドへの影響、事業目標、コミュニティへの効果、商業成果といった項目に接続されており、ブランドへの貢献、事業上の成果、コミュニティ形成、購買・売上への影響まで評価対象に含まれています。

実際、IABは、クリエイター施策の主目的には認知拡大だけでなく、販売促進も含まれると述べています。Deloitteも、クリエイターは、認知から購買、継続的な関係形成までを含む一連の購買プロセス全体に影響しうると整理しています。

Vaseline Verifiedでも、電子商取引売上の増加や前年比成長といった商業成果が提示されました。

つまり、現在の評価軸は、再生数やフォロワー数だけではありません。ブランド認知・好意度の上昇、購買意向、サイト送客、電子商取引売上、コミュニティ形成、継続的な関係性まで含む方向へ広がっています。

受賞事例・キャンペーンから見る変化

Vaseline Verified

  • ブランド名:Vaseline / Unilever
  • 受賞部門・年:2025年 Social & Creator Lions Grand Prix
  • 確認先https://www.canneslions.com/news/winners-of-the-creative-data-direct-media-pr-and-social-and-creator-lions-announced https://www.lovethework.com/en/work/entries/vaseline-verified-771429

Cannes Lionsの公式発表によれば、2025年のSocial & Creator Lions Grand Prixは「Vaseline Verified」でした。

審査コメントでは、ユーザー生成コンテンツが人を助けることも傷つけることもあるという社会的環境の二面性に向き合い、ブランド、コミュニティ、クリエイターを必然性のある一つのアイデアへ統合した点が評価されています。

The Work上のケース説明では、Vaselineがクリエイターの使い方の工夫を科学的に検証し、VerifiedバッジとTikTok Shopへの導線を通じて、ソーシャル上の発見を高速で購買につながる売場へ変えたと整理されています。

結果として、ブランド言及は+1293%、電子商取引売上は+43%、Petroleum Jellyは前年比+70%成長したと報告されています。

この事例が示しているのは、クリエイターが単なる拡散役ではなく、売場そのものの一部になっているということです。ブランドはメッセージを上から流すのではなく、コミュニティがすでに生み出していた意味や使い方を検証し、公式化し、収益化の導線を与えています。

クリエイターエコノミーの本流化とは、まさに認知の外注から流通・信頼・購買導線の共創への移行だと言えます。

Could Have Been a Heineken

  • ブランド名:Heineken
  • 受賞部門・年:2026年 Social & Creator Lions Grand Prix
  • 確認先https://www.canneslions.com/news/cannes-lions-international-festival-of-creativity-announces-lion-winners-on-day-three https://www.theheinekencompany.com/newsroom/heineken-launches-new-whatsapp-technology-that-swaps-voice-notes-for-real-life-conversations-over-a-beer/

2026年のSocial & Creator Lions Grand Prixは、Heinekenの「Could Have Been a Heineken」でした。

Cannes Lionsの公式発表では、この施策は「WhatsAppのボイスメモを、対面で再会するきっかけへ変えた」仕事として紹介されています。Heinekenの公式発表によれば、3分以上の長いボイスメモをボットに転送すると、無料ビール券と近くのバーの提案が返ってくる仕組みで、ブラジルでテスト開始されました。

ここでは、人々のソーシャル上の行動習慣に対する洞察が、そのまま現実の場での体験と購買導線に変換されています。

重要なのは、この仕事が単なるソーシャルメディア投稿施策ではないことです。Cannes Lionsの審査コメントは、この施策を新しい社会的行動を、最も古い社会的行動へ変換したと評しました。言い換えれば、デジタル上の会話習慣を、対面で会い、飲み、語るという昔ながらの社交行動へ戻したということです。

つまりブランドは、メッセージを投稿したのではありません。デジタル上の行動習慣を、現実の消費行動へ変換する装置を作ったのです。

ここでは、クリエイターエコノミーと社会的創造性が、発話、共有、会話、飲食という実生活の行動変容へつながっています。

Dove R/EAL Reviews

  • ブランド名:Dove
  • 受賞部門・年:2026年 Social & Creator Lions Gold
  • 確認先https://www.lovethework.com/en/awards/winners-shortlists/cannes-lions/social-creator https://www.unilever.com/news/news-search/2026/powerful-brands-grow-through-the-ideas-communities-choose-to-share/

The Workの2026年Social & Creator受賞作品ページでは、「Dove R/EAL Reviews」がGold Lionとして確認できます。

UnileverのCannes 2026レポートによれば、DoveはRedditと組み、Intensive Repair Hair Maskについて最初の50件のレビューを、許可を得たうえで、良い内容も悪い内容も編集せずに公開しました。同社はその結果として、対象商品の売上が前年比100%超増加し、米国で最も売れたヘアマスクになり、10億超の獲得インプレッションを得たと述べています。

この事例は、クリエイターエコノミーの本流化が派手な有名人起用だけではないことを教えてくれます。ここで価値を生んだのは、管理された好意的投稿ではなく、コミュニティが持つ信頼の形式そのものです。

ブランドはレビューの完全統制を手放し、コミュニティの文法を尊重することで、結果的に信頼と売上を得ています。これはクリエイターエコノミーを、インフルエンサー施策より広い参加型メディア設計として理解するのに役立つ例です。

AIブームとの関係

近年のCannes LionsでAIが大きなテーマであることは疑いありません。2026年の公式プログラムには「Advertising in the Age of AI」や、Google DeepMindのDemis Hassabisによる創造性とAIのセッションが含まれ、賞制度側でもAI Craftの下位分類が導入されました。Cannes Lionsは2026年に、AIを単なる便利ツールとしてではなく、人間とAIが組み合わさって初めて成立する表現技術や作り込みを評価するとしています。

ただし、クリエイターエコノミーの本流化は「AIか人間か」という対立ではありません。IABによれば、クリエイターマーケティング関連の作業でAIを使う、または使う予定のブランドは4分の3に達しています。主な用途は、編集補助、アイデア整理、最適化、分析、ターゲティングなどです。言い換えれば、AIは運用や処理を強化する一方で、コミュニティとの信頼、本人性、文化的文脈、ユーモアの温度感、炎上回避の勘所は、依然として人間に強みがあります。

UnileverもCannes 2026で、AIはクリエイター主導のマーケティングを拡張する実現手段だと説明しています。AI Studiosでコンテンツ制作を30%高速化しつつ、クリエイターとの提携・協業と文化理解を競争優位の核に置いています。つまり、AIはクリエイターを消すのではなく、制作補助、検証、運用効率化の層に入り、クリエイターは意味形成と信頼形成の層を担う、という役割分担が現実的です。

一方で、AI生成コンテンツには、透明性、著作権、真正性、ブランド毀損のリスクがあります。Cannes Lions自身も2025年にGlobal Integrity Standardsを打ち出し、AI Integrity Handbookを整備すると発表しましたし、2026年には応募時点での根拠資料提示やAIによる検証も導入しました。AI利用の拡大は「何でも自由になる」ことではなく、むしろ証拠と説明責任が強く求められる方向に進んでいます。

日本ではなぜ見えにくいのか

ここからは解釈です。日本ではこの潮流が「クリエイターエコノミーの再編」より、「インフルエンサー案件」「SNS運用」「ステマ対策」として先に見えやすい構造があります。その背景の一つは、2023年10月1日からステルスマーケティングが景品表示法違反となり、広告表示の透明性が大きな実務テーマになったことです。消費者庁は、事業者が依頼・指示したSNS投稿なども対象に含まれると明示しています。日本ではまず適法な表示、炎上回避、代理店・発注体制の整備が前景化しやすく、それが クリエイターエコノミーをより広い事業テーマとして捉えにくくしている面があります。

一方、海外では、Cannes Lionsがクリエイターを専用パス、専用プログラム、専用審査カテゴリに組み込み、IABやeMarketerもクリエイター/インフルエンサー領域を、独立した予算・戦略テーマとして扱っています。FTCは、金銭提供や商品提供などの重要な関係性の開示を重視し、英国のASA/CAPも、アフィリエイトマーケティングを含め、広告であることを明示するよう求めています。つまり、海外でも透明性規制は厳しいのですが、それと同時に、クリエイターをメディア、商業、信頼形成の基盤として制度的に扱っています。日本との差は規制の有無ではなく、「規制を前提にしたうえで、なおどこまで戦略資産として扱うか」にあると見るのが妥当です。

日本企業への示唆は明快です。クリエイター施策を、案件管理の延長線だけで見ると、Cannes Lionsで起きている変化は理解しにくいでしょう。必要なのは、どのコミュニティに、どの文脈で、どのクリエイターと、どの成果指標で、どの長さの関係を築くかという設計です。これは海外のコピーではなく、日本の法規制・言語圏・商慣習に合わせて組み直すべきテーマです。

以前のインフルエンサー施策と現在のクリエイターエコノミーの違い

以下は、制度・投資・運用の観点から見た整理です。表は本記事の分析整理であり、一般化しすぎないように読む必要がありますが、Cannes Lionsのカテゴリ設計、Deloitte、IAB、規制当局の整理と整合的です。

比較軸以前のインフルエンサー施策現在のクリエイターエコノミー
役割拡散役共創者・メディア・販売接点
施策単位単発案件常時運用・長期関係
指標フォロワー数・再生数ブランド効果・購買・コミュニティ
企画主体ブランド・広告会社中心ブランドとクリエイターの共創
収益接続PR中心アフィリエイト、ソーシャルコマース、商品開発
リスクステマ・炎上それに加えて契約、IP、AI、効果測定、依存リスク
成果認知拡大中心認知、理解、購買、ファン形成、長期資産

この表で重要なのは、昔はだめで、今は正しいという道徳論ではないことです。以前の手法も、短期的な認知獲得や一時的な新商品の拡散には機能します。

問題は、それだけではCannes Lionsが現在評価している、コミュニティ形成、クリエイター主導の戦略、ソーシャルコマース、事業への影響といった領域に届きにくいことです。

メリット・デメリット・注意点

クリエイター施策のメリットは、広告回避が強い層にも届きやすく、コミュニティの文脈に合わせた発信ができ、ブランドに人間味や信頼感を与えやすいことです。Deloitteは、Z世代の35%が購買判断の参考としてクリエイターを見ており、47%がクリエイターによる推奨・紹介に接触した際に、ブランドサイト訪問などの行動を取るとしています。つまりクリエイターは、認知だけでなく、検討や送客にも効きうる媒体です。

一方で、リスクも増えます。IABが挙げるように、適切なクリエイターを選ぶこと、事業成果を測ること、運用を標準化することは難題です。規制面では、日本の消費者庁、米FTC、英ASA/CAPのいずれも、広告表示や重要な関係性の開示を重視しています。さらに、ブランドとクリエイターの価値観不一致、炎上・不祥事の波及、二次利用権、著作権、AI生成物の扱い、プラットフォーム依存などの問題も重なります。

注意点としては、まず有名人に投稿してもらえば成功と考えないことです。Deloitteは、投資対効果の高いブランドが、むしろ複数のクリエイターネットワークを持ち、25万〜50万フォロワー規模を含む複数の層に分散していると示しています。

第二に、広告らしく見えないほどよいという発想は危険です。透明性が欠けると、短期的には自然に見えても、長期的には信頼を壊します。

第三に、成果指標を事前に定義しないと、話題化を成果と誤認しやすくなります。

読者はどう考えればよいか

企業のマーケティング担当者は、クリエイターを広告枠として買う発想から、生活者理解、文脈設計、コミュニティ接点として組み込む発想へ移る必要があります。単発案件だけでなく、長期的な関係づくり、反復運用、二次利用設計、効果指標、法務・表示ルールまでを最初からセットで考えた方が、結果的に再現性は高くなります。IABやDeloitteが示す投資対効果の高いブランドは、まさにその方向に進んでいます。

広告会社・制作会社にとっては、クリエイターを下請け的に使う構図では限界があります。Cannes Lionsの評価項目は、Creator CollaborationやCreator-Led Content Strategyを独立して評価しています。企画の初期段階からクリエイターを巻き込み、ブランドガイドラインとクリエイターの自律性の境界を設計し、AIを補助に使いながら人間の判断を残すことが、制作体制の再設計につながります。

クリエイターにとって重要なのは、投稿力だけではありません。企画力、コミュニティ運営力、ブランド理解、データ理解、契約理解も必要になります。Deloitteは、クリエイターが創作上の自由と長期的な支援を重視していると示し、FTCやASAは広告表示・関係性開示のルールを明確にしています。つまり、今後のクリエイターは投稿者というより、小さなメディア事業者に近づいていきます。

一般読者や投資テーマを探す人は、クリエイターエコノミーを広告だけでなく、メディア、EC、プラットフォーム、AI、IP、コミュニティ運営を横断する構造テーマとして見ると理解が深まります。ただし、それを個別企業の短期株価に短絡させるのは危険です。確認すべきは、Cannes Lionsの制度変更、IABやeMarketerの広告費、ブランド企業の決算資料、規制当局の方針といった公開情報です。

今後の見通し

楽観的な見通しでは、クリエイターがブランド成長の中核的な接点として定着し、効果測定と広告表示ルールが整い、AIが制作補助としてクリエイターの表現力と運用効率を高めます。Cannes Lions側でも、クリエイターとAIの両方を制度として受け止めており、この方向に進む土台はあります。

中立的な見通しでは、クリエイター施策は拡大するものの、商材、地域、業界ごとの差が大きくなります。大企業は常時運用とクリエイターネットワーク化を進める一方、中小企業は限定的な利用にとどまるでしょう。WARCが示すように、予算制約が強い環境では、クリエイター/インフルエンサー領域も増額候補である一方、全社的に無条件で拡大するわけではありません。

慎重な見通しでは、ステルスマーケティング、炎上、効果測定の不十分さ、AI生成コンテンツへの信頼低下、プラットフォーム依存が重なり、投資の一部が見直される可能性があります。だからこそ今後見るべき指標は、Cannes Lionsの部門名と審査基準、LIONS Creatorsの規模と内容、IAB・WARC・eMarketerの広告費、FTC・ASA・消費者庁などの規制更新、そしてブランドの決算資料におけるメディア投資方針です。ここからは推測ではなく、継続的に追うべき論点として押さえておく必要があります。

よくある誤解

Cannes Lionsは映画祭の話だと思ってしまう。
誤解です。Cannes Lionsは広告・マーケティング業界の国際イベントであり、映画祭のFestival de Cannesとは別組織・別目的です。

クリエイターエコノミーはインフルエンサー案件と同じだと思ってしまう。
誤解です。クリエイターエコノミーには、ブランド案件だけでなく、プラットフォームの収益分配、アフィリエイト、サブスクリプション、商品販売、商品開発、コミュニティ運営などが含まれます。

フォロワー数が多ければ成果が出ると思ってしまう。
誤解です。Deloitteは、投資対効果の高いブランドが複数のクリエイターネットワークを構築し、創作上の方向性やブランドとの適合性を重視していると示しています。IABも、課題は適切なクリエイターを見つけることだとしています。

AIが進化すれば人間のクリエイターは不要になると思ってしまう。
誤解です。Cannes LionsはAI Craftを導入しつつも、人間とAIの組み合わせによって生まれる表現技術や作り込みを評価するとしています。IABやUnileverも、AIをクリエイターマーケティングを補助・拡張する役割として扱っています。

海外で流行っているから日本でもすぐ同じ形で普及すると思ってしまう。
誤解です。日本では表示規制、商慣習、言語圏、市場構造が異なり、同じ形での移植はできません。適法性と運用設計を前提に、日本向けに再設計する必要があります。

広告表示を曖昧にするほど自然で効果的だと思ってしまう。
誤解です。消費者庁、FTC、ASA/CAPはいずれも、広告であることや利害関係の開示を重視しています。不自然さを減らす工夫は必要ですが、透明性を削ることとは別です。

バズったキャンペーンは必ず事業成果につながったと思ってしまう。
誤解です。IABも、事業成果の測定を主要課題として挙げています。Cannes Lionsも2026年に、信頼性・公正性や事実性・正確性に関する審査強化を進めています。話題化と事業成果は同義ではありません。

結論

Cannes Lionsにおけるクリエイター経済の本流化は、広告業界がクリエイターを周辺施策ではなく、戦略、メディア、文化、購買導線の中心に置き始めたことを示しています。LIONS CreatorsとSocial & Creator Lionsは、その制度的な象徴です。

成功条件は、フォロワー数や話題性だけではありません。ブランドとの適合性、効果測定のしやすさ、透明性、長期的な信頼が重要になります。

日本企業にとっては、クリエイターを単発の広告枠として使う発想から、共創、コミュニティ、顧客理解のパートナーとして捉える視点へ移れるかが、今後の分岐点になるでしょう。

今後見るべきなのは、Cannes Lionsの受賞傾向、広告費のデータ、AI活用、規制動向です。

よくある疑問Q&A

Q. Cannes Lionsとは何ですか。
A. Cannes Lionsは、正式にはCannes Lions International Festival of Creativityという、広告・マーケティング業界の国際イベントです。毎年フランス・カンヌで開催され、広告賞、学習セッション、商談、ネットワーキングを通じて、世界の創造的マーケティングの基準を示す場になっています。映画祭のFestival de Cannesとは別です。

Q. Cannes Lionsでクリエイター経済が注目されているのはなぜですか。
A. 理由は、Cannes Lions側がクリエイターを制度上組み込み始めたからです。LIONS Creatorsの設置、Social & Creator Lionsへの改称、クリエイター主導のマーケティングを評価するカテゴリ新設がその象徴です。広告費の面でも、クリエイター/インフルエンサー領域は増額対象として重視されています。

Q. LIONS Creatorsとは何ですか。
A. LIONS Creatorsは、Cannes Lions内に設けられた、クリエイター経済のための専用パス、専用プログラム、専用スペースです。2024年に立ち上がり、2026年には専用ビーチ会場、コンテンツスタジオ、編集スイート、クリエイター向けのトーク、ブランド意思決定者とのネットワーキングを備えた仕組みに拡大しています。

Q. Social & Creator Lionsとは何ですか。
A. Social & Creator Lionsは、Cannes Lionsの賞部門の一つで、ソーシャル上の発想とクリエイター/インフルエンサーマーケティングを評価します。2018年のSocial & Influencer Lionsを前身とし、2025年にSocial & Creator Lionsへ改称されました。Creator Collaboration、Creator-Led Content Strategy、Community Building、Social Commerceなど、投稿以外の領域まで評価対象に含まれます。

Q. クリエイター経済とインフルエンサーPRは何が違いますか。
A. インフルエンサーPRは、ブランドメッセージの拡散に重点を置くことが多い一方、クリエイター経済は、収益分配、コミュニティ、アフィリエイト、商品開発、サブスクリプション、ソーシャルコマースまで含む広い産業です。Deloitteも、クリエイターとインフルエンサーは同じものとして扱える存在ではないと述べています。

Q. クリエイター施策はなぜ広告業界で重要になっているのですか。
A. 消費者がクリエイターを通じて学び、比較し、購買判断し、ブランドとの関係を築くようになっているからです。Deloitteは、Z世代の35%がクリエイターを購買判断の参考にするとし、IABは、ブランドがクリエイターを本格的なマーケティングチャネルとして見始めていると示しています。

Q. AIが進化するとクリエイターは不要になりますか。
A. 現時点では、そうは言えません。AIは編集、翻訳、分析、バリエーション制作、検証などに強い一方で、信頼、コミュニティ対話、文化的文脈、本人性は人間のクリエイターに優位があります。Cannes Lionsも、AIと人間の組み合わせによる表現技術や作り込みを評価しています。

Q. 日本企業にはどのような影響がありますか。
A. 影響は大きいですが、単純な輸入ではうまくいきません。日本では広告表示やステルスマーケティング規制への対応が重要で、同時にクリエイターを長期的な共創パートナーとして設計する必要があります。発注、契約、二次利用、法務、効果測定を含めて再設計することが重要です。

Q. クリエイター経済にはどんなリスクがありますか。
A. 効果測定の難しさ、適切なクリエイター選定、広告表示の不備、ブランドセーフティ、炎上、価値観不一致、契約、著作権、二次利用、AI生成物の扱い、プラットフォーム依存などがあります。日本、米国、英国の当局はいずれも透明性を重視しています。

Q. 今後どの情報を見ればよいですか。
A. まず、Cannes Lionsの部門名、審査基準、受賞傾向、LIONS Creatorsの内容を追うことです。そのうえで、IAB・WARC・eMarketerの広告費データ、規制当局の更新、ブランド企業の決算資料、主要プラットフォームのクリエイター支援機能を見ると、構造変化を把握しやすくなります。

参考

Cannes Lions(2026)「Cannes Lions International Festival of Creativity 2026」Cannes Lions, https://www.canneslions.com/, 閲覧日:2026年07月02日。 

Cannes Lions(2024)「Cannes Lions launches LIONS Creators」Cannes Lions News, https://www.canneslions.com/news/cannes-lions-launches-lions-creators, 閲覧日:2026年07月02日。 

Cannes Lions(2026)「LIONS Creators」Cannes Lions, https://www.canneslions.com/festival/experiences/lions-creators, 閲覧日:2026年07月02日。 

Cannes Lions(2026)「Social & Creator | Lions | Awards」Cannes Lions, https://www.canneslions.com/awards/lions/social-creator, 閲覧日:2026年07月02日。 

Cannes Lions(2026)「What You Need to Know | Social & Creator Lions」Cannes Lions, https://www.canneslions.com/awards/lions/social-creator/what-you-need-to-know, 閲覧日:2026年07月02日。 

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