香りの重ね着~Scent Stacking~とは(レイヤリング、パフューム・レイヤリング)

香りの重ね着(レイヤリング、パフューム・レイヤリング)とは、複数の香りを同時に身にまとい、オリジナルの香りを作り出す手法です。例えば基調となるオイル系やウッディー系の香りに、フローラルやシトラス系を重ね、最後に軽い香りで仕上げるなど、香りの組み合わせを自由に楽しむことが特徴です。実はこの手法は中東で何世紀も親しまれてきた伝統的な習慣でもあり、石油由来のアッター(油性香水)やウード(沈香)などを重ねて自分だけの香りを編み出す文化が根付いていました。現代では「フレグランス・ワードローブ(香りのワードローブ)」と呼ばれ、一つの香水に限らず複数本を揃えて気分や季節で使い分ける発想が一般化しています。

注目される背景(文化的・技術的・心理的要因)

近年、香りの重ね着が注目される背景には、自己表現や個性重視の風潮があります。特にZ世代・ミレニアル世代は自らの個性や気分を香りで表現する傾向が強く、香水を自分らしさを演出するツールとして捉え始めています。調査によれば、45歳以下の香水ユーザーのうち約45%が香りによって自己表現をすると回答しており、若年層を中心に香りによるパーソナライゼーション(個人化)の需要が高まっています。また、社会不安やストレスが増す中で、香りには心理的な落ち着きや幸福感を得る作用があると知られ、香水をセルフケア・ウェルネスの一環と捉える動きも見られます。

技術面では、香料の品質向上や新たな製剤(ソリッドパフューム、香りのプライマー、持続性を高める濃度調整技術など)の開発が進んでおり、香り同士を混ぜ合わせてもバランスよく仕上がる製品設計が可能になっていることも大きな要因です。さらに、SNSやインフルエンサー文化の台頭により香水情報が拡散されやすく、「#PerfumeTok」や「#perfumelayering」といったハッシュタグ動画が世界中でバイラル化しています。たとえば日本のフロントロウ記事では、海外で#perfumelayeringのTikTok動画が再生2,000万回を超えて人気沸騰中であると報じられ、Z世代を中心に香りの重ね着がブームになっていると紹介されました。Pinterestのトレンド予測でも、若者層がオイルと香水を組み合わせるオリジナル香水作りを楽しんでおり、香水コレクションや香りの重ね着への検索が増加していることが示されています。

世界の動向(欧米、韓国を中心に)

欧米市場では、フレグランス市場全体が急成長しており、その主要な牽引役がレイヤリングやパーソナライズ志向の消費者です。米国商工会議所によれば、香水カテゴリは2024年にビューティー部門で最も成長率が高く、Z世代を中心に複数の香水をカクテルのように調合して楽しむ動きが活発化しています。ティーンの香水支出は前年から26%増加し、フレグランスはメイクアップを抜いて最速成長カテゴリとなりました。欧米では若年層の香水購入動向を分析した調査でも、約79%の18–34歳が日常的に香水を使い、平均保有本数がパンデミック前の2.5本から現在は6〜10本に増えていると報告されています。また、高価格帯ブランドだけでなく、手頃な価格の「デュペ(代替品)」やニッチフレグランスにも需要が広がり、グルメ系や新奇な原料を打ち出す商品や、香り自体がエモーショナル・ウェルネスを訴求する流れが出てきています。

韓国においても自分だけの香り作りがトレンド化しています。K-ビューティー市場では、「Layered Scent Wardrobing(香りのワードローブ化)」として呼ばれる動きが注目され、複数の香りを組み合わせて個性的な香りプロフィールを作ることが支持されています。ブランド側もこの潮流に応え、レイヤリングを想定したコレクションやペアリングセットを発売する例が増えています。は、レイヤリングが個性化志向の象徴であるとし、複数香水の組み合わせでシグネチャーアロマを作る文化が浸透していると述べています。

日本国内の普及状況・消費者動向

日本でも香りの重ね着は徐々にメディアに取り上げられるようになっています。ファッション・ビューティ誌やWebメディアでは、FrontRowのように海外SNSで香水の重ね付け(パフューム・レイヤリング)がトレンド入り中と速報的に報じる記事が登場し、TikTokでのハッシュタグ動画の再生回数などが紹介されています。また、メンズファッション誌『MEN’S NON-NO』では春のトレンドキーワードの一つにレイヤリングを挙げ、美の専門家が1種類の香水にとらわれず、自分だけの香りを作るコツとして解説しています。さらに『SPUR』などでは、大手ブランドの「セント・レイヤリングキット」を紹介し、初心者でも気軽に始められると伝えています。

SNS上でも、インスタグラムやTikTokで海外のレイヤリング事例が拡散される中、国内の香水ファンやインフルエンサーも同様の方法で香りを楽しむ投稿を見せ始めています。一方で、消費行動として香水そのものの拡大が起きており、10代〜20代の若者層では香水のコレクションや買い替えが新たな自己表現・ステータスとして認識される傾向があります。国内ブランドや百貨店でも香りのパーソナライズ体験を提案する事例が増加しており、香り付きボディケア製品と香水を組み合わせた使い方など、多彩な提案がなされています。

経済的影響

香りの重ね着の浸透はフレグランス市場に様々な影響を与えています。まず消費者はお気に入り1本だけではなく複数本を購入・所有するようになるため、業界全体の販売量・売上が拡大しています。実際に米国では香水(特に高濃度フレグランス)の売上が急増しており、調査会社サーカナによると2024年の米国エクストラ・パルファム(高濃度型)市場は前年比43%増と好調でした。日本でもフレグランス市場は緩やかな成長傾向にあり、持続性の高い新製品やプリマーの登場といった香りの性能競争により若年層の取り込みが進んでいます。

小売・小分け戦略にも変化が表れています。消費者が複数香水を試したいニーズから、トラベルサイズやディスカバリーセット、レイヤリング専用キットの販売が増加しています。たとえばZARAは8本セットのレイヤリング・ディスカバリーキットを発売し、アイコニックな香り同士の組み合わせをガイドする付属ブックレットを提供しています。Jo Malone Londonも小型の3本セットを発売し、それぞれを組み合わせて新しい香り体験を促すキットを展開しました。

一方、香りの重ね着で複数本の香水を消費する動きは、原料調達や物流にも影響します。香料メーカーはトレンドを受け、高濃度で持続性の高い香料や、他香りと相性の良いシンプルな調合を研究開発しています。前述のZ世代は香りに天然素材やグリーンケミストリーを求める傾向も強いため、持続可能な原料調達やリフィル(詰め替え)対応製品の採用も増えています。小売側は店頭やECで香りの組み合わせ体験を訴求し、パーソナルコンサルティングやオンライン診断ツールで香り選びをサポートする戦略が加速しています。

ブランド・企業の対応・戦略

多くのブランドが重ね着需要に対応し、商品開発やマーケティングを刷新しています。ジョー マローン ロンドンは香りの重ね着をブランドDNAと位置付け、先述の「セント・レイヤリングキット」だけでなく、新グローバルアンバサダー(俳優のインディア・アマルテイフイ)を起用したキャンペーンで、自由な香りの組み合わせを訴求しています。ブランド担当者によれば、そもそも同社の香水は単独使いだけでなく重ね着を想定して設計されており自分だけの香りを創り出すための道具であると説明しています。実際インディア・アマルテイフイ自身も「ポメグラネイト ノアール+グレープフルーツ」「ミルラ&トンカ+グレープフルーツ」などの組み合わせを愛用し、香りを重ねることで唯一無二のブレンドが生まれると語っています。

ZARA(Inditex)も手軽さを活かし、先述のレイヤリングセットを通じてお手頃価格で香り遊びができる商品展開を行っています。Kayali(Huda Beauty系)など新興ブランドの創業者もメディアを通じてレイヤリングのコツを発信し、ムスクやウッド系の重めの香りを土台にして徐々に軽い香りを重ねることをアドバイスしています。高級ブランドではシャネルやディオールといった老舗も各自の定番香水同士の相性を提案したり、ギフトセットで組み合わせパターンを紹介する動きがみられます。総じて、各社は香りはファッションやメイクと同様、自分らしさを演出するツールというコンセプトでパーソナライズ需要に応え、新たな体験価値を提供しようとしています。

今後の課題

香りの重ね着の広がりに伴い、いくつかの課題も浮上しています。ひとつは香害(こうがい)問題です。香りを良いものと感じる人がいれば、他方で化学物質過敏症などで頭痛・吐き気などを訴える人も増えており、公共空間での強い香りの使用は社会的配慮が求められています。重ね着で香りが強くなりすぎないよう指導することや、職場・公共交通での香水使用マナーを周知する必要があります。

また、消費者教育の課題として、香水の使い方・選び方の理解も重要です。香りの重ね着は創造的ではありますが、混ぜる相性を誤ると不快な香りになるため、専門家が勧める基本ルールや「レイヤリングの組み合わせ例」を消費者に紹介する動きが求められます。企業側もパッケージに使用方法を記載するなどの工夫が必要でしょう。

さらに持続可能性の観点も欠かせません。香水を複数使う消費スタイルは資源使用量増加につながるため、原料の調達における倫理性や環境負荷低減が問われます。近年はZ世代を中心に天然香料やエコフレンドリーなパッケージの香水が支持される傾向にあり、将来はサステナブルな香り製品がさらに重要視されるでしょう。

香料規制に関しては、欧州ではEU化粧品指令で26種類のアレルギー物質の表示が義務付けられる一方、日本では2021年時点で香料成分に法規制はなく、成分の安全性はメーカー任せとされています。今後、消費者の健康・安全を守るための法整備や業界ガイドラインの策定、表示強化などが検討課題となっています。

最新研究・市場レポート等

香りの重ね着に関する学術研究は限られるものの、市場調査や業界レポートは豊富に出ています。大手調査会社Mintelは2025年のフレグランストレンドを分析し、特に都市部のZ世代が香りのレイヤリングとパーソナライゼーション(個人化)を志向していることを指摘しています。同報告では、TikTokやInstagramなどのSNSでトレンドが急拡大しており、香りを発見セット(ディスカバリーセット)で試す動きが広がっていると述べられています。

また、米国で発表された市場レポートでは、香水市場はビューティー部門で最も成長が早いカテゴリーとなっており(2014〜2024年で最速成長)、Z世代の男性・女性ともに香水購入・使用が増加していると報告されています。こうしたレポートは香りは新たなステータスシンボル、香りをミックスして自分仕様にするフレグランスワードローブ志向といった現象を裏付けています。韓国市場に関してはKOTRAや業界メディアが香りの個人化、レイヤリングセットの導入を紹介しており、国内外の調査がいずれも若者文化の変化を強調しています。

まとめると、香りの重ね着は香りをファッション化し、自分だけのオンリーワンの香りを創る手法として、世界的に盛り上がりを見せています。SNSやデジタル時代の若者文化と相まって急速に普及しつつあり、日本市場でもメディアやブランドを通じて浸透が始まっています。今後は、消費者教育や香害対策、サステナビリティ・規制への対応といった課題にも留意しながら、さらなる市場拡大と新しい香り体験の開発が進むと予想されます。

参考

<香水の「レイヤリング」という新提案 | ワタシプラス/資生堂>
https://www.shiseido.co.jp/fragrance-beauty/column/layering.html?srsltid=AfmBOopd32qjGRxIqq3wUcswuyCDdtFAYdmorElUYUG-8JRKc-MDvuR_
<Scent Stacking Is Trending—Here’s How To Do It Right>
https://theeverygirl.com/scent-stacking/
<Fragrance Layering Is My Secret for Creating a Signature Scent—Here’s How to Do It | Vogue>
https://www.vogue.com/article/fragrance-layering
<香水を重ね付け!「パフューム・レイヤリング」がTikTokでトレンド入り | フロントロウ>
https://front-row.jp/_ct/17619753/
<Why Are We All So Obsessed With Perfume? Experts Weigh In on the Fragrance Trend>
https://www.harpersbazaar.com/beauty/a69031294/perfume-popularity-trend-explained/
<Make Sense of Scents: Fragrance Trends Now and Beyond | Mintel>
https://www.mintel.com/insights/beauty-and-personal-care/make-sense-of-scents-current-and-future-fragrance-trends/
<エスティ ローダー も加わる「持続性」競争 若年層は香水を性能で選ぶ | DIGIDAY[日本版]>
https://digiday.jp/glossy/beauty-briefing-how-demand-for-longevity-is-driving-the-perfume-market/
<Scent Stacking to Glitchy Glam: Pinterest Predicts Cosmetic and Fragrance Trends for 2026 | Global Cosmetic Industry>
https://www.gcimagazine.com/consumers-markets/news/22957242/scent-stacking-to-glitchy-glam-pinterest-predicts-cosmetic-and-fragrance-trends-for-2026
<How Gen Z and Men are Stirring Up the Fragrance Market | CO- by US Chamber of Commerce>
https://www.uschamber.com/co/good-company/launch-pad/gen-z-and-men-fragrance-boom
<Trends in Fragrance Launches for Korean Beauty 2025>
https://freeyourself.com/blogs/news/fragrance-launch-trends-in-k-beauty?srsltid=AfmBOooNdnsTN9PJLVZvNkgoJyn5CUbpkpZ9nPgxqpnGrEUGON2P9JCR
<新年度は、まとう香りも新しく。8つのトレンドキーワードで探る、春まっさきに欲しい香水【32選】 メンズノンノウェブ | MEN’S NON-NO WEB>
https://www.mensnonno.jp/beauty/fragrance/595349/
<【ジョー マローン ロンドン】のセント レイヤリング キットで秋の香りにシフト #深夜のこっそり話 #2287 – 【SKB】深夜のこっそり話 – ビューティ | SPUR>
https://spur.hpplus.jp/beauty/skb/2025-09-02-iNR0Ng/
<香水が10代の“新ステータスシンボル”、そのワケは? – WWDJAPAN>
https://www.wwdjapan.com/articles/2167545
<DISCOVERY KIT – BASIC COLLECTION 8 x 4 ML (0.13 FL. OZ). | ZARA Canada>
https://www.zara.com/ca/en/discovery-kit—basic-collection-8-x-4-ml–0-13-fl–oz—p20120932.html
<India Amarteifio on Scent Layering | Jo Malone London>
https://www.jomalone.com/india-amarteifio-scent-layering
<香害:甘い香りが引き起こす新たな空気公害 | nippon.com>
https://www.nippon.com/ja/in-depth/d00703/
<Gen Z Fragrance Trends 2025: Sustainability, Gender-Neutral Scents & TikTok Influence>
https://www.accio.com/business/gen-z-fragrance-trends
<02-1_1_04 香料化学物質規制 EUと日本の比較 – 香害図書館 -Kogai Library>
https://kogailibrary.org/2021/10/09/02_1_1_04_chemical_regulation_eu_japan/

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