食トレンドの転換:タンパク質一強から食物繊維・豆・発酵食品へ

概要と背景

ここ数十年、健康志向の潮流ではタンパク質が非常に重視されてきました。筋肉増強や体重管理、満腹感といった効果が注目され、スポーツ選手やボディビルダーだけでなく一般の消費者にも浸透しています。実際、米国では長年にわたりタンパク質摂取量を増やしてきました。ポップタートやスターバックスですらプロテイン強化商品を売っていると報じられています。また2024年の調査では米国消費者の71%がより多くタンパク質を摂ろうとしていると答えており、この数年でプロテインを重視する動きは顕著です。食品メーカーはシリアルやスナック、飲料にプロテインを添加し、パッケージで大々的にアピールする商品を次々と投入してきました。

  • 筋肉・健康目的
    タンパク質は筋肉合成や代謝維持に不可欠な栄養素であり、特に高齢化社会ではサルコペニア予防として推奨されてきました。
  • フィットネスとメディア
    スポーツ選手・インフルエンサーやハリウッドスターのプロテイン摂取がメディアで取り上げられ、一般消費者にも影響を与えました。
  • 食品業界の戦略
    大手メーカーはプロテインバーや高タンパク質パン、プロテイン入りヨーグルトなど関連商品を増加させ、市場を拡大してきました。

これらの背景から、タンパク質は健康のカギというイメージが根付き、プロテイン・ブームが起こりました。一方で、栄養学者のマリオン・ネストレ氏は私たちはすでに必要以上のタンパク質を摂っていると指摘し、過去の低脂質・低炭水化物ブーム同様いずれ収束すると警告しています。専門家は私たちは栄養素を食べているわけではなく食品を食べている。健康的な食事を心がけることが大切だと述べており、栄養素単位の偏重に注意を促す声も強まっています。

転換の兆し

近年、消費者や研究者の関心は腸内環境、サステナビリティ、伝統食の再評価へとシフトしています。特に腸内環境への注目が高まり、食物繊維や発酵食品が健康に有効であるという理解が広まりました。たとえば、食物繊維を腸内細菌が発酵すると短鎖脂肪酸(SCFA)が生成され、腸細胞を養い炎症やがん関連遺伝子発現を制御するといった研究結果があります。また、長期的な疫学研究では、発酵食品の摂取が代謝疾患や一部がん、認知症リスクの低減と関連づけられています。こうした知見は、腸内細菌を育むために何を食べるかだけでなく良い菌を増やす食物繊維が必要だという認識につながっています。

消費者は胃腸の健康を意識して食物繊維を求めるようになり、米国のスーパーではシリアルやパン、クラッカーなどのパッケージに高食物繊維をアピールした商品が並びます。Whole Foodsも2026年のトレンド予測でプロテインの次は食物繊維として、キャッサバやチコリ由来のプレバイオティック素材、オーツ麦(オートミール)などが注目されると伝えています。つまり、腸内環境を整える腸活ブームの浸透が、食物繊維重視への流れを後押ししているのです。

また、環境や持続可能性への意識の高まりも大きいです。豆類(パルス類)は少ない水資源と低い温室効果ガス排出で育つうえ、タンパク質と食物繊維が豊富であるため環境に優しく経済的な食品として注目されています。国連も世界パルスデーで豆類の重要性を強調し、植物性タンパク質としての価値を推進しています。発酵食品に関しても、キムチや納豆、味噌、ヨーグルトなど世界各地の伝統食が見直されています。発酵食品は保存性を高めるだけでなく、栄養価や風味を向上させる伝統技術であり、近年は免疫機能やメンタルヘルスにも寄与するとして再評価が進んでいます。特に日本の味噌や漬物は和食文化の核として知られ、海外からも腸によい健康食として関心が高まっています。

  • 腸内環境への注目
    繊維質食品や発酵食品が腸内細菌に与える好影響が研究で示され、腸活(腸内環境を整える)が一般にも広まりました。
  • サステナビリティと植物ベース
    豆類は動物性タンパク源よりも環境負荷が小さいとされ、植物中心の食生活志向と合致します。代替肉・代替乳製品にも豆類が活用されています。
  • 伝統食の再評価
    乳酸菌飲料や納豆、キムチ、ヨーグルトなど発酵食品は伝統的な食品ですが、健康効果の研究が増え、各国で再び脚光を浴びています。

世界の最新動向

アメリカ

アメリカでは、食物繊維や豆が活発に動いています。Whole Foods Marketの2026年トレンド発表にもあったように、消費者は腸の健康に効く高繊維食品を求めており、パスタやパン、シリアルに食物繊維を添加した新製品が続々と登場しています。一方、アメリカの2025~2030年版「食事摂取基準」では、豆類(乾燥豆・レンズ豆・ひよこ豆など)を従来の野菜グループからタンパク質食品グループに移し、肉類の前に位置づけて摂取増を推奨する方針が示されました。これは豆類が良質なタンパク源であり食物繊維も豊富なことへの評価の表れです。さらにコロナ禍以降、アメリカの消費者の中には今まで納豆を試したことがなかった人も健康志向で取り入れ始めたり、有機レンズ豆入りスープが日常食として浸透するなど、豆・発酵食品への関心が高まっています。

ヨーロッパ

ヨーロッパでも、健康と環境を理由に豆や全粒穀物、発酵食品の人気が上昇している。Innova Market Insightsによれば、欧州の消費者の約4分の1が既に肉を減らすかベジタリアンとしており、その背景には健康や環境配慮があるといいます。EUや英国の栄養ガイドラインでも食物繊維の摂取推奨量が引き上げられ、豆類を積極的に食事に取り入れるよう呼びかけている例があります。また、発酵食品市場も成長中で、ザワークラウトや発酵飲料などEU圏内での消費が増えています。

中国

中国では国の栄養政策が大きく変わっています。最新の2025~2030年版国家食品栄養開発ガイドラインでは、豆類や高品質タンパク質食品、食物繊維摂取を増やす目標が明記されました。具体的には一人当たり年14kgの豆類摂取、1日あたり食物繊維25~30g以上の達成が2030年目標とされ、これに向けて低脂肪・高繊維の食品開発が奨励されています。背景には急速に進む都市化・高齢化に伴う生活習慣病対策や農村の食生活改善があります。また中国でも健康志向や和食ブームを受けて納豆や味噌・漬物といった発酵食品の人気が高まりつつあります。

国際研究・市場トレンド

国際研究・市場トレンドでは、食物繊維や発酵食品に関する科学的知見が急増しています。最近の介入試験では、発酵食品を多く摂る群は腸内多様性が有意に増え、炎症マーカーが減少した一方で繊維豊富食では微生物の分解酵素(CAZyme)は増加したが微生物構成の変化は少なかったことが報告されています。このように、発酵食品と食物繊維では腸内環境への作用が異なるものの、ともに健康効果につながる可能性が示唆されています。市場面でも、グローバルな食品市場では植物性タンパクや発酵食品が成長エンジンとなっており、代替肉市場や発酵飲料市場が拡大しています。実際、世界の発酵食品市場は2024年に約7,500億ドル規模と評価され、年5%超の成長で2032年には1兆1221億ドルに達すると予想されます。同様に、グローバルな代替タンパク質市場も年々拡大しており、パンテリー(栄養成分)としての豆類やキノコ、ナッツ類が多様化しています。これらは、健康と環境の両面でメリットがある食品への関心が世界的に高まっている動きを表しています。

日本の状況

日本でも、消費者意識と食市場の両面で腸活・植物性志向が明確になってきました。近年の調査では、日本人は慢性的に食物繊維が不足しており、健康意識は高いものの日常食にそれが反映しにくいとの指摘があります。そのため、手軽に摂取できる食品への繊維強化ニーズが増えています。実際、スーパーでは全粒粉や大麦・もち麦入りのパン・ご飯、食物繊維強化麺といった主食類が次々投入されています。これにより意識しなくても食習慣の中で自然に摂れる健康が提供されています。また、惣菜や即食商品でも豆類や根菜を多く使ったサラダ、もち麦入りおにぎりなどが増加し、共働きや高齢者らの簡便+健康ニーズに応えています。

発酵食品については、伝統的な日本食材が改めて見直されています。とりわけ納豆は、「ナットウキナーゼ」や大豆イソフラボンなどの健康成分がメディアで注目された影響でバラエティ豊かな商品が流通し、納豆ファンを増やしています。コンビニでは納豆朝食セットや腸活メニューが登場し、ECサイトでは高級国産大豆を使った無添加納豆や地域ブランド納豆が定期購入できるサービスも出てきました。企業サイドも北海道産大豆100%使用やだし風味付きなど付加価値型納豆を続々開発し、味や体験を重視する層を取り込んでいます。こうした動きは日本の物流・技術革新とも連動しており、納豆の低温流通やパッケージ技術の進歩により保存性が向上して遠方販路を拡大できるようになっています。

行政面では、政府・自治体も健康推進に関連した取り組みを進めています。日本政府は生活習慣病対策の一環としてバランスの取れた食事を奨励し、食物繊維豊富な食品の摂取を後押ししています。健康日本21などの国民運動では野菜や豆類の摂取増が掲げられ、学校給食でも納豆や根菜料理を提供する動きがみられます。また自治体レベルでも、腸活セミナーや地域産品を活用した健康メニューの普及キャンペーンなど、食育・消費者教育が活発化しています。これらにより、食物繊維・発酵食品への理解が深まり、市場と生活者の双方で需要を後押ししているといえます。

経済的な影響

食物繊維・豆・発酵食品への関心拡大は市場規模と産業構造にも大きな影響を与えています。まず市場面では、前述の報告のとおり日本の食物繊維市場は2024年約5.7億ドルから2033年に23億ドルまで成長(年CAGR7.1%)すると予測されており、これは消費者の健康志向と機能性食品需要の高まりによるものとされています。発酵食品市場も同様に世界的に拡大し続け、2024年には約7,500億ドルに達し2032年に1兆1,221億ドルと予測されています(CAGR5.17%)。日本国内でも、伝統食の健康価値再評価を受け、味噌や醤油など発酵調味料の市場拡大が見込まれています。たとえば納豆業界では、2023年に国内生産33.7万トン(市販規模約269.5億円)にのぼるほか、健康・発酵ブームで2020年代に生産量が増加しています。輸出面でも納豆は急伸しており、2024年には年間約3,655トン(輸出額約63億円)の実績で、米国向け輸出が前年から26%増の62.2億円と首位を占めました。これらは日本の農産品・食品加工業にとって新たな成長機会となっています。

原材料・農業分野への影響では、豆類の需要増加が挙げられます。前掲の通り豆類は安価で環境負荷が小さく、かつタンパク質・食物繊維源として有望です。実際、世界的に豆類を原料とする代替肉や動植物由来タンパク製品の研究開発が加速しており、オーストラリアやインドでは豆タンパク研究センターの設立が進みます。日本でも大豆・インゲン豆・えんどう豆などの国内生産拡大や品種改良に注目が集まっています。食物繊維原料では、イヌリン(チコリ根由来)、難消化性デキストリン、β-グルカンなど新たな素材の開発が進み、食品業界は素材メーカーと共同で機能性強化商品を次々投入しています。

食品企業の戦略としては、機能性訴求型商品の拡大が顕著です。例えば、大手食品・製粉メーカーはパンやスナックに多種の食物繊維を配合し、商品パッケージで腸内フローラ改善や血糖安定など健康効果をアピールしています。また乳製品業界でも、ヨーグルトや牛乳に食物繊維やオリゴ糖を添加した腸活ヨーグルトシリーズが増加し、健康志向層から支持を得ています。代替タンパク質分野では、植物由来のおからや大豆ミート商品に加え、発酵技術を活用した「動物不使用チーズ」「コンブチャ飲料」など新規カテゴリが生まれており、食品大手のみならずスタートアップのフードテック企業も参入しています。消費者の高機能・おいしさ両立志向に応えるため、味や食感を維持しつつ栄養価を高める技術開発が競われています。

さらに、プレバイオティクス市場も急拡大しています。消費者の腸活意識の高まりと研究成果を背景に、各種食物繊維(イヌリン、レジスタントスターチ、オリゴ糖など)や発酵物由来のプロバイオティクス素材への投資が加速中です。専門家によれば、WHOは世界的に食物繊維不足は深刻な健康問題と警告しており、慢性疾患予防には現在の摂取基準より多く必要かもしれないと指摘しています。こうした見地から、ファンクショナルフード企業は個人の健康ニーズに応じたターゲティング・ファイバー商品の開発を進めています。

今後の課題と展望

これまでの流れを踏まえて、今後の課題と展望を挙げます。まず栄養バランスの再定義が必要です。食物繊維や豆、発酵食品への偏重が進む一方で、タンパク質や他栄養素とのバランスを崩してはなりません。先述のように特定の栄養素ばかりを追いかけるのではなく、全体として健康的な食事を目指すべきという指摘は重要です。極端な一過性の流行に陥ることなく、野菜・果物・穀物・豆・動物性食品を組み合わせた食生活に回帰する考えも根強いです。

  • 消費者教育の強化
    高繊維食は一気に増やすと腹痛やガスを起こすことがあるため、専門家は水分を十分に摂り、徐々に摂取量を増やすことを推奨しています。食物繊維の急増加による消化不良リスクや、大豆アレルギー・グルテン過敏への配慮など、誤解や過信を避けるための正確な情報発信が求められます。
  • 研究とガイドラインの見直し
    現行の摂取推奨量は古い研究に基づくため、最新の疫学・臨床研究を反映して見直す必要があります。発酵食品についても、安全性や効果をより厳密に検証し、適切な摂取法や保存技術を普及させることが重要です。また、プレバイオティクス・プロバイオティクス双方の健康効果を示すエビデンス収集を強化し、食品表示制度や健康強調表示への反映を進められるとよいでしょう。
  • 制度的支援と持続可能性
    政府・自治体は引き続きバランスの取れた食事を支援する政策を講じる必要があります。食育の現場では多様な栄養を取り入れる重要性を教え、食品業界には機能性訴求の商品開発を奨励する助成や規制整備が考えられます。加えて、豆類の農業支援や発酵産品の輸出促進など、サプライチェーン強化による食料安全保障・地域経済活性化策も視野に入ります。最後に環境との両立は不可欠です。植物性食品や発酵技術は温暖化対策に貢献しますが、過剰な資源利用を招かないよう栽培・生産の最適化も求められます。

以上のように、タンパク質偏重から食物繊維・豆・発酵食品重視へのシフトは、栄養・健康・文化・経済の多方面で新たな可能性と課題をもたらしています。今後は専門家の指導の下で科学的根拠に基づいた消費者教育や制度設計を進めることが、健全な食生活と持続可能な食料システムの実現につながるでしょう。

参考

<Fiber is poised to follow protein as the next food fad | AP News>
https://apnews.com/article/fiber-fibermaxxing-digestion-wellness-730bdd5f68f448fe979f4ebd598e2340
<Why Is Everyone Obsessed With Protein? | Vogue>
https://www.vogue.com/article/why-is-everyone-obsessed-with-protein
<“Fibermaxxing” is making people talk about dietary fiber. What does science say?>
https://www.gutmicrobiotaforhealth.com/fibermaxxing-social-media-trend-is-making-people-talk-about-dietary-fiber-what-does-science-really-say/
<Current Research in Fermented Foods: Bridging Tradition and Science – PMC>
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12718192/
<なぜ食物繊維が再注目されているの?健康に欠かせない栄養素の食物繊維について解説します | 中部流通株式会社>
https://www.chuburyutu.co.jp/blog/dietary-fiber
<Whole Foods Market Forecasts the Top Food and Beverage Trends for 2026 – Whole Foods Market>
https://media.wholefoodsmarket.com/whole-foods-market-forecasts-the-top-food-and-beverage-trends-for-2026/
<How pulses are powering global alt protein innovation – The Good Food Institute>
https://gfi.org/blog/worldpulsesday/
<【2025年大注目】世界が注目する発酵食品! | 全国対応!無人売店・社員食堂設置のエムピーアイ株式会社>
https://mpi-inc.jp/newslist/fermented-food/
<Pandemic cuisine: Odd pairings, old favorites on the menu | AP News>
https://apnews.com/article/coronavirus-cuisine-dc1a95fae0c1ae1ee7a691cb8778c50c
<Protein market trends, growth and global shifts. Plant-based protein>
https://www.innovamarketinsights.com/trends/protein-market-trends/
<中国国家食品栄養開発ガイドライン>
https://en.nhc.gov.cn/2025-03/21/c_86413.htm
<健康に良いだけでない「日本食を代表するおいしい食材」納豆を世界へ | 地域・分析レポート – 海外ビジネス情報 – ジェトロ>
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2025/203c869c6b426eab.html
<発酵食品市場規模・シェア |成長レポート [2034]>
https://www.fortunebusinessinsights.com/jp/%E7%99%BA%E9%85%B5%E9%A3%9F%E5%93%81%E5%B8%82%E5%A0%B4-114382
<日本食物繊維市場は、健康志向のトレンドと機能性食品のイノベーションが牽引し、2033年までに23億960万米ドルに達する堅調な成長が予測される | NEWSCAST>
https://newscast.jp/news/3480618
<Fiber-forward F&B innovation targets the gut microbiome and beyond>
https://www.foodingredientsfirst.com/news/fiber-friendly-innovation-gut-health.html

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