Sensory Design(感覚デザイン)とは何か
「Sensory Design(感覚デザイン)」とは、建築やインテリア設計において視覚だけでなく、触覚・聴覚・嗅覚・味覚といった五感を積極的に取り込む考え方です。従来の空間デザインは「見た目の美しさ」を重視する傾向が強かったのに対し、Sensory Designでは「その空間にいる人がどのように感じるか」を第一に考えます。ブルービーム社の解説では「Sensory architecture(感覚建築)」は「五感(触覚、視覚、聴覚、嗅覚、光や暗さに対する感受性など)とウェルビーイングに配慮した設計」を指すと述べられています。より具体的には、デザイナーは「ここは心地よいか? 香りはどうか? 音の響きは? 光の当たり方は? 触ったときの感触は? 味わいは?」といった問いを立てながら空間づくりを行います。その目的は、住まいや仕事場などの空間を五感に訴えかける「癒し」「活力」「安らぎ」「驚き」などの感覚的体験で満たし、利用者の心身にポジティブな影響を与えることです。
<感覚建築が建築環境をどのように再定義するか>
How Sensory Architecture Is Redefining the Built Environment
<2026年に日常生活を向上させる7つの感覚デザイントレンド>
7 Sensory Design Trends That Will Elevate Everyday Living in 2026
<感覚的インテリアデザインの台頭:2026年に向けた多感覚住宅の創造 | Navilize>
The Rise of Sensory Interior Design: Creating Multi-Sensory Homes for 2026 | Navilize
<なぜ感覚デザインなのか? | クーパー・ヒューイット、スミソニアン・デザイン・ミュージアム>
Why sensory design? | Cooper Hewitt, Smithsonian Design Museum
五感の融合と経験価値の重視
人間の経験や記憶は五感の刺激と深く結びついています。コーパー・ヒュイット美術館のセンサリーデザイン展関連資料には、感覚デザインは「触覚・聴覚・嗅覚・味覚と身体の智慧を活性化させ、あらゆる人が世界を受け取り、喜びや社会的つながりを体験できるようにするもの」とあります。実際、温かな木質フローリングを素足で踏む感触、柔らかなファブリックに触れる心地よさ、揺らめく暖色の光の演出、森林や海辺を想起させる芳香などが、空間に居る人の感情や記憶に深く働きかけ、空間そのものを印象深くします。アーチデイリー紙も、「テクスチャー、香り、音などがユーザー体験に強く作用し、感覚建築は人と環境の交流をより深いものにできる」と指摘しています。こうした感覚的要素を意図的に設計に組み込むことで、空間は単なる容れ物ではなく、人の心身を揺さぶり、心地よく包み込む五感テーマパークのような体験場となるのです。
<センサリーデザイン:五感をフルスペクトルに刺激する建築 | ArchDaily>
Sensory Design: Architecture for a Full Spectrum of Senses | ArchDaily
なぜ近年注目されているのか
※本記事の以下の節では、株式会社GAが運営する「LWL online」の記事『【渡我部一成が語る暮らしの哲学】第2章:AI・スマートホームが切り拓く「次世代ウェルネス住宅」の最前線』(取材:杉浦みな子)を中心に、紅中株式会社のウェルビーイング住宅に関する解説記事およびARCOM学会の論文『神経多様性のためのデザイン』など、複数の信頼性ある資料をもとに構成・要約しています。
<【渡我部一成が語る暮らしの哲学】第2章:AI・スマートホームが切り拓く「次世代ウェルネス住宅」の最前線 – LWL online 株式会社GA代表取締役/渡我部一成 取材/杉浦みな子>
https://www.lwl-style.com/post-0000105/
<2025年の住宅トレンド「ウェルビーイング住宅」ってなんだろう? | 株式会社紅中|住宅建材・産業資材・ものづくりのトータルプロデュース>
https://venichu.co.jp/venichu_magazine/id9764/
<Day, K. & Martel, A. (2021) “Designing for Neurodiversity: Reimagining the Home for a COVID Normal Life”>
arcom.ac.uk/-docs/proceedings/aad892e5a964eaa799f58cd817ac6da6.pdf
近年、Sensory Designが脚光を浴びている背景には、いくつもの社会的・技術的要因があります。まず、新型コロナ禍によって私たちは自宅で過ごす時間が大幅に増え、家が単なる寝る場所ではないことを思い知らされました。在宅ワークやオンライン授業の普及で、仕事・学習・娯楽・健康管理など多様な活動がすべて家の中で行われるようになり、住宅の役割が拡大したのです。こうした生活変化を受け、空間が心身に与える影響への関心が急速に高まり、家づくりにおいて健康と幸福(ウェルビーイング)を重視する動きが世界的に広がりました。例えば、長期にわたるステイホーム経験を通じて「空気や光、音、温熱環境がストレスや睡眠、免疫力にまで影響する」と認識する人が増え、住まいを自身を整え、回復させる場所に再定義する動きが加速しています。
また、「働き方改革」やライフスタイルの多様化で、家にいる時間がさらに長くなる傾向も相まって、住宅市場では心身の健康に配慮した設計への需要が急増しています。日本でも「ウェルビーイング住宅」が注目され、コロナ禍以降に家を快適で健康的にする住まいのニーズが急上昇しています。加えて、生活者の価値観自体が変化し、物的充足を超えて、いかに健康で質の高い時間を過ごせるかが住宅選びの重要な軸となりつつあります。こうした背景から「ウェルネス不動産」という概念も生まれ、市場規模は2019年の約2,250億ドルから2024年には約5,480億ドルへと急拡大しており、居住空間における健康性能が不動産価値に直結する時代となっています。
さらに、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)といったスマートホーム技術の飛躍的進化もSensory Designを後押ししています。センサー技術の進化により、室内の光・温湿度・音量などの環境データと、居住者の心拍変動や睡眠データなどをリアルタイムに検知・解析し、AIが最適な室内環境に自律調整するスマート住宅が実用段階に入りました。例えば、人のストレス状態をセンサーがとらえて室内照明の色温度を調整したり、就寝時間に合わせて窓や照明を操作する「サーカディアンライティング(概日照明)」機能などが代表例です。こうした技術は、従来は「便利さ向上」のためだった住宅のIoT化を、「住む人の心身状態に寄り添って最適化する」段階へと押し上げつつあります。
要因を整理すると、(1)AI/IoTを活用した環境センシング技術の進化、(2)先進国富裕層を中心とした価値観の変化(健康・快適性を重視)、(3)コロナ禍で顕在化した住環境の健康影響、の三つが融合した結果、「スマートウェルネス住宅」「ウェルビーイング住宅」という新潮流が生まれたことが挙げられます。これにより、建築・不動産業界でも従来の立地・意匠性に加えてそこに住むことでどれだけ健康でいられるかという健康性能が物件価値の重要指標となりつつあるのです。
世界の最新事例と研究動向
欧米を中心に学術・実務の両面でSensory Designの試みが進んでいます。 建築界ではイギリスのマギーズセンター(がん患者支援施設)やアメリカの「デフスペース(DeafSpace)」プロジェクトなどが代表例です。後者は聴覚障害者向けに視覚や触覚を重視した空間設計で、扉や壁の配置・窓の仕切り方まで五感に配慮しており、Sensory Designの先駆的実践例とされています。また、チャールズ・スペンス(オックスフォード大学教授)らは『Senses of Place』の論文で「建築は伝統的に視覚に偏ってきたが、近年は音や触覚、嗅覚、味覚も意識するデザインが増加している」と指摘しており、家具や内装材のテクスチャーや香り、自然音の導入などが注目されています。さらに、2019年に発表された英国標準規格PAS 6463「Design for the Mind」は、神経多様性(発達障害など)に配慮した住空間設計のガイドラインで、Sensory Designを法規格化する流れも生まれています。
<Charles Spence (2020) “Senses of place: architectural design for the multisensory mind”>
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7501350/
学術的研究でも、Sensory Designは関心領域になりつつあります。メルボルン大学のデイ&マーテルは、コロナ禍における家の再考でASD(自閉スペクトラム障害)対応住宅の事例を分析し、「室内をセンサリーゾーニング(感覚的領域)し、明暗・騒音・硬軟など複数の対比をもたせることで、自宅を認知的に柔軟な空間にできる」と提言しています。これは、高機能な住宅を求める一般層にも応用が期待される知見です。
インテリア・デザイン業界でもSensory Designがトレンドとなっています。米国の『Better Homes & Gardens』誌は2026年の住空間トレンドとして「Sensory Design」を特集し、「インテリアは視覚美を超え、触感・音響・香り・味まで意識した空間へ進化している」と報じました。デザイナーはレイヤードライティング(多層的照明)、手触りの良い素材、没入型オーディオ空間などを駆使し、利用者が落ち着いたり元気になったりする感情を引き出す空間を演出します。同様に、インテリア設計事務所のブログでは「2026年には家がすべての感覚を刺激するよう設計される」とし、天然のファブリックや暖色系の光、静かな空間、優しい香りを用いた「五感に働きかける家」のイメージを紹介しています。これらは市場における消費者の心地よさへのニーズを映した動きで、米国インテリアデザイナー協会(ASID)も「消費者は多層照明・テクスチャ・音響空間などによるマルチセンソリ体験を求めている」と指摘しています。
スマート技術とSensory Designの融合例も登場しています。最新のラグジュアリー住宅では、AI搭載のセンサーが部屋自体を「生きたインターフェース」に変え、感情に応じて照明や音響、香りを自動調整する事例が報告されています。例えば床暖房が居住者の体温や睡眠サイクルに合わせて温度を制御し、照明の色味はストレスレベルに応じて暖かく変化、スピーカーではなく壁から発生する音楽が居住者の動きに合わせて再生される──といった住宅像が提示されています。この「感情を読み取る住宅(Emotion as the new OS)」の概念は、世界各地で富裕層向けに実験的に導入され始めており、居住者の生体リズムや気分に合わせた自動化は高い付加価値を生んでいます。
<リビングインターフェース:アンビエントAIとセンサリーデザインが住まいをどう変えるのか – バロックライフスタイル>
Living Interfaces: How Ambient AI and Sensory Design Are Reshaping Our Homes – Baroque Lifestyle
地域別では、米欧市場は既に比較的成熟し、アジア市場は伸長中です。北米や欧州ではウェルビーイング志向やヒューマンセントリックデザインが浸透し、高品質なウェルネス住宅・オフィスの需要が安定しています。一方、アジア・太平洋地域では都市化と中産階級増加に伴い、健康的な住環境を求める層が急増しています。中国・インド・日本などの都市部では、経済発展と同時に「健康第一」の住宅需要が拡大しており、ウェルネス不動産開発の余地は大きいとされています。
<ウェルネス不動産市場の革新:健康志向が不動産の価値を変える|transparent Bhushan>
https://note.com/transparentnews/n/n132526b62450
日本国内の動向・取り組み
日本でもSensory Designやウェルネス住宅への関心が高まりつつあります。スマートウェルネス住宅関連の国のプロジェクトが組織化され、官民学が共同で研究・普及に取り組んでいます。日本サステナブル建築協会(JSBC)には「SDGs–スマートウェルネス住宅改修研究委員会」が設置され、省エネや低炭素と健康を両立する住まいを推進中です。住宅改修のビフォー・アフターで居住者の健康状態を追跡し、「省エネ住宅化」が疾病予防にも効果をもたらすことを全国規模で分析する研究などが進行中です。また、個別企業でも積極例があります。ウェルネス・ファースト社は「Wellness House」プロジェクトを公開し、住まいにサウナ室や瞑想スペースを組み込みながら、光や緑・空気・水など五感に働きかける要素を随所に配置して、居住するだけで健康行動が促される住宅を提案しています。これは「光・緑・空気・水といった五感に働きかける環境要素を設計に組み込む」という、まさにSensory Design的なアプローチといえます。
<SWH(スマートウェルネス住宅)に関する研究/一般社団法人 日本サステナブル建築協会(JSBC)>
https://www.jsbc.or.jp/research-study/swh.html
<予防医療の社会実装を“住まい”から。Wellness House始動──会員限定オープニングパーティレポート|Wellness>
https://note.com/wellness_doctor/n/n739f4806430e
住宅メーカーや建築業界でもウェルビーイングやSensory Designを意識した動きが見られます。大手ハウスメーカーの積水ハウスはESGレポートで「ウェルビーイングや自然との共生」を住宅事業の主要テーマと位置付けており、国内外で「5本の樹」政策などによる豊かな住環境づくりに取り組んでいます。明和地所やパナソニックなども、建築プロジェクトに快適性や癒しの要素を重視しています。設計事務所でも「五感に訴える和風デザイン」の事例が紹介され、材木からの香りや木肌の手触り、自然光の採り入れによる心地よさを打ち出す住宅が紹介されています。こうした動きは建築雑誌や業界紙でも取り上げられ、「居住空間を感覚の総合体験場にすること」がキーワードになりつつあります。
<積水ハウス ESG FACT BOOK 2025>
https://www.sekisuihouse.co.jp/company/sustainable/library/2025/ESG_factbook.pdf
<日本の建築美と現代の意匠が調和する木のぬくもり溢れる家|オーナーインタビュー|【公式】casaの家|住まいが暮らしをデザインする新しい家づくりの選択肢>
https://www.with-casa.com/lovers/archives/4
スマートホーム技術の導入面でも、日本は先進的です。通信・IoT企業は室内環境制御やヘルスケア連携デバイスを次々発表しており、高齢者見守りや介護支援を含むホームロボット・アシスタントの市場も拡大しています。NN/g調査によれば、日本のスマートホーム市場は2024年に約81億ドル(約1兆1千億円)で、2033年には226億ドルに拡大すると予測されています(年率約10.8%)。こうしたスマート住宅技術は居住者の安全・快適・効率を高めるだけでなく、「心地よい環境づくり(Ambience control)」を志向するユーザー動機とも合致しています。たとえば音声アシスタントで照明やカーテンを操作したり、室内環境データから自動でBGMや照明を変えるシステムなど、Sensory Designを補完する技術開発が進んでいます。
<日本のスマートホーム市場規模は2033年までに226億米ドルを超えると予測|年平均成長率10.80% | NEWSCAST>
https://newscast.jp/smart/news/7996234
<スマートホームにおけるユーザーの最も重視する点と、それに合わせた設計方法 – NN/G>
What Users Value Most in Smart Homes and How to Design for It – NN/G
住宅・不動産・インテリア業界への経済的影響
Sensory Design/ウェルネス住宅は、不動産・建築市場やインテリア産業にも大きな影響を与えています。まず市場規模について見ると、世界の「ウェルネス不動産」市場は極めて大きく、拡大傾向にあります。2024年時点で約4兆8,670億ドル(約537兆円)に達し、2035年には2兆1,802億ドル(約2,405兆円)に成長すると予測されています。年平均14.8%という高い成長率は、健康志向の高まりだけでなくスマートホーム技術の活用や都市化も背景にあるとされます。国内でもウェルネス住宅市場は急成長中で、前述のJSBC調査や企業リポートでは「ウェルネス不動産」「スマートウェルネス住宅」は今後の住宅開発のキーワードとなっています。
住宅建築業界では、健康志向の付加価値が物件価格や賃料を押し上げる動きが顕著です。米国WELL認証住宅では賃料がプレミアム化し、空室率が低下するなど明確な経済効果が報告されています。日本でも省エネ高性能住宅は健康面のメリットが認知されつつあり、断熱・気密性能を高めた家に住むことで血圧が改善した事例が報告されています(タカノスリフォーム)。消費者は少々のコスト増でも「健康・快適」を優先する傾向が強まりつつあり、高気密高断熱、空気清浄、香りや音響機器を備えた住宅の需要が増えています。
<スマートウェルネス住宅|タカノスリフォーム|断熱リフォームを砺波市でするなら>
https://www.takanosu-re.com/smart-wellness
インテリア産業・家具・家電分野でもSensory Design対応製品が注目されます。たとえば家具メーカーは「触り心地の良い天然素材ソファ」や「空気を浄化する観葉植物付きテーブル」などを開発し、建材業界も香りや音響を取り込む天井・壁材を提案しています。スマート家電市場はNN/gの調査によれば2024年に1,300億ドル(約18兆円)規模で、2033年に1兆ドル(約138兆円)超になる見込みで、ムーブメントは拡大しています。これらのうち「快適さを演出する照明」「スマートスピーカー」「環境センサー」などはまさにSensory Designを支えるキーアイテムです。
さらにビジネス環境でも「Sensory Design」「ウェルネス住宅」はブランド・マーケティング上の重要キーワードになっています。上場企業のサステナビリティ報告書や不動産仲介の情報誌では、五感に訴える設計やスマート設備の導入実績をPRし、高付加価値住宅の訴求に活用されています。投資家や住宅メーカーも「住居快適性を高める技術開発・提案は収益性の高いビジネス機会」として注目しており、関連市場は今後数兆円規模まで拡大すると見込まれています。
今後の課題と展望
Sensory Designの普及にはいくつかの課題も存在します。まずコスト面です。高度なセンサーやAI制御システムを導入したスマート住宅や、天然素材・特注家具の活用は依然としてコスト高になりがちです。高級住宅市場ではすでに取り入れられていますが、中堅・一般価格帯の住宅に標準化するには課題があります。また、デザインの標準化も課題です。現時点でSensory Designには明確な設計マニュアルは少なく、実践にはデザイナーの経験や知識に依存する部分が大きい状態です。イギリスのPAS 6463やWELL認証が示すように、感覚や健康性能を評価する指標を統一する試みは始まっていますが、住宅設計全体での普及にはさらなるガイドライン整備が求められます。
都市部と地方の格差も懸念点です。IoTインフラやライフスタイルの違いから、Sensory Designが活用されやすいのはどうしても都市部に偏りがちです。郊外・地方では、コネクテッドデバイスの普及率や建築費などの課題があるため、高度なセンサリー空間づくりは遅れやすい面があります。高齢化が進む地方では、五感デザインを応用した介護住宅や高齢者施設の展開が求められますが、人口減少を背景に新技術導入への投資は限定的になりやすい状況です。
高齢者や障がい者への応用はSensory Designの重要な展開分野ですが、さらなる研究と技術開発が必要です。自閉症スペクトラムや聴覚障がい者の住環境研究は進みつつありますが、たとえば視覚障がい者向けの触覚誘導デザインや、味覚・嗅覚障がい者に配慮した設備など、包括的なユニバーサルデザインとの融合課題が残ります。今後は、ASD住宅の知見やDeafSpaceの経験を高齢者住宅に応用したり、音や光の感受性が異なる人々に対応できる設計ツールの普及が期待されます。
今後の展望としては、Sensory Designは単なるトレンドを超え「住宅設計の新基準」へと成長する可能性があります。世界的なWELL認証の普及や、サステナビリティと健康を両立させるサステナブル×ウェルネスへの注目が示すように、健康配慮は住宅の基本価値となりつつあります。たとえば省エネ住宅の改善が健康・予防医療にも寄与する証拠が得られつつある国内研究などは、Sensory Designの視点を組み込む大きな追い風となるでしょう。技術面では、家電やスマート家具、建材に五感に訴える機能が組み込まれた製品が増えれば、Sensory Designの普及は加速します。例えば、壁や床に組み込まれた照明・音響・アロマ拡散システム、AIを内蔵したホームアシスタントなどが一般化すれば、「五感で感じる家」がより手の届くものになります。
一方で、標準化とコスト低減は喫緊の課題です。デザインマニュアルや認証制度を充実させ、参入企業による価格競争や技術革新を促すことで、Sensory Design住宅の選択肢を広げる必要があります。また、住環境の多様化に対応するために、都市部と地方、高齢者と若年層といったニーズの異なる層に向けた多様な設計モデルの開発も求められます。障害のある方々や高齢者にフォーカスした官民協働のモデル住宅プロジェクトが増えれば、Sensory Designの実用化はさらに進むでしょう。
以上のように、Sensory Design(五感デザイン)は単なる新奇なインテリアトレンドではなく、コロナ禍後の住宅観の変化やウェルビーイング志向の高まり、スマート技術の発展と深く結びついた次世代の住空間設計概念です。世界・日本の最新事例や研究が示す通り、家が五感のテーマパークとなる日は遠くありません。経済規模の面からも今後の成長性が期待される分野であり、一方でコストや標準化、社会的受容性といった課題を克服しながら、より豊かで健康的な暮らしを実現する鍵となっていくでしょう。

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