日本の空き家問題:現状と経済的影響を中心にメモ

空き家問題の現状と概要

日本では近年、居住者のいない空き家が加速度的に増加し、個人の資産問題に留まらず地域社会の景観や安全、経済にまで影響を及ぼす深刻な社会問題となっています。人口減少や都市部への人口集中、税制上の歪みなど構造的要因が複雑に絡み合い、空き家問題は容易に解決できない状況です。

総務省の住宅・土地統計調査(速報値)によれば、2023年時点で全国の空き家数は約900万戸に達し、5年前(2018年)の約849万戸から51万戸増加して過去最多を更新しました。空き家率(全住宅に占める空き家の割合)も13.8%となり、2018年の13.6%から上昇して過去最高です。これは住宅7戸に1戸以上が空き家という計算になり、人口減少に反して住宅ストックだけが増え続ける日本の歪な状況を物語っています。とりわけ問題視されるのは、市場に出される見込みも管理もされず放置されたその他の空き家で、その数は約385万戸(総住宅の約5.9%)と5年間で37万戸増加しました。こうした実需のない空き家が増えていることが、統計からも鮮明に読み取れます。

空き家の分布を地域別に見ると、地方圏で特に顕著です。人口流出が続く地方の県では空き家率が非常に高く、例えば和歌山県・徳島県は21.2%で全国最悪、続いて山梨県が20.5%と、5戸に1戸以上が空き家という深刻さです。また、管理も活用もされていないその他空き家の割合も西日本で高く、鹿児島県13.6%、高知県12.9%、愛媛県・徳島県12.2%などが上位に挙がっています。これらの地域では、向こう三軒両隣に必ず空き家がある状態で、治安や景観への影響も深刻です。一方、東京都の空き家率は2.6%、神奈川県3.2%と低めですが、郊外部では高度成長期に開発されたニュータウン等で高齢化と人口減により空き家が増加しています。実際、東京都の多摩地域では空き家数が八王子市約3.4万戸、町田市2.0万戸、府中市1.8万戸に上るとの調査もあります。このように地方山間部から都市近郊まで、地域によって空き家問題の現れ方は異なるものの、日本全国で空き家が増加傾向にあることは明らかです。

空き家増加の主な原因

空き家急増の背景には、社会構造の変化や制度上の問題、さらには所有者の個人的事情まで様々な要因が絡み合っています。主な原因を以下に整理します。

  • 人口減少と高齢化、核家族化
    根本的な原因は少子高齢化による人口・世帯数の減少です。子どもが減り、大家族から核家族・単身世帯への移行で家を引き継ぐ人が少なくなり、親世代の家が空き家化しやすくなっています。実際、空き家となった住宅の取得経緯では相続による取得が過半数を占めるとの統計もあり、親が亡くなった後に実家を相続したものの、自分自身はすでに持ち家があったり勤務地が遠かったりして住めず、そのまま放置されるケースが多いのです。高齢者のみの世帯では、介護施設や高齢者向け住宅へ転居した後に自宅が長期間空き家になるケースも増えています。
  • 都市への一極集中と住宅供給ミスマッチ
    地方や郊外から都市部への人口集中も空き家増加に拍車をかけています。高度経済成長期やバブル期には郊外開発で新築住宅が次々供給されましたが、住む人のニーズや人口動向と合致せず、需要と供給のミスマッチが生じました。住宅ローンの低金利なども相まって、日本の新設住宅着工戸数は長年高水準を維持し、直近でも年約80万戸もの新築が供給されていますが、その裏で人口減と都心回帰により郊外の住宅は空き家化が進んでいます。かつて通勤圏として栄えたニュータウンも高齢化と若年層の流出で空き家が目立つようになりました。さらに日本では新築信仰が根強く、中古住宅市場が未成熟なため築古物件の資産価値が大幅に下がりやすい傾向があります。耐震基準を満たさない昭和期の家屋や駅から遠い住宅などは買い手がつかず売れない家となって所有者の負担になる例も多く、都市部ですら空き家予備軍が存在します。
  • 相続・所有者側の事情
    前述の通り相続は空き家発生の主要因ですが、所有者の経済的・心理的事情も問題を長引かせます。相続で得た実家に住まない場合でも、固定資産税や維持管理費はかかり続け、負担に感じる所有者は少なくありません。また、親の家を自分の代で処分するのは忍びない、いつか子や孫が使うかもといった心理的・情緒的ハードルも指摘されています。実際、亡くなった親の家財がそのままで手を付けられず時間だけが過ぎたり、親族間で活用方針が定まらず放置されたりする事例も少なくないのです。こうした感情面の要因が所有者の判断を先送りにし、空き家がそのまま残ってしまうケースも多々あります。
  • 税制上の問題(固定資産税の特例)
    日本の税制も空き家放置を助長する一因となってきました。住宅の建っている土地には住宅用地の固定資産税軽減措置があり、200㎡以下の部分は評価額が6分の1、200㎡超部分も3分の1に減額されます(都市計画税も同様に軽減)。しかし建物を取り壊して更地にするとこの特例から外れ、土地の税額が大幅に跳ね上がってしまいます。老朽家屋でも更地より建物付きの方が税負担が安いため、所有者にとって解体せず放置した方が得という逆転現象が生じていました。加えて建物の解体費用も数百万円と高額で、費用をかけた上に税金まで上がっては採算が合わないため、結局何も手を付けず放置してしまうケースが後を絶ちません。この税制の抜け穴が長らく問題視され、近隣に迷惑をかける放置空き家には税優遇を外す措置が近年導入されています(※詳細は後述)。

以上のように、人口動態・住宅政策・税制・相続など多方面の要因が重なった結果、日本では空き家が増え続けています。一方で所有者個々の事情や感情も絡むため解決が難しく、まさに高いハードルの複合問題となっているのが現状です。

空き家が及ぼす治安・防災・行政コストへの影響

適切に管理されない空き家は、所有者だけでなく周辺地域に様々なリスクと負担をもたらします。その代表的なものが防災上の危険と治安・衛生の悪化、そしてそれらへの対応に伴う行政コストの増大です。

  • 倒壊など防災リスクの増大
    空き家は人が住まず手入れが行き届かない状態が続くと急速に老朽化が進みます。日本は地震や台風など自然災害が多いため、長期間放置された建物は構造が弱り、大地震や強風時に倒壊・建材の落下といった危険性が高まります。実際に老朽空き家が強風で一部崩壊し通行人に被害を与えたり、地震で倒壊して道路を塞ぐ例も報告されています。また火災も大きなリスクです。空き家は漏電や放火による火災が発生しても気付かれにくく、一旦火が出れば延焼して周囲に甚大な被害を及ぼしかねません。こうした防災上の問題に対処するため、自治体は危険な空き家の調査や所有者への是正指導、場合によっては強制的な解体措置まで行う必要があり、そのための行政コスト(人件費や解体費用負担等)も増大します。例えば韓国政府の推計では空き家1軒の除却に少なくとも1,500万ウォン(約150万円)が必要で、全国全ての空き家除却には2兆ウォン超(約2,000億円)かかるとされます。日本でも自治体が代執行で解体すれば費用は公費負担となるため、財政上の悩みとなっています。
  • 治安の悪化と衛生問題
    人の出入りがない空き家は犯罪の温床になりやすいと指摘されています。具体的には、不審者の不法侵入や少年のたむろ、ゴミの不法投棄の場となったり、放火の標的にもなりやすいのです。現に各地で、放置住宅に無断で住み着く居住侵入事件や、空き家に盗品が隠されていた事例も報告されています。また一度不法占拠者が居座ると地域の治安上の不安が固定化され、周辺住民に大きな心理的負担となります。さらに、人の気配がない空き家はネズミやゴキブリなど害獣・害虫の繁殖源となりやすく、雑草が生い茂って景観を損ねるだけでなく衛生環境も悪化させます。悪臭が発生して近隣の生活環境を損なう例もあります。このように放置空き家は地域の安全・快適さに対する脅威となり、住民から行政への苦情も多く寄せられることから、自治体は巡回パトロールや雑草伐採など対応に追われることになります。
  • 行政・財政への負担
    上述した防災・防犯対応に加え、空き家問題は行政コストや地域経済にもじわじわと影響を与えます。空き家が増える地域では周辺不動産の資産価値が下落し、新たな住民や企業の誘致が難しくなるため、結果的に人口流出と税収減を招きがちです。人口が減ってもインフラ維持には一定の固定費がかかるため、1人当たりの行政サービス維持コストが上昇するという問題も生じます。実際、野村総合研究所(NRI)は老朽化した危険な空き家(腐朽・破損のある建物)の増加を新たな社会問題として警鐘を鳴らしています。危険な空き家は景観を損ねるだけでなく災害時の倒壊や犯罪誘発の恐れがあり、NRIの予測では2043年には腐朽・破損のある一戸建て空き家が2023年比で2倍以上に増える見込みとされています。こうした空き家放置による外部不経済(ネガティブな影響)は国全体で莫大な損失となり得ます。民間団体の試算によれば、周囲の不動産価値の下落など空き家放置による経済損失は2018~2023年の5年間で約3.9兆円に達するとされています。行政・地域社会にとって空き家対策は防災・防犯だけでなく財政面からも無視できない課題なのです。

空き家問題の経済への影響

続いて、空き家問題が経済に与える影響について、主に不動産市場や地域経済、財政の観点から見ていきます。

  • 不動産価値の下落と資産の劣化
    空き家の増加は不動産市場における需給バランスの悪化を招き、特に空き家密集地域では周辺不動産の価格下落をもたらします。長期間放置された空き家があると、その近隣の住宅も売れにくい、借り手が付きにくいと敬遠され、取引停滞によってさらに空き家が増えるという悪循環に陥りかねません。上述のように民間推計で5年間に3.9兆円もの損失が指摘されたのは、その典型例です。空き家それ自体も、市場価値がほぼゼロに近いまま放置されるケースが多く、本来であればリフォームして再利用したり、更地にして売却するといった資産の有効活用が進まず、経済的に塩漬け状態の資産が増えているとも言えます。また空き家は時間の経過とともに建物の損傷が進み、再利用コストが増大して価値がさらに目減りするため、経済的損失が拡大する一方となります。
  • 地域経済・コミュニティへの打撃
    空き家の増加は地域経済の縮小と密接に関わります。人口が減り家屋が廃れていく地域では、地元で消費する人も納税者も減るため商店の売上や自治体の税収が落ち込み、地域サービスやインフラ維持が困難になります。空き家だらけになると住みたい、事業を興したいという地域の魅力が低下し、人と投資のお金の流出に拍車がかかります。その結果、地域のにぎわいが失われ、経済活動が停滞し、街の活力が削がれてしまう恐れがあります。特に地方の過疎地域では、空き家増加が地域消滅につながりかねない深刻な問題です。反対に都心部では空き家率自体は低くても、低廉な古い住宅の供給過剰が市場を冷やし、住宅価格全体の下押し要因となる可能性があります。また空き家問題への対応費用が自治体財政を圧迫すると、他の地域振興策や福祉施策に充てる財源が削られる懸念もあります。つまり空き家の放置は、その地域の将来世代への経済的負担を増やすことにもつながるのです。
  • 所有者個人への経済的負担
    空き家は所有者にとってもしばしば経済的な負の資産となります。活用していないにもかかわらず、固定資産税や都市計画税といったコストの支払いが発生し続ける上、適切に管理しなければ倒壊や損壊時の賠償責任リスクも負います。特に郊外の古い住宅などは買い手が付かず売却も困難なため、処分できないまま固定資産税だけがかかるという状態に陥りやすく、所有者家族にとって長期的な経済的プレッシャーとなります。前述の通り、更地にすれば税負担増という制度上の問題もあり何もしない方がマシという判断になりがちですが、放置すればするほど建物の価値が下がり解体費用だけが残るため、将来的な損失はむしろ拡大します。早めに専門業者に買取相談する、行政のマッチング制度(空き家バンク等)を活用するなど何らかの対策を講じないと、結局は資産価値の目減りとコストだけが残る結果になりかねません。空き家問題はこのようにマクロ的にもミクロ的にも経済損失を生んでおり、対策が急がれています。

世界各国の空き家問題と対応例

空き家問題は日本固有のものではなく、世界の多くの国・地域で程度の差こそあれ顕在化しています。それぞれの国が抱える背景と対策の例を概観してみましょう。

アメリカ合衆国

アメリカでは2008年の金融危機(リーマンショック)前後から住宅の差し押さえ(フォークロージャー)による空き家が社会問題化しました。当時、多くの人が住宅ローン破綻で家を手放し、全米各地で空き家が急増したのです。現在は経済が回復し改善傾向にあるものの、それでも全米平均で空き家率は約10%前後とされ、地域によってばらつきがあります。例えば人口減が著しいラストベルト(五大湖工業地帯)の都市や、逆に住宅開発ブームで供給過多となったネバダ州・アリゾナ州などでは空き家問題が深刻です。対応策としては、市や郡が空き家を一括取得して管理・転売する「ランドバンク」(土地銀行)の制度を導入したり、デトロイトなどでは治安悪化を防ぐため老朽住宅の大規模な計画解体が行われました。また、コミュニティ開発団体によるリノベーションプログラム(空き家を改修して低所得者向け住宅に再供給する事業)も各地で展開されています。加えて、一部の都市では一定期間以上使われない住宅に課税する空き家税を導入した例(ワシントンD.C.など)や、空き家の改修費用補助で利用促進を図る施策も報告されています。このようにアメリカでは、リーマンショック後の教訓から住宅の差し押さえや投機的空き家を減らす制度作りが進み、直近では空き家率もピーク時より改善してきています。

ドイツ(および欧州)

ヨーロッパでも空き家問題は各国で様相が異なります。ドイツの場合、1990年の東西統一後に旧東ドイツ地域で人口流出が続いた結果、東部の地方都市を中心に大量の空き住宅が生じました。例えば東部のライプツィヒでは統一直後に市全体で空き家率20%近く、地区によっては50%超という状況でした。これに対しドイツ政府は2000年代に「シュタットウムバウ(都市再構築)計画」を実施し、老朽アパートの解体や近代化改修に補助金を出して、市街地の住宅過剰を是正しました。その結果、ライプツィヒは空き家の多くが再生され、近年では若者や芸術家が集う街へと復興した成功例として知られます。一方でベルリンなど西側の大都市では人口流入で住宅不足と家賃高騰が問題となっており、空き家率はむしろ低い傾向です。欧州全体で見ると、スペイン・イタリアのように不動産バブル崩壊で空き家率が高めの国もあれば、ドイツのように比較的低い国もあり、国によって事情はさまざまです。概ね欧州の空き家率は5~10%程度とされています。各国の対策としては、フランスで空き住戸や商店を都市再生の一環で活用する政策が取られたり、イタリアの過疎村で1ユーロ住宅(条件付きで格安販売)といった創意工夫もみられます。ドイツでは上述のように公的資金で需給調整を行ったケースが特徴的ですが、全般に欧州は歴史的建造物の再利用意識が高く、古い住宅でも文化的価値を見出して活用する姿勢が日本より強い点が異なります。

韓国

韓国でも日本と似た人口動態(少子高齢化・一極集中)により、空き家問題が追随して顕在化しています。統計によると2015年時点で韓国全土の空き家は約106.9万戸(空き家率6.5%)でしたが、その後増加傾向が続き、2023年末で約153.4万戸(7.9%)に達しています。2015年比で空き家数は約43.6%も増加しており、特に農村部や地方都市で顕著です。ソウル首都圏を抱える京畿道ですら全体の18.6%を占めるなど、都市近郊にも広がっています。韓国政府は空き家急増を受けて日本の制度を参考に、2018年2月に「空き家及び小規模住宅の整備に関する特例法」を施行しました。この法律で自治体による実態調査や空き家整備計画の策定、所有者への是正命令など法的枠組みが整い、放置空き家への対応が強化されています。具体策としては、自治体が空き家を借り上げ改修して若者向け賃貸住宅に供給するモデルや、空き家の除却費用に対する補助・融資制度などが進められています。また近年ではスタートアップ企業が空き家を借りてリフォームし、ゲストハウス等の宿泊業に活用する「タジャヨ」プロジェクトのような動きもあり、民間レベルでも利活用の取り組みが始まっています。韓国は今後、さらに世帯数が減少に転じる見込みで、ある推計では2050年に空き家が324万戸に達する(2023年比で倍増)とも報じられており、日本以上に速いペースで対策が求められています。

中国

中国では日本や韓国とも状況が異なり、急速な都市化と不動産開発ブームの中で生じたゴーストタウン現象が特徴的です。投資目的で大量に建設された新築住宅が売れ残り、入居者のいないまま放置されている新区画が各地に点在しています。ある報告では、中国の都市部住宅の約20%が空き家で、その数は6,500万戸以上にも上ると推計されています。特に地方の中小都市では経済成長の鈍化で人口が減り、建設された高層団地が丸ごと空になっている例もあります。中国政府はこうした不動産バブルの後遺症に対処すべく、住宅所有者への課税強化など厳格な政策を打ち出しています。例えば地方政府が売れ残りマンションを買い取って公共賃貸住宅(保障房)に転用する計画や、都市部での不動産投機を抑制するための購入制限策などが講じられています。2023年には中央政府が銀行融資を通じて国有企業が一部の未販売住宅を購入し、手頃な賃貸住宅に転用する政策も発表されました。これは大量の空き住戸を社会的に有用な住宅ストックとして活用する試みです。また、都市ごとに空き家への課税(いわゆる空置税)を検討する動きもあります。中国の場合、総人口は近年減少局面に入ったものの都市集中はまだ進んでおり、根本解決には経済構造の調整が必要とされています。それでも、一部のゴーストタウンでは工場誘致や大学キャンパス移転などで徐々に人を呼び戻す努力もみられ、国全体として余剰住宅をいかに消化・活用するかが今後の大きな課題となっています。

このように各国の空き家問題は背景も対策も様々ですが、共通して言えるのは放置すれば治安や経済に悪影響を及ぼすため、行政が介入してでも対策せざるを得ないという点です。先進国のみならず新興国でも、空き家対策は都市政策・住宅政策上の重要テーマとなっており、日本も海外の経験例から学ぶことが多いでしょう。

日本における現行の対策とその効果

日本政府および自治体も、深刻化する空き家問題に対処するため近年さまざまな施策を講じています。その中心的なものが「空家等対策の推進に関する特別措置法」(略して空き家特措法または空家法)です。

空き家対策特措法と特定空家制度

空き家特措法は、空き家の適切な管理や除却を促進するために2015年5月に全面施行された法律です。この法律により、市区町村が地域内の空き家実態を把握し、危険な放置空き家への措置を段階的に行える制度が整備されました。特措法で規定された重要な概念が「特定空家等」です。これは簡単に言えば放置することで周囲に著しい悪影響を及ぼす恐れのある空き家を指し、以下のいずれかに該当する状態のものと定義されています。

  • 建物が傾き倒壊するなど、著しく保安上危険となる恐れがある
  • 著しい悪臭や害虫発生など、衛生上有害となる恐れがある
  • 適切な管理が行われず、周囲の景観を著しく損ねている
  • そのほか周辺の生活環境を著しく悪化させる恐れがある状態

自治体(市区町村長)は、このような特定空家に対し所有者へ是正を促す権限を持ちます。その措置は段階的に行われ、まずは助言・指導から始まり、それに従わない場合や状況が深刻な場合は勧告へと進みます。勧告を受けると固定資産税等の住宅用地特例(先述の税軽減措置)が適用除外となり、土地の税金が大幅に増額されます。この税優遇解除は所有者にとって実質的なペナルティとなり、勧告時には改善期限も示されるため、期限までに除却や修繕など必要な対応を取らなければなりません。さらに正当な理由なく勧告に応じない場合、自治体は命令を発し、命令違反時には最大50万円の過料(罰金)が科される可能性があります。最終的には行政代執行による強制的な解体・撤去も法的に可能となっています。

この特措法施行以降、全国の自治体で危険な空き家の是正が進められ、多くのケースで改善がみられました。国土交通省の発表によれば、2015年度から2022年度末までに延べ4万1,476件もの特定空家等への措置(指導・勧告・命令・代執行等)が講じられています。その結果、特定空家に指定された老朽住宅の約1.2万件が除却など改善に至ったと報告されています。例えば2020年3月時点で全国に約18,000件あった特定空家も、行政の働きかけにより所有者自身が解体・撤去したり修繕したケースが相当数あります。これらの数字は一定の効果を示していますが、とはいえ空き家総数900万戸規模に比べれば氷山の一角です。実際、倒壊など危険性が高い物件から順に対処しているため、多くの空き家は特定空家に指定されるまでには至っておらず、抜本的な解決にはまだ道半ばと言えます。

近年の制度改正とその他の取り組み

行政側も制度の改善を図っており、2023年末には空き家特措法の改正が実施されました。改正では「管理不全空家」というカテゴリーが新設され、将来的に特定空家になる恐れがある段階の空き家についても税優遇の解除等の措置が可能となりました。つまり、これまで特定空家に指定されるまで手を打てなかったケースでも、早めに是正を促しやすくなったのです。また2024年からは相続登記の義務化(不動産を相続したら所有権移転登記を期限内に行うことが義務)がスタートし、所有者不明の空き家問題への対策も講じられます。他にも、空き家の利活用を促進するため空き家等活用促進区域の制度も設けられ、一定の区域内では築年数要件を緩和して建て替えや用途変更をしやすくするなど、使われない空き家を地域のニーズに合わせて転用しやすくする施策が盛り込まれました。

自治体レベルでも様々な取り組みが進んでいます。多くの市町村では空き家バンク(空き家情報の登録・マッチング制度)を開設し、空き家を売りたい・貸したい所有者と買いたい・借りたい希望者を無料で結びつけています。国土交通省も全国版の空き家・空き地バンクサイトを構築し、情報を一元化して利便性を高めています。また、空き家を解体除去する費用やリフォーム費用に対する補助金・助成金制度を設ける自治体も増えています。老朽危険空き家を除去する際の補助や、空き家を子育て世帯向け住宅や地域交流拠点に改修する場合の助成など、地域の実情に応じたメニューが用意されています。自治体職員が一軒一軒空き家を訪問して所有者に意向を聞き取り、利活用を仲介するケースもあります。

さらに民間でも、空き家問題解決に向けた新たなビジネスやプロジェクトが登場しています。例えば不動産会社やNPOが空き家再生ビジネスに参入し、所有者から空き家を借り上げてリノベーションし、民泊施設やシェアハウス、地域カフェなどに再生して運営する事例が各地で見られます。先述の空き家バンクに協力してマッチングを支援するIT企業もあります。自治体と協働して空き家再生の人材育成ワークショップや、空き家活用のアイデアコンペを行う動きもあります。このように官民連携で多種多様な対策が講じられており、空き家問題への社会の意識も高まりつつあります。

現行対策の効果についてまとめると、法律面では枠組みが整備され危険空き家への対応は一定の成果を上げていますが、根本的な空き家総量の削減にはまだ至っていないというのが実情です。しかし各方面で使える空き家は活用し、危険な空き家は除却するという方向性が共有され始めたことは大きな前進と言えます。今後はこれらの取り組みをさらに加速させつつ、後述するような新たな政策やビジネスモデルも取り入れていく必要があるでしょう。

空き家問題の今後の課題と展望

最後に、今後の課題と解決に向けた展望について考察します。空き家問題は長年にわたり深刻化してきましたが、その解決には依然としていくつかの大きなハードルがあります。一方で、新たな政策や技術、ビジネスモデルによって状況改善の糸口も見え始めています。

人口減少時代の避けられない課題

最大の課題は、やはり人口・世帯数の減少という不可逆的なトレンドです。日本では今後しばらく人口減が続くため、住宅需要の総量が縮小し、空き家の発生自体をゼロにすることは困難です。NRIの最新予測でも、住宅総数が伸び悩む中で空き家率は2043年に約25%(4戸に1戸)に達する見込みとされています。現行の対策で危険空き家の増加ペースこそ緩和できても、空き家総数そのものは中長期的には増え続ける恐れがあるのです。この現実を踏まえ、全ての空き家をなくすのではなく管理可能な空き家にとどめるという発想転換も必要でしょう。具体的には、人が住める状態の空き家は出来るだけ利活用し、どうしても需要のない場所・建物は計画的に除却していくという選択と集中の戦略です。国土交通省も都市計画の観点から「コンパクトシティ」政策を推進しており、人口を集約できるエリアにインフラ投資を集中させ、周辺部の空洞化地域は緑地化など含め再編していく方向が模索されています。将来的には行政が主体となって限界集落の集団移転や居住誘導を行う可能性も議論されていますが、住民の権利との調整など課題は多く、実現には時間を要するでしょう。

税制・制度のさらなる見直し

前述のとおり、固定資産税の住宅用地特例については2015年の特措法および2023年改正で「特定空家・管理不全空家」に限定して適用除外する仕組みが導入されました。しかし依然としてそれ以外の空き家には更地より税負担が軽い状況が残っています。今後は思い切って適切に管理されていない空き家は一律に特例適用外とする、あるいは一定期間(例えば5年)以上空き家状態が続いた住宅には課税強化するといった制度も検討すべきかもしれません。諸外国では、例えば英国で住宅の長期空室に追加課税する制度や、前述の米ワシントンD.C.のように放置不動産への高率課税が実施されている例もあります。日本でも「空き家税」の導入について専門家から提言が出始めています。もっとも、単に税負担を上げるだけでは経済力のない所有者には逆効果となりかねず、課税強化とセットで除却・活用への補助拡充や買取制度を充実させる必要があります。また、法制度面では所有者不明土地問題を解消するための仕組みづくりが重要です。相続登記義務化はその第一歩ですが、相続放棄された空き家を自治体がスムーズに処分できるようにする制度や、所有権が曖昧な空き家に対する管理受託制度(自治体や公的団体が代わりに管理・利活用を行う)があると望ましいでしょう。政府は2023年に空き家管理活用支援法人の制度も盛り込み、民間団体が自治体から委託を受けて空き家の管理・流通促進を担う仕組みを作りました。今後5年間で120法人程度の指定を目指す計画で、こうした公民連携の受け皿を増やすことも課題解決につながると期待されます。

空き家の利活用と新たなビジネスモデル

空き家問題を裏返せば、使われていない住宅という潜在的なリソースが大量に存在しているとも言えます。それらを創意工夫で地域の資源として活かす取り組みは、今後ますます重要になるでしょう。例えばテレワーク時代の到来により、都市に居ながら地方の空き家をサテライトオフィスに利用したり、二地域居住やワーケーションの拠点として貸し出すモデルが考えられます。実際、コロナ禍以降に企業が山間部の古民家を借り上げて社員研修施設にしたり、個人が週末移住用に田舎の空き家を確保するといった動きも出てきました。観光分野では、空き家を改修した古民家民宿やカフェが地域の魅力となり、そこに人が集まることで新たな経済循環が生まれている例も各地にあります。空き家再生を専門とするベンチャー企業も登場し、所有者から一括借り上げ(リース)してリフォームを行い、賃貸や宿泊施設として運用するビジネスモデルも現れました。これは所有者にとっては管理や税負担の手間が省け、事業者にとっては安価な物件を活用でき、地域にとっては空き家減少と雇用創出につながる三方良しの取り組みです。国も2023年改正法で空き家活用の優良団体を認定する仕組みを作り、こうしたビジネスを後押ししています。

また技術面では、IoTやビッグデータを活用した空き家管理にも期待が寄せられます。ドローンやセンサーで無人の空き家を遠隔監視し劣化を検知する実証実験が行われたり、自治体がGIS(地理情報システム)で空き家台帳を整備してオープンデータ化し、民間が利活用プランを提案するといった試みも始まっています。これにより、空き家情報の見える化が進めば、ニーズと空き物件のマッチングがより円滑になるでしょう。さらにコミュニティ主導で空き家を地域の共有資産とみなし、住民自ら改修して子どもの遊び場や集会所に転用するケースもあります。行政が全て面倒を見るのではなく、地域住民やボランティア、企業が協働してプロジェクトを立ち上げることで、単なる住宅再生に留まらずコミュニティ再生につなげるアプローチです。

意識改革と総合的なアプローチの必要性

空き家問題解決にはハード対策(制度・事業)とソフト対策(意識啓発・相談支援)の両面が重要です。所有者に対しては空き家を放置すれば資産価値が下がり周囲に迷惑もかかるという認識を広め、早めに何らかの手を打つよう促す啓発が不可欠でしょう。自治体が空き家相談窓口を設け、相続や売却・活用の専門家(建築士や不動産業者、弁護士など)と連携して無料相談に応じる取り組みも増えています。こうした場で所有者の不安や疑問を解消し、具体的な選択肢を提示してあげることが大切です。また地域住民全体で空き家問題に取り組む意識醸成も必要です。隣近所の空き家に関心を持ち、問題があれば行政に通報する、みんなで見守るといった協力体制があれば、治安・防災上のリスクも減らせます。ひいては地域ぐるみで空き家を負の遺産ではなく未来資源と捉え直し、創造的な利用方法を考えていくことが持続可能な社会につながるはずです。

以上のように、空き家問題は人口・経済・文化など様々な要因が絡む複雑な課題ですが、裏を返せば総合政策の腕の見せ所とも言えます。各国の経験も参考にしつつ、多面的な対策を組み合わせていくことで活路が開けるでしょう。空き家は単に誰も住んでいない建物ではなく、地域社会全体の活力や治安、経済にまで影響を及ぼす広範な問題です。だからこそ、行政・民間・地域住民が一丸となり、創意と工夫で空き家を再び社会の役に立つ形に循環させていくことが求められています。人口減少時代における持続可能なまちづくりのため、空き家を如何に管理し活用するかは避けて通れないテーマであり、今まさに私たちの知恵と行動が試されているのです。

参考

<日本の深刻な空き家問題:現状、急増する原因、放置リスク、そして具体的な解決策|ダスキンの空き家管理>
https://akiya.duskin.jp/column/001.html
<【最新データ】全国の空き家は900万戸で増加の一途。このままだとどうなる? | ENJOYWORKS エンジョイワークス>
https://enjoyworks.jp/times/053/
<令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果>
https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/pdf/g_kekka.pdf
<2025年住宅統計が示す“空き家爆発”|売れない家の処分と整理の役割とは – (一社)全国遺品整理業協会>
https://gia-nra.jp/sdgs/1712/
<空き家の問題は高次方程式だ。 大韓民国の慢性的な悩みである低出生·高齢化問題とかみ合っているからだ。 最近の政府発表によると、全国の空き家は13万4009世帯に達する。 このうち42%に達する5万72.. – MK>
https://www.mk.co.kr/jp/journalist/11308355
<「危険な空き家」倍増の恐れ、空き家問題は次のステージへ | NRI JOURNAL | 野村総合研究所(NRI)>
https://www.nri.com/jp/media/journal/20250114.html
<放置空き家が周辺不動産の価格押し下げ 損失3.9兆円の試算 | 協同組合Masters>
https://masters.coop/2024/06/18/%E6%94%BE%E7%BD%AE%E7%A9%BA%E3%81%8D%E5%AE%B6%E3%81%8C%E5%91%A8%E8%BE%BA%E4%B8%8D%E5%8B%95%E7%94%A3%E3%81%AE%E4%BE%A1%E6%A0%BC%E6%8A%BC%E3%81%97%E4%B8%8B%E3%81%92-%E6%90%8D%E5%A4%B13-9%E5%85%86/
<23年度、「管理不全空家」1,019件に指導 | 最新不動産ニュースサイト「R.E.port」>
https://www.re-port.net/article/news/0000076077/
<特定空家の除却も進んでいる | 誠和不動産販売株式会社>
https://www.seiwa-f.jp/column/page_160.html
<空き家法の改正(2023年)と相続登記義務化|3つの対策を解説 | 地域特化型ポータル 不動産連合隊>
https://rengotai.rals.co.jp/column/vacanthouse-law2023
<建設産業・不動産業:空き家・空き地バンク総合情報ページ – 国土交通省>
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk3_000131.html
<海外の空き家事情:地域ごとの課題と対策 – 株式会社みらい不動産>
https://mirai-f.co.jp/column2/%E6%B5%B7%E5%A4%96%E3%81%AE%E7%A9%BA%E3%81%8D%E5%AE%B6%E4%BA%8B%E6%83%85%EF%BC%9A%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E3%81%94%E3%81%A8%E3%81%AE%E8%AA%B2%E9%A1%8C%E3%81%A8%E5%AF%BE%E7%AD%96/
<イケてる空き家活用事例って?(ドイツ・ライプツィヒの空き家再生の場合) | MAD City:松戸よりDIYと暮らし、物件情報を発信>
https://madcity.jp/househaruten/
<【世界の空き家活用事例】海外では空き家をどう使っている?日本でも参考にできるアイデアとは>
https://xbiz-re.jp/world-akiyakatsuyo-case/
<【韓国】[立法情報]空き家及び小規模住宅の整備に関する特例法>
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10322297_po_02710109.pdf?contentNo=1
<South Korea Grapples with Escalating Vacant Housing Crisis: 8 Out of 100 Homes Empty>
https://new.localsegye.co.kr/amp/1065591906391774
<Number of abandoned homes reaches 1.53 million in 2023 due to aging population, migration trends>
https://koreajoongangdaily.joins.com/news/2025-03-05/national/socialAffairs/Number-of-abandoned-homes-reaches-153-million-in-2023-due-to-aging-population-migration-trends/2254964
<韓国の地方自治体の空き家対策(ソウル、釜山、仁川、大邱) – マチノヨハク>
https://akiya123.hatenablog.com/entry/2019/02/16/165808
<Korea faces growing vacant home crisis with 3.24 million expected by 2050 – CHOSUNBIZ>
https://biz.chosun.com/en/en-realestate/2025/01/08/NR2ZYZTQ55GQ3OQQVNEE54DWYE/
<The Story of China’s Ghost Cities and Its 65 Million Empty Homes>
https://interestingengineering.com/culture/chinas-ghost-cities-and-its-65-million-empty-homes
<Explainer: Key features of China’s affordable housing policy | Reuters>
https://www.reuters.com/world/china/key-features-chinas-affordable-housing-policy-2024-06-04/
<【注目】空家措置法が2023年12月に改正|不動産会社が押さえるべき変更点とは? – 全日ラビー不動産コラム>
https://www.zennichi.or.jp/column/vacant-house-regulations/

関連銘柄

関連銘柄の記事は下記です。

空き家問題の関連銘柄4選:空き家管理・防犯・空き家バンク・解体/廃棄物(ダスキン(4665)/セコム(9735)/LIFULL(2120)/TRE) | ブルの道、馬の蹄跡

コメント

タイトルとURLをコピーしました