ドライ電極の新アーキテクチャが電池性能まで押し上げる理由

電池電極の製造は、長らく「溶剤でスラリー(泥状)を作って塗って乾かす」ウェット工程が主流でした。しかし、この溶剤(代表例がNMP)と乾燥工程は、設備・エネルギー・安全衛生・規制対応をまとめて重くし、コストと環境負荷、そして工程の複雑さの根になりやすいことが、製造研究の定量分析でも示されています。たとえば製造エネルギーの内訳では、乾燥+溶媒回収が全体の約47%を占め、乾燥室(ドライルーム)が約29%を占める、という見積りが示されています。

そこで狙われてきたのが「ドライ電極(乾式電極)」です。ドライは「溶剤を使わないので安い・簡単・環境に良い」という主張に寄りがちですが、2026年のNature Energy論文は、もう一歩踏み込みます。電極内のカーボン(導電助剤)とバインダー(結着材)のネットワークを分子レベルで設計し、厚膜でも反応ムラと副反応を抑えて高電圧で安定に回す——つまり「工程」ではなく「アーキテクチャ(構造設計)」で、セル性能(エネルギー密度の上限)まで押し上げうる、と示した点が核です。

論文の要点を、一般向けに一気に言い換えるとこうなります。

  • ドライ加工の厚膜電極で、面積容量 >5 mAh/cm²、活物質比率 >99 wt%という詰め込みを成立させつつ、4.70 Vまでの高電圧動作も支えた。
  • 4.55 VカットのNMC811||黒鉛パウチセルで、C/3で1000サイクル後に容量維持78%、平均クーロン効率>99.9%を報告し、材料側の特別な改質や特殊な電解液添加剤なしでも、電極設計だけで限界を引き上げられる可能性を示した。
  • 背景として、EV普及で電池需要がTWh級に拡大し、製造工程の省エネ・脱炭素が競争力に直結し始めています(2024年に電池需要が年1TWhを突破、2030年にEV電池需要が3TWh超という見通しなど)。

導入と概要

ウェット工程はなぜ「コスト・環境負荷・複雑さ」の源になりやすいのか

リチウムイオン電池の電極製造(とくに正極)では、活物質・導電助剤・バインダーを溶剤に分散したスラリーを金属箔に塗工し、長い乾燥炉で溶剤を飛ばし、(正極が有機溶剤なら)溶媒回収装置で回収・再利用する流れが一般的です。

ここで問題になりやすい溶剤の代表がNMP(N-メチル-2-ピロリドン)です。NMPは正極スラリーでよく使われ、PVDFバインダーを溶かしやすく、分散もしやすい一方、沸点が高い(約202℃)などの物性が乾燥負荷を増やしやすい、という整理があります。
さらにNMPは健康影響の懸念から規制対応が強まり、EUではREACH制限(Entry 71)で労働者曝露をDNEL以下に抑えるなどの条件が課され、米国でもTSCA下でリスク管理ルールが提案されるなど、管理コストが増えやすい状況です。

日本でも、NMPは化管法(PRTR)対象物質として整理され、用途として「リチウムイオン電池製造用溶媒」が明示されています。
つまり溶剤は単なる材料費ではなく、乾燥エネルギー、溶媒回収設備、排出管理・曝露管理まで含む総合コストになりがちです。

ドライ電極とは何か

ドライ電極は、ざっくり言えば「溶剤で溶かさず、粉体のまま混ぜて、膜(電極シート)にして、集電体に貼る(あるいは直接堆積させる)」系のプロセスの総称です。方式は一つではなく、少なくとも(論文レビューの整理では)電界を使う噴霧系、熱可塑性樹脂でのホットプレス系、PTFEをせん断で繊維化させるロールtoロール系などが並立しています。

このうち量産視点で注目されるのが、連続生産と相性が良いロールtoロール型で、PTFEバインダーがせん断でフィブリル化(繊維化)してネットワークを作り、溶剤なしに粒子同士をつなぐ、という考え方です。

今回のNature Energy論文が示した「新アーキテクチャ」の核心

従来、ドライ電極の価値は「乾燥炉や溶媒回収を省ける=安くて環境負荷が低い」側に語られがちでした。いっぽうで、電池性能(特に厚膜での反応均一性や高電圧耐久)を上げるのは、活物質のドーピングやコーティング、電解液添加剤など材料側の戦いとして語られがちです。

この論文は、その前提を崩しにいきます。スラリー厚膜の課題を「電子の通り道が貧弱」「厚膜で反応がムラになる」「副反応が増えやすい」と捉え、カーボン(導電助剤)とバインダーの結びつきを分子レベルで強めた導電ネットワークをドライで実装することで、高面積容量・高活物質比・高電圧を同時に満たす設計を提示しました。

世界の現状と一次情報

需要拡大が「製造プロセス」の重要性を押し上げた

世界の電池市場は、EV普及とともに量的なスケールが変わりました。国際エネルギー機関によれば、2024年は電気自動車販売が約25%増えて1700万台超となり、年次の電池需要は1TWhを超えた、と整理されています。
同機関は、EV電池需要が2030年に3TWh超へ伸びる見通しも示しています。

需要がTWh級になると、研究室レベルの性能差だけではなく、工場での「スループット」「歩留まり」「エネルギーコスト」「規制対応」が、製品コストと供給量を左右します。製造工程の内訳分析では、乾燥・溶媒回収がエネルギーの最大項目になりやすいことが示されており、ここを消すドライ工程が狙われる理由がはっきりします。

規制とサステナビリティが製造工程に降りてきた

欧州では、欧州連合の電池規制(Regulation (EU) 2023/1542)が、電池のカーボンフットプリント宣言やバッテリーパスポートなど、サプライチェーン全体に説明責任を求める方向を強めています。
規則本文でも、EV電池のカーボンフットプリント算定方法や検証方法の整備期限(例:2025年2月など)が条項として組み込まれています。

NMPのような溶剤規制も同時に進みます。EUのREACH制限(Entry 71)では、NMPを一定濃度以上含む場合に労働者曝露をDNEL以下へ抑える、SDSへのDNEL明記などが求められます。
米国でもNMPはTSCAでリスク評価・リスク管理の対象となり、2024年にリスク管理ルールが提案されたことが公表されています。

結果として、「性能」だけでなく「作り方」そのものが、規制適合と競争力の論点になりました。ドライ電極が国家レベルの産業政策と結びつきやすい背景です。

企業が狙うドライ化の位置づけ

ドライ電極は学術研究の潮流であると同時に、産業界が継続的に投資してきたテーマです。代表例として、テスラは2019年にマクスウェル・テクノロジーズの買収完了を公式に発表しています。
学術レビュー側でも、Teslaの乾式コーティング(少なくともアノード側)を、ロールtoロール型ドライコーティングの実装例として位置づける記載があります。

ただし、量産は簡単ではありません。報道ベースでは、Teslaの4680関連でドライコートのスケール課題や試作段階での高い不良率が語られている例もあります(数字や状況は時点依存で、他社比較・工程条件の違いもあり得ます)。
この難しさがあるからこそ、今回のNature Energy論文のように、材料ではなく電極アーキテクチャに焦点を当て、なぜドライで性能が上がりうるのかを物理・化学的に説明する研究が重要になります。

日本の現状

政策は「国内150GWh」と「世界600GWh」を目標に据えた

日本の電池産業政策は、製造基盤の確保をかなり明確に数値化しています。経済産業省の「蓄電池産業戦略」では、遅くとも2030年までに国内で150GWh/年の製造基盤確立、同時に日本企業全体でグローバルに600GWh/年(世界市場が3000GWh/年規模でもシェア20%想定)を目標にする、という整理が示されています。
同省の参考資料でも、経済安全保障推進法の枠組みで蓄電池を特定重要物資に指定し、2030年に150GWh/年の製造能力確保を目的に支援措置を用意する方針が説明されています。

この文脈では、ドライ電極は研究テーマであると同時に、製造競争力を上げるためのプロセス技術として位置づけられやすいです。特に、欧州の電池規制(カーボンフットプリント宣言など)がサプライチェーン全体に波及する以上、製造プロセスの省エネ・低炭素化は輸出競争力に直結します。

日本ではNMPが「電池製造用溶媒」として明示され、制度対応の対象でもある

日本の制度面では、NMPはPRTR対象物質として整理され、用途として「リチウムイオン電池製造用溶媒」が公的なファクトシートに明記されています。
これは、産業界から見ると「排出や移動の把握・管理」「SDS・表示」「環境・労働安全の説明責任」が、電極製造(とくに正極)に元から埋め込まれていることを意味します。

ドライ電極は、この制度対応のうち、少なくとも「溶剤由来」の部分を根本的に小さくできます。一方で、ドライでよく使われるPTFEなどフッ素系バインダーは、PFAS規制の文脈で別の論点を生む可能性もあり、後述の通り単純な善ではありません。

日本の研究開発は「次世代電池」と「製造プロセス」を同時に見にいっている

日本の公的プロジェクト資料にも、ドライ電極プロセス開発が明示的に現れます。新エネルギー・産業技術総合開発機構のグリーンイノベーション基金事業の資料(企業側ビジョン資料の一例)では、研究開発項目として「ドライ電極プロセス開発」「固体電解質対応プロセス」「露点管理技術開発」などが並び、工程を含む実装課題として扱われています。

ここは日本にとって重要です。全固体電池のように、湿式プロセスでの溶媒が固体電解質と反応しやすい・選べる溶媒が限られるといった課題が指摘される中、ドライ工程は「性能」だけでなく「作れる」こと自体を支える手段になり得ます。

経済・社会・地政学への影響

コストは「乾燥炉+溶媒回収+乾燥室」に効きやすい

製造モデルの分析では、電極の塗工・乾燥に関連する工程がコスト上も重いことが示されています。例として、BatPaC等に基づくコスト内訳では、塗工/乾燥がコストの一定割合を占め、加えて形成・エージングなどと並んで製造の重い部分として挙げられます。
エネルギー面では、乾燥/溶媒回収が約47%で最大、乾燥室が約29%と続く、という内訳が示されています。

この構造を見ると、ドライ電極が狙う削減ポイントは明確です。

  • 乾燥炉や溶媒回収設備を小さくする、または不要にする
  • NMPのような管理コストの高い溶剤依存を減らす
  • 工場フットプリント、換気・防爆・排気処理など周辺設備の負担を減らす

ただし、コスト削減幅は「基準が何か(NMP湿式か、水系湿式か)」「歩留まり」「材料(バインダー、導電助剤)の単価」「ライン速度」によって変わります。実際、LFP系の乾式製造コスト/CO2の解析では、DBE(dry battery electrode)の最適化が水系参照セル比でコストとGWPをそれぞれ数%〜一桁%下げうる、という結果も報告されています(ここは水系参照である点が重要です)。
一方、総説レベルでは「溶媒乾燥をなくすことで工場フットプリント縮小・エネルギー消費を約40%削減」といった整理も見られますが、これは条件依存の代表値として捉えるのが安全です。

環境負荷は「電力+溶剤+規制リスク」の組み合わせで評価する必要がある

環境面での直感的メリットは、溶剤を使わないことで揮発性排出や回収工程が減り、乾燥に必要な熱・電力が減る可能性がある点です。ドライ電極が「コスト」と同方向に「CO2」も下げやすい、と言われるのはこのためです。

その一方で、乾式で主流になりやすいPTFEバインダーには別の論点があります。Nature Communicationsの2025年論文は、乾式でPTFEが支配的であること自体に触れつつ、PFAS(per- and polyfluoroalkyl substances)規制の文脈を意識し、「フッ素フリーで、真に溶媒不要な接着(プライマー不要)を成立させる」アプローチを提案しています。
さらに欧州では、欧州化学物質庁がPFASの包括的制限案を評価しており、2025年には更新版提案と評価タイムラインが公表されています。

したがって「ドライ=環境に良い」は方向としては正しくても、実務では「溶剤を消す代わりに、何を増やすか(バインダー、導電助剤、工程エネルギー)」まで含めて、LCA(ライフサイクル)と規制適合の両面で最適化する必要があります。

地政学では「製造技術」が供給網の交渉力になる

電池のサプライチェーンは地理的に偏在しており、「どこで作れるか」は資源安全保障と同義になりつつあります。欧州議会のブリーフは、中国が電池セル製造能力で8割超を占め、米国とEUが約5%程度とする整理を示しています。
欧州では域内生産コスト差を縮める政策パッケージが議論されているという報道もあり、製造効率(スクラップ率、技能、オートメーションなど)が競争力の焦点になっています。

この文脈でドライ電極が持つ意味は二つあります。
第一に、乾燥炉や溶媒回収を軸とする従来ラインに比べ、工場の設計自由度が上がれば、新興地域が生産を立ち上げる際の参入障壁が下がり得ます。
第二に、製造技術が特許・ノウハウとして企業に蓄積されるため、技術覇権(ライセンス、装置供給、共同開発)の交渉力になります。実際、ドライ電極関連の機密や知財を巡る訴訟が報道されるなど、技術が戦略資産化している兆候も見えます。

今後の課題と展望

工程の課題は「均一に作る」「集電体に貼る」「厚膜でもイオンが通る」

ドライ電極の課題は、単純に溶剤を抜けば終わり、ではありません。レビュー論文が繰り返し指摘するのは、溶媒がないことで分散・レベリングが働かず、導電助剤やバインダーの局在が起きやすい点、そして厚膜化でイオン抵抗が上がる点です。
また、PTFE系ではフィブリル化の制御が性能・強度・均一性を左右するため、プロセス条件のデータベース化や計測手法の確立が課題として挙げられています。

さらに、PTFEは機械強度には寄与しても、電極のイオン輸送や界面反応という観点では万能ではなく、将来の規制・代替議論も含めて、バインダー開発は継続課題です。

性能の課題は「厚膜での反応ムラ」と「高電圧での副反応」

厚膜電極の狙いは、同じ容量をより少ない層数・部材で実現し、セルのエネルギー密度を上げることです。製造研究の文脈では、電極厚みを増やすことでセル体積エネルギー密度が上がる可能性(例:厚み増でWh/Lが上がる計算例)が示されています。
しかし厚膜化は、反応が電極の厚み方向で不均一になり、局所過充電や副反応を誘発しやすいという根本の壁にぶつかります。

今回のNature Energy論文は、この壁に対し「ドライ工程だからできるカーボン—バインダー構造」を武器にします。シカゴ大学の研究チームは、繊維状カーボン(VGCF)とPTFEバインダーの間に、せん断混練で表面官能基が変化し化学的カップリングが促進される、という機構を補助情報で示しています。具体的には、VGCF表面の酸素官能基が、せん断混練前後でエノール型(C–OH)からケト型(C=O)へ変化し、フィブリル化したPTFEとの結合を促す、という説明です。
このカップリングにより導電ネットワークが効率化し、厚膜でも電子のパーコレーションが改善し、副反応の抑制(高電圧安定性)につながる、というのが論文の主張です。

その結果として、活物質比率>99 wt%かつ面積容量>5 mAh/cm²、電圧4.70 Vの高電圧条件まで含む成立範囲を示し、4.55 V NMC811||黒鉛パウチで1000サイクルの維持率や高いクーロン効率を報告しました。
比較の観点では、補助情報の文献サマリーが、高電圧(>4.4 V)・高Ni系NMCでサイクル寿命を稼ぐために、ドーピング、コーティング、電解液添加剤など材料側の工夫が一般的だったことを示唆します。

展望は「乾式化」と「電極アーキテクチャ設計」の合流

ドライ電極の未来像は、単に溶剤を抜くではなく、製造プロセスが制約していた電極構造を再設計し、セルの上限を押し上げる方向にあります。News & Viewsも、厚膜の反応不均一性がスラリー工程の制約になっていた点を踏まえ、カーボン—バインダー網の分子設計が高電圧安定性をもたらしうる、という見立てを示しています。

ただし、産業化には「連続生産での品質安定」「歩留まり」「装置・粉体ハンドリング」「安全(粉じん爆発、帯電など)」といった製造工学課題が残り、企業動向でもスケールアップの難しさが示唆されています。
一方で、EUの電池規制(CFP宣言、パスポート)などが、製造由来のCO2とトレーサビリティを市場アクセス条件へ変えつつあるため、乾式化とその性能メリットを両立できる企業・国が、次の優位を取りやすい構図になっています。

よくある疑問Q&A

Q:ドライ電極の「ドライ」って、電解液も使わないという意味ですか
A:違います。ここでのドライは、電極を作る工程で溶剤を使わない(または大幅に減らす)という意味です。電解液(液系LiBなら有機電解液)は通常どおり別工程で注液されます。

Q:NMPが問題なら、水系スラリーにすれば解決ですか
A:水系化は有力な方向ですが「どの電極でも簡単に置き換えられる」わけではありません。NMPが正極で広く使われてきた理由(PVDFの溶解性、分散性など)や、NMPの物性が乾燥負荷を増やす点は整理されています。
水系では別の乾燥・界面課題や材料相性が出るため、最終的には材料系と工程系をセットで最適化する必要があります。

Q:ドライ電極は本当にコストが下がるのですか
A:下がる可能性が高い領域はあります。製造エネルギーの最大項目が乾燥/溶媒回収であり、乾燥室も大きな比率を占める、という内訳が示されているためです。
ただし、削減幅は「参照がNMP湿式か水系湿式か」「ライン速度と歩留まり」「ドライで増える材料(バインダーや導電助剤)のコスト」に依存します。水系参照セルとの比較で、乾式最適化が数%〜一桁%のコスト低減・GWP低減を示す例もあります。

Q:なぜ厚膜化がエネルギー密度に効くのですか
A:厚膜化が成立すると、同じ容量を得るために必要な電極層数が減り、集電体やセパレータなどの容量を生まない部材の比率を下げられるため、セル全体のWh/kgやWh/Lが上がりやすくなります。製造研究でも、厚み増による体積エネルギー密度向上の計算例が示されています。
ただし、厚膜化は反応ムラや抵抗増で性能が落ちやすいので、「厚くしても均一に反応させるアーキテクチャ」が必要になります。

Q:Nature Energy論文の「新アーキテクチャ」は何が新しいのですか
A:ポイントは「ドライ工程でできる、カーボン—バインダー網の分子レベル設計」を、厚膜・高電圧の性能課題と結びつけた点です。
補助情報では、VGCF表面官能基がせん断混練で変化しPTFEとのカップリングが促される、という機構を示しており、ドライ電極が単なる溶剤レスではなく、導電ネットワーク設計の自由度を持つことを示唆しています。

Q:PTFEバインダーが主流と言われるのはなぜですか、またPFAS規制は影響しますか
A:PTFEはせん断で繊維状ネットワークを作りやすく、溶剤なしで粒子をつなぐ役割を担えるため、ロールtoロール型ドライコーティングで重要視されてきました。
一方でPFAS規制の議論が進む中、乾式でPTFEが支配的であること自体を論点化し、フッ素フリーでの乾式バインダー設計を提案する研究も出ています。

Q:全固体電池にもドライ電極は効きますか
A:効く可能性が高いです。全固体では電極—固体電解質界面の接触(カバレッジ)が性能を左右し、ドライ工程のせん断が接触面積を増やしうる、という報告があります。
また、湿式工程で溶媒が固体電解質と反応するという課題に対し、溶媒を使わない乾式は構造的に有利です。

Q:量産で一番の壁はどこですか
A:多くのレビューが、(1)粉体混合・分散の均一性、(2)バインダーのフィブリル化制御と計測、(3)集電体への接着と機械信頼性、(4)厚膜でのイオン抵抗、を主要課題として挙げています。
企業側の事例でも、スケールアップ時の歩留まりやスループットが課題になり得ることが示唆されています。

Q:日本企業がこの分野で勝つための論点は何ですか
A:政策的には国内150GWh・世界600GWhの目標が掲げられており、製造競争力の強化は明確に重要です。
技術面では、全固体電池や高電圧厚膜など材料と工程が絡む領域で、ドライ工程を含む実装課題に取り組む姿勢が公的資料にも見えます。
加えて、EU電池規制が求めるCFPやパスポート対応を見据え、工程由来CO2を下げつつ高性能を両立できるアーキテクチャ設計(今回のNature Energyが示した方向)が、競争軸になりやすいです。

結論と読者への提案

ドライ電極は、単なる「溶剤を抜く省エネ技術」から、「電極アーキテクチャ設計でセル性能の上限を押し上げる技術」へ、見方を更新しつつあります。乾燥/溶媒回収が製造エネルギーの最大項目になり得るという構造の上に、2026年のNature Energy論文が、カーボン—バインダー網の分子設計によって厚膜・高電圧の壁に切り込んだ、という位置づけです。

読者が「自分の意見」や「行動指針」を作るための観点を、立場別にまとめます。
一般読者なら、EVや蓄電池の価格・供給・環境負荷は「材料」だけでなく「作り方」で決まり得る、という見方を持つのが第一歩です。
技術者・事業者なら、ドライ電極を評価する際に「工程短縮」だけでなく、厚膜での反応均一性、活物質比率、導電ネットワーク設計(カーボン—バインダー)まで含めて、セルレベルの勝ち筋で比較するのが有効です。
投資・政策の観点では、EU電池規制のようにサステナビリティ要件が市場アクセス条件になりつつあるため、工程由来CO2を下げる製造技術(ドライ工程、乾燥技術革新など)を、材料技術と同等に重要視すべきです。

参考

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