問題の概要:安全性向上の陰で高まる新たなリスク
航空機事故は長期的に大幅に減少し、航空業界の安全性は飛躍的に向上してきました。実際、2023年は世界の商業航空史上もっとも安全な年の一つとなり、IATA(国際航空運送協会)の統計では搭乗100万回あたりの事故件数が1.09件と過去最低水準を記録しました。しかし、その反動もあってか2024年には事故率がわずかに悪化し、致命的事故件数も増加しました(2023年は死亡事故1件・死者72人、2024年は死亡事故7件・死者244人)。この安全性の一時的な後退は複数のリスク要因が重なった結果ではないかと懸念されています。
航空機事故自体は依然として極めて稀ですが、それでも一度大事故が起これば多くの命が奪われ、産業全体に与える衝撃も大きくなります。近年、便数の増加・気候変動に伴う極端気象・航空整備士など人材の不足・自動化の進展といった要因が重なり、事故の確率すなわち潜在的リスクがじわりと高まっているとの指摘があります。実際に2024年は前年度に比べ事故や重大インシデント(ニアミスなど事故寸前の事例)の報告が増え、安全専門家や規制当局が相次いで対策に乗り出しました。
本記事では、この問題の概要と重要性について、各要因がどのように航空事故リスクに影響するか、世界各地域および日本の現状、を概観します。また最近相次ぐヒヤリハット事例や当局からの安全勧告の動向、さらには航空業界の経済への影響にも触れ、最後に今後の課題と対策について展望します。長年培われてきた空の安全を今後も維持・向上させていくために、どのような課題に直面しているのか一緒に考えてみましょう。
便数増加と空の過密化による影響
世界的な航空需要の回復と拡大に伴い、航空便数(フライト本数)は過去最大規模に達しつつあります。新型コロナウイルス禍からの回復により2023年以降は旅客数・便数が急増し、2024年には世界全体の空港利用者数が約95億人と2019年(コロナ前)を上回る水準に達しました。旅客需要が強く押し上げた便数増加によって、空港や空域の混雑が激しくなっています。航空交通管制や地上支援の現場はフライト急増への対応を迫られ、空の過密化による安全リスクが懸念されています。
まず、単純な確率論としてフライト総数が増えれば絶対数として事故やトラブルの発生可能性も増加します。たとえ1便ごとの事故率が極めて低くても、運航回数が膨大になれば分母が膨らみ、一定の割合で何らかのインシデントが起きうるからです。特に空港の離着陸回数が増えると、誘導路や滑走路上でのヒューマンエラー、コミュニケーションミスによるニアミス(衝突寸前の事例)などが起こりやすくなります。米国では2023年初頭から主要空港でニアミスが相次ぎ、1年間(10月まで)に19件もの深刻な滑走路侵入インシデントが発生しました。これは2016年以来最悪の数字であり、前年(2022年)の16件から大幅に増加しています。幸い大事故には至らなかったものの、紙一重で衝突を免れた事例が度重なったことに業界は衝撃を受けました。
ニアミス増加の背景には様々な要因がありますが、その一つが急増する航空需要によるシステム全体の過負荷です。米連邦航空局(FAA)は2023年に入って航空需要が前年比で大幅増加し、航空システム全体に圧力がかかったことを認めています。航空機同士や航空機と地上車両の間の間隔が逼迫し、管制官やパイロットのタスクが増えることで、わずかな伝達ミスが重大インシデントに繋がるリスクが高まります。また、過密ダイヤによる時間的余裕の無さも安全マージンを削りがちです。例えば出発遅延を取り戻そうと急ぐ心理が働いたり、混雑する待機経路での燃料や時間プレッシャーが判断に影響したりするケースも考えられます(ここは推測ですが、過去にもスケジュール遅延に起因するヒューマンエラーの例があります)。
さらに空港容量の限界が近づくと、駐機場や滑走路のやり繰りが綱渡りになり、地上での接触事故も起こりえます。実際、2023年6月には羽田空港で離陸待機中の旅客機同士が接触するトラブルが発生し、滑走路が約2時間閉鎖される事態となりました(幸いけが人なし)。このケースでは誘導路上でタイ国際航空機の右翼端が前方のエバー航空機の尾翼に接触しましたが、繁忙時間帯で航空機がひしめく中、地上での間隔維持が難しくなっている現状を露呈しました。
以上のように、便数増加そのものは航空会社にとっては好ましい需要回復の兆候ですが、安全面では新たな課題を突きつけています。空港・空域のキャパシティを拡大し、管制や地上支援の体制を強化しなければ、数の論理に押される形で事故確率が上昇しかねません。実際に米国では管制官不足や若手パイロットの経験不足、旧式化した管制システムなども相まって安全上の綻びが指摘されています。FAAの報告によれば、過去10年で米国の管制官数は約1000名減少した一方で飛行回数は増加し、この人手不足が航空安全上ますます危険な状況を生んでいるといいます。便数増と人員・設備不足のミスマッチは、世界各国で共通する課題となりつつあります。
気候変動による極端気象と航空への影響
次に、気候変動に伴う極端気象の増加が航空の安全リスクを高めている点について解説します。地球規模の気温上昇により大気のエネルギーが増し、大気現象の振れ幅が大きくなっていることが各種データから示唆されています。具体的には、高高度での乱気流(晴天乱気流)の発生頻度と強度が近年増加傾向にあります。ある研究によれば、北半球の主要な航空路における中高度以上の乱気流は1980年から2021年の間に顕著に増加したことが確認され、将来的にも気温上昇に応じて乱気流遭遇の確率が高まると予測されています。別の分析では、1979年以降、北大西洋航路などで中〜高度の激しい晴天乱気流が最大で55%も増加したとの報告もあります。これは大気の温暖化によってジェット気流が強まり、上下方向の風のせん断(ウインドシア)が増えるためです。乱気流自体は目に見えず避け難い現象であり、パイロット泣かせの存在ですが、その頻度と強さが増せば乗客乗員の安全にも無視できない影響を及ぼします。
乱気流は単なる揺れではなく、深刻な航空事故や障害につながり得る要素です。米国では天候要因による航空事故の約70%に乱気流が関与しているとの統計もあります。客室乗務員や未着席の乗客が乱気流で負傷するケースもしばしば報告され、機体に加わる過大応力は機材の損傷や寿命短縮を招きます。近年は乱気流による重大インシデントの報道も目立ち、2022年12月にはハワイアン航空機で乱気流により乗客乗員数十人が重軽傷を負い、2024年にはシンガポール航空の国際線で乱気流に遭遇した乗客1名が死亡、70名以上が負傷する事故まで起きました。このように、かつては事故につながるほどではないと思われていた乱気流も、その強度と頻度の増大により命に関わる脅威となっています。
乱気流以外の極端気象も航空に多大な影響を与えます。例えば猛烈な雷雨やハリケーン、台風の増加・強大化は、航空機の離着陸を困難にし、時に事故の引き金となります。過去には着陸進入中の機体がダウンバースト(急激な下降気流)に遭遇して墜落する事故が起きましたが、現代では多くの空港にウインドシア警報装置が整備され、機上レーダーも発達したため従来型の気象事故は減少しました。それでも強烈な嵐の頻発はパイロットに常に難しい判断を迫る状況です。激しい雷雨セル(積乱雲)を避けようとすると遠回りの経路変更や着陸地の変更(ダイバート)が必要になり、フライトの遅延や運航コスト増加を招きます。極端な強風や豪雨も依然として脅威です。滑走路上の横風限界を超えるような暴風が吹けば着陸を断念せざるを得ず、無理に着陸を試みれば横転・逸脱事故の危険があります。また豪雨はブレーキの効きを低下させ、オーバーラン(滑走路逸脱)事故につながりかねません。近年、気候変動の影響で集中豪雨やスーパー台風の発生リスクが高まっているとの指摘もあり、航空業界は気象リスクへの備えをさらに強化する必要に迫られています。
極端気象が航空事故に与える寄与は、現在のところ全体の約1割程度と推計されています。主要因の多くは人的要因や機材要因ですが、それらに気象要因が重なることで事故に至るケースが少なからず存在します。しかし正確にどこまで気候変動が事故率に影響しているかは不明であり、専門家の間でも評価が分かれます(ここは不明な点です)。ただ一つ確かなのは、異常気象の時代に合わせて航空システムをよりレジリエント(強靭)にする努力が不可欠だということです。例えば晴天乱気流を事前に探知する高度なレーザー/LIDAR式の警報システムの開発、パイロット訓練への乱気流・嵐回避シナリオの組み込み、空港インフラの強化(排水設備の改良や滑走路延長など)、フライト計画の柔軟な変更(猛暑日は離陸時刻を涼しい時間帯に変更、乱気流多発エリアを迂回するルート設定等)といった多層的な対策が取られ始めています。気象庁や航空気象機関と航空会社が連携し高度な気象モデルとリアルタイム情報共有を進める動きもあります。このような技術的・運用的適応策によって、気候変動時代においても安全性を維持・向上させることが今後の重要課題です。
航空整備人材不足による安全上の懸念
航空機の安全運航を支える整備士やエンジニア等の専門人材の不足も、近年深刻化しています。航空機は高度に複雑な機械であり、定期点検や不具合対応を担う整備人材の質と量が安全性の根幹を握ります。しかし世界的に見て、熟練した航空整備士の供給が需要に追いつかない状況が指摘されています。背景にはベテラン世代の大量退職と、新規参入者の減少や育成停滞があります。例えばボーイング社の予測では、2034年までに全世界で61万人以上の新たな航空整備技術者が必要になるとされ、特にアジア太平洋や中東で顕著な人材不足が見込まれています。これはパイロットや管制官についても同様の傾向で、航空業界全体で人材難が安全を脅かすリスクとなっています。
日本に目を向けると、その課題はさらに切実です。国内の航空整備士は高齢化が進み、主要航空会社および整備会社で働く整備士のうち約4割が50歳以上というデータがあります。国土交通省の試算では、整備士有資格者約8500人のうち約2000人が今後10年ほどで定年退職する見込みとされます。一方で若手の補充は追いつかず、航空専門学校への入学者数は減少傾向、さらにせっかく業界に入っても待遇面などから早期離職する人も増えています。パイロット大量退職が注目されますが、整備士や空港ハンドリング要員の大量離職も同時進行しており、このままでは人手不足が航空ネットワークの維持に支障をきたしかねません。
整備士不足が安全に及ぼす影響は多岐にわたります。まず一人当たりの業務量増加によるヒューマンエラーのリスクがあります。慢性的な人手不足下では整備作業の現場に余裕がなくなり、確認ミスや整備基準の見落としといったヒューマンエラーが生じやすくなります(具体的な頻度は不明ですが、業界では懸念されています)。また経験豊富な整備士が減り若手主体になると、知見の継承やOJTによるスキルアップに支障が出る可能性があります。航空機整備は教科書だけでなく現場経験から学ぶ部分も大きいため、ベテランの大量退職は技能伝承上の損失です。さらに、整備作業の遅延による運航スケジュールへの影響も表面化しています。日本でも既に一部空港で整備士不足のため増便や新規路線開設にすぐ対応できないケースが生じています。これは安全面だけでなくサービス面・経営面にも影響する問題です(後述の「経済への影響」参照)。
世界的にもこの傾向は共通で、米国では2028年までに2万5千人規模の整備士不足が予測されるとの報告もあります。航空保険を手がけるグローバル企業の分析では、こうした人材不足が運航の混乱やコスト増のみならず安全にも影響を及ぼす恐れがあると指摘しています。実際、十分な整備要員が確保できないと定期点検の間隔を延ばさざるを得なかったり、不具合対応に時間がかかったりする可能性があります。ここは推測ですが、最悪の場合には整備の抜けや見逃しが事故につながるリスクもゼロではありません。
この課題に対し、日本では自衛隊整備士から民間整備士への転身支援や、女性整備士の採用促進、待遇改善による人材確保などが検討されています(ここは実施状況は不明です)。世界的にも若者への航空技術教育の充実や資格取得支援、海外人材の登用など様々な手が打たれ始めています。また、整備現場へのデジタル技術導入(リモート支援、ARによる熟練者サポートなど)や機体の自己診断機能強化などで省力化・自動化を図る動きもあります。しかし、航空の安全文化上人間の目によるチェックを完全になくすことはできず、人材の裾野拡大と技能伝承は喫緊の課題です。
自動化の進展と新たな課題
航空機の運航は高度に自動化が進んでおり、現代の航空機は巡航中の自動操縦はもちろん、離陸後の上昇から着陸進入まで多くの工程を自動システムに任せることができます。自動化はパイロットの負担を減らしヒューマンエラーを減少させる効果があり、過去数十年の安全性向上にも大きく貢献してきました。しかし一方で、自動化に対する過度の信頼や設計上の欠陥が新たな事故要因となるケースも現れています。
代表的な例が2018〜2019年に相次いだボーイング737MAX型機の墜落事故です。2件の墜落で計346名が犠牲となりましたが、原因は同型機に搭載された新しい自動失速防止システム(MCAS)の暴走でした。パイロットはその存在と挙動を十分知らされておらず、不具合時に対処できないまま機体を制御不能に陥らせてしまいました。この事故は自動化システムの設計ミスとクルーへの情報伝達不足という人為的要因が絡んだものですが、コンピュータが誤作動して操縦桿を奪うという新たなリスクを露呈しました。メーカー各社は以後、ソフトウェアの冗長性向上やパイロット訓練見直しなどの対策を講じていますが、複雑化するシステムの未知のバグや予期せぬ動作が将来も潜在リスクとなることは否定できません。
また、自動化への依存がパイロットの技能低下につながる懸念も指摘されています。現代の航空機では手動操縦する場面が限られるため、操縦士がオートパイロット任せで手動操縦の勘を鈍らせてしまう可能性があります。これは平常時には問題なくとも、いざ自動操縦が故障した非常時に即座に機体を安定させる能力に影響します。2009年に大西洋上で墜落したエールフランス447便では、高度計のセンサー不良で自動操縦が解除された際、パイロットが適切に失速から回復操作できず、機体の失速・墜落を招きました。調査では長時間オートパイロットに頼り手動操縦の訓練機会が少なかったことが背景要因の一つとされています。このように、自動化が進み過ぎると非常時に人間が介入できない(または適切に対処できない)事態が起こりうるのです。
自動化に関連するもう一つの問題は「モード錯誤」と呼ばれる現象です。これはパイロットが機械任せにするあまり、今システムがどのモードで何をしているかを誤認識する事態です。高度維持だと思っていたのに実は降下モードに入っていた、オートスロットル(自動油量調整)が働いていると思ったら実際には解除されエンジン出力が落ちていた、等の認識ギャップが事故に繋がる場合があります。この種のヒューマンファクター(人間と機械の相互作用)問題は航空分野で昔から研究されていますが、機能が増え複雑化するほどリスクも増します。特に新人パイロットにとって最新鋭機のオートマチック機能を完全に把握するのは難しく、十分な訓練がないまま現場に出ると混乱や思い込みによる操作ミスを起こしかねません。
総じて、自動化は諸刃の剣と言えます。高度なフライトマネジメントシステムやアビオニクスの導入でヒューマンエラーは減りましたが、システム依存による新たな事故類型が生まれています。今後さらに自動操縦技術が進めば、将来的にはパイロット1名体制や完全無人機の旅客運航といった構想も出てくるかもしれません(ここは推測ですが、一部で研究が進んでいます)。しかし現時点でそれらの安全性を保証することは難しく、制度的にも実現していません。適切な自動化レベルと人間の役割分担をどう最適化するかは今後の大きな課題です。安全専門家は「自動化は人間の補助であり、最後の責任は人間にある」との原則を強調しており、パイロット技能維持のため定期的な手動操縦訓練や非常時シナリオ訓練の重要性を訴えています。自動化と人間の調和を図り、便利さと安全のバランスを取ることが求められています。
世界の航空安全の現状(地域別の動向)
北米(米国を中心とする地域)
北米、特にアメリカ合衆国は世界で最も航空便数が多い地域であり、その安全動向は常に注目されています。米国の主要航空会社では2009年以降16年間にわたり旅客機の死亡事故がゼロという記録が続いていました。しかし2025年初頭、ワシントンD.C.近郊での商業旅客機事故により、この無事故記録が途絶えたことが報じられています。詳細は不明ですが、この事故は米国の航空安全神話に一石を投じ、関係当局に緊張が走りました。
さらに前述の通り、2023年には米国内の主要空港でニアミス(重大インシデント)が相次ぎ、連邦航空局(FAA)は急遽安全性向上のための緊急会議を開催する事態となりました。FAAは専門委員会を設置して滑走路上の安全(Runway Safety)の再点検や、管制官の疲労管理(夜勤交代制の見直し等)に乗り出しています。また新しい技術への投資も行われ、2023年には約2600万ドルの予算を投じて管制官の状況認識を支援するシステム強化や、誤った滑走路に航空機が接近した際に警報を発する自動警告システムの導入が開始されました。滑走路侵入監視装置も新たに72空港へ追加配備され、現場でのヒヤリハット防止策が進められています。
このように北米では、世界最大規模の航空需要を抱えつつ人的・技術的課題への対応に奔走している状況です。パイロット不足や管制官不足も顕在化しており(前述)、FAAや航空各社は教育訓練・採用の拡大にも力を入れています。一方でテクノロジー先進国らしく、空港の最新鋭化(デジタル管制塔や地上走行支援AIの実証など)やデータ解析による予兆検知など新アプローチも模索されています。北米の経験は他地域にも示唆を与えるものであり、世界的に情報共有・協力が進められています。
欧州(ヨーロッパ諸国)
欧州は航空安全の面で極めて高い水準を維持している地域です。EU加盟国の大手航空会社では近年ほとんど重大事故がなく、2023年も欧州の商業定期便における死亡事故はゼロ件でした。同年、欧州では約730万便の商業フライトが無事運航されており、その安全記録は賞賛に値します。この背景には、EU域内で統一された厳格な安全規則と、各国当局・航空会社の高い安全文化があります。EASA(欧州航空安全局)は各年の安全報告書でデータを公開し、加盟各国と協力してリスク低減策を講じています。
しかし欧州も課題がないわけではありません。航空需要の増加と新技術の登場に伴い、既存のシステムを強化し続ける必要があります。EASAは将来の航空需要増大と航空の複雑化に備え、プロアクティブ(先取り)な安全アプローチが必要と強調しており、サイバーセキュリティ対策や安全データ分析の充実、訓練の改善、新技術の安全評価など多岐にわたる取り組みを提言しています。例えば自動操縦システムの高度化に伴うアップセット(機体姿勢の異常)からの回復訓練や、滑走路からの逸脱・衝突防止のための装置搭載義務化などが具体的に議論されています。欧州では2017年に重大インシデント報告件数が年間99件(10年平均79件)と増加した年もあり、決して油断はできません。運航の高度化・自動化が進む中、人間の介在する訓練や多層防御を引き続き強化する姿勢が見られます。
総じて欧州は高い安全性を誇りつつも、ゼロリスクを目指して不断の改善を続けています。近年は環境配慮(グリーンフライト)の要請も強く、騒音や排出削減と安全確保の両立という新たなチャレンジにも直面しています。しかし各国がEASAの下で緊密に連携し、統一基準で動ける強みがあり、今後も世界の安全モデル地域であり続けるでしょう。
アジア太平洋(東アジア・南アジア・オセアニアなど)
アジア太平洋地域は現在、世界で最も航空需要が伸びている地域です。中国やインド、東南アジア諸国では中産階級の台頭に伴い航空旅客数が爆発的に増加しており、新規路線開設や機材導入が相次いでいます。ACI(空港評議会)によれば、2040年代には中国が米国を抜いて世界最大の航空市場となり、インドやインドネシアもトップクラスに躍進する見通しです。このダイナミックな成長は経済的には明るいニュースですが、安全面では大きなチャレンジでもあります。短期間で航空網が拡大する中、必要な数の熟練パイロット・整備士・管制官を確保し、インフラを整えることが各国の課題となっています。
過去を振り返ると、アジアの新興国では重大事故も少なくありませんでした。例えば2010年代前半にはマレーシア航空で連続した惨事(MH370便とMH17便)が起き、2014年にはインドネシア発のAirAsia機が墜落、近年でも2023年にネパールでATR72旅客機が墜落し乗員乗客72名全員が死亡する事故が発生しています。ネパールやパキスタン、インドネシアなど一部地域では地形や気象要因に加え、航空会社の安全管理が不十分なケースも指摘され、ICAO(国際民間航空機関)やIATAによる支援・監査プログラムが実施されてきました。アフリカ・中南米と並び、アジア新興国の事故率は先進地域より高めでしたが、近年は各国とも規制強化や訓練改善に努め、徐々に改善傾向にあります。
アジア全体を見ると、安全度には大きなばらつきがあります。日本やシンガポール、オーストラリアのように世界最高水準の安全運航記録を持つ国がある一方、インフラ整備や要員訓練が追いついていない国もあります。特にアジアは世界の航空機増産における一大マーケットであり、今後20年で新造機の4割以上がアジア向けに引き渡されるとの予測もあります(ボーイング/エアバス予測より)。この新造機の受け入れに際して、十分な整備体制と運航管理が確立されていないとリスクが高まります。実際、航空大国インドでは近年エンジントラブルによる緊急着陸や機材不具合事案が散発しており、整備部門の拡充が急務とされています(具体的な数値は不明ですがニュースで報じられています)。
もっとも、アジアの多くの国々は安全性向上に向けた前向きな取り組みを強めています。例えばインドでは航空規制当局が海外専門家の協力を得て監査体制を強化し、ブラックリストに載っていたインドネシアやタイの航空会社も改善によりEUの乗り入れ禁止措置が解除されました。日本やシンガポール、韓国などの先進的な安全管理のノウハウが域内で共有され、ASEANを中心にパイロット訓練校・整備教育機関の拡充も進んでいます。アジアの空は急速に近代化しつつあり、事故率も長期的には減少傾向にあります。とはいえ2024年の地域別事故率ではアフリカに次いでアジア(特にアジア新興国地域)が高い水準にあり、人口増・需要増の波に安全対策が後手に回らないよう注視が必要です。
その他の地域(アフリカ・中南米など)
アフリカや中南米も触れておきます。アフリカは長年、航空事故率が他地域より高い傾向がありましたが、2020年代に入り改善の兆しが見えています。とはいえ2024年の全事故率は100万フライトあたり10件超と、世界平均(約1件前後)の10倍近いとのデータもあります。特に滑走路からの逸脱(オーバーランなど)が多く報告されており、基本的な運航遵守事項の徹底やインフラ整備が課題です。IATAはアフリカ諸国に対しIOSA(運航安全監査プログラム)への参加を促し、安全水準底上げを図っています。中南米も一部で古い機材や山岳地帯空港の多さから事故が散見されますが、近年は大手航空会社の統合や国際規制順守で改善しつつあります。
このように、地域ごとの安全度格差は依然存在しますが、グローバルには縮小しつつあります。航空は国際的な移動手段であり、一国の事故は世界全体の問題として共有されるため、ICAO主導で標準化と能力開発が進められています。空の安全に国境なしという理念の下、各地域が協力してより均一で高い安全基準を達成することが望まれます。
日本の現状と特有の課題
最後に日本の航空業界における安全の現状と特有の課題について述べます。日本は1980年代以降、全日本空輸(ANA)・日本航空(JAL)など大手航空会社の重大事故が大幅に減り、近年は世界でもトップクラスの安全記録を維持しています。国内線・国際線ともに直近数十年で死亡事故は起きておらず、パイロットや管制官、整備士の緻密な仕事ぶりと、安全文化の賜物と言えるでしょう。航空各社は自主的に安全報告書を公開しヒヤリハット事例や対策を公表するなど、透明性の高い安全管理に努めています。
しかし、日本にも新たなリスク要因が存在します。既に述べた便数増加・極端気象・人材不足・自動化対応はいずれも日本が直面する課題です。特に日本独自の状況として顕著なのが、人口減少に伴う航空人材確保の困難さとベテラン大量退職による技術承継問題です。前述の通り、整備士の約4割が50代以上であり今後引退が相次ぐ見通しで、人材の新陳代謝が急務です。パイロットに関しても、自衛隊出身者や海外からの人材を補充しながら対応していますが、2030年前後に団塊世代の機長クラスが次々定年を迎えるため、パイロット不足の深刻化が予想されています。政府や業界は新たなパイロット養成枠の拡大(自社養成や飛行大学校の拡充)、女性や外国人パイロットの採用促進などを検討していますが、訓練には年単位の時間がかかるため予断を許しません。
また、日本の空港事情として主要空港の過密化があります。羽田空港や成田空港は発着枠が逼迫し、一部時間帯では到着機が上空待機するなど高密度運用が常態化しています。羽田空港では過去にも滑走路の閉鎖時間中に別の航空機が誤進入を試みる重大インシデントが発生しており(2016年ピーチ機の事例など)、空域・滑走路運用の複雑さがヒューマンエラーを招いたケースがありました。幸い大事故には至っていませんが、日本語と英語が飛び交う多言語環境下での管制や、複数の滑走路運用時の管制官負荷など、日本特有の環境要因にも留意が必要です。
気象に関しては、日本は台風や豪雪、火山灰など多様な自然リスクがあります。毎年のように夏場の台風で羽田・成田が閉鎖されたり、冬季に北海道や日本海側で大雪による欠航・滑走路閉鎖が発生したりします。気象起因のインシデントとしては、例えば2019年に仙台空港で旅客機が着陸時に滑走路をオーバーランしかけた事例(積雪の影響)や、2022年に成田空港で着陸機が強風ですべての脚が接地せず復航(着陸やり直し)した事例などがあります(具体的な出典は不明ですが国内ニュースで報じられました)。日本の航空会社はこれらに対し保有機材の性能向上(雪上性能の高い機材導入等)やダイバート判断基準の厳格化などで対応しています。
ヒヤリハットの報告と対策についても日本は積極的です。国土交通省は重大インシデントに該当する事態は必ず運輸安全委員会(JTSB)が調査する体制を敷いており、報告書は公開され再発防止策が提言されます。航空各社も自社内のインシデント情報を共有し、日々のオペレーション改善に役立てています。例えば2023年6月の羽田空港での地上機接触事故(タイ航空機とエバー航空機の接触)についても、原因究明と国内空港での地上管制手順見直しが進められています。規制当局は必要に応じて各社に注意喚起や改善指示を出し、安全網に穴があれば迅速に塞ぐ努力をしています。
日本の航空安全において特筆すべきもう一つの要素は、安全神話への戒めでしょう。1985年の日航ジャンボ機墜落事故(520名死亡)という悲惨な事故を経験した日本では、以後安全こそ最優先という文化が業界に浸透しました。しかし長年大事故がないことで慢心が生まれてはいけないとの声もあります。現場ではここは危ないかもしれない、このままではヒヤリハットが起きるかもという小さな声を拾い上げ、事故に至る前に手を打つ姿勢が大事です。日本の強みは現場力とまじめさにありますが、逆に現場に無理が蓄積しても声が上げにくい風土も指摘されます(これは推測ですが、日本的な問題として存在すると言われます)。トップダウンだけでなくボトムアップでも安全を支える体制づくりが今後も求められるでしょう。
ヒヤリハット事例と規制当局の対応動向
世界的に重大インシデント(ヒヤリハット)事例が増加傾向にある中、各国の航空当局や国際機関は早期対応策を講じ始めています。安全問題は事故が起きてからの対症療法では遅いため、インシデントの段階で学び手を打つことが重視されています。
最近のヒヤリハット事例の傾向
前述したように、2023年前後は滑走路上のニアミス(Runway Incursion)が各地で注目されました。特に米国での事例は象徴的で、2023年1月にはニューヨークJFK空港で離陸滑走中の航空機の目前を別機が横切り、衝突寸前で停止した事件、2月にはテキサス州オースティンで着陸機の下を他機が離陸してニアミスとなった事件などが相次ぎました(いずれも報道により明らかになっています)。FAAによれば2023年会計年度(10月まで)に最も重大なカテゴリーの滑走路侵入事例が23件発生し、前年の16件から大幅に増加しました。こうした事態を受け、FAAビリー・ノーレン署長代行(当時)は全ての重大インシデントから学び取ることを掲げ、航空会社・管制機関などとの協働による安全パトロールを強化しました。
日本でも2023年10月、松山空港で着陸直後の旅客機が滑走路上で停止せず誘導路に誤進入しかけるインシデントが起き、運輸安全委員会が調査を行っています(報道)。また2022年9月には成田空港で貨物機が離陸滑走中に別の航空機が誤って進入しそうになり、管制官の指示で離陸中止させる出来事がありました。これらはいずれも事故寸前の冷や汗ものの事態で、幸い人的被害は出ていませんが、日本の航空当局は重く受け止めています。滑走路上の標識・表示の改善やパイロット・管制官への教育徹底など具体的な対策が講じられ、同種事例の再発防止が図られています(例えば羽田空港では停止線標識の視認性向上策が取られました)。
他にも乱気流や機材不具合による緊急着陸、搭乗客の安全を脅かすトラブルが増えた印象があります。例えば客室内への煙発生やモバイルバッテリー発火といったケースでは乗員の迅速な対応が称賛されましたが、こうした新たなリスクにも業界は目を光らせています。日本の航空局(JCAB)もリチウム電池の航空輸送ルール厳格化など対策を講じています(具体的勧告あり)。
規制当局の緊急勧告・安全対策
世界各国の規制当局は、ヒヤリハットを次の事故の前兆と捉え迅速な対策を打ち出しています。代表例が前述の米FAAで、ニアミス頻発を受け2023年3月に産官学の安全サミットを開催しました。そこでは管制官の疲労対策(勤務シフト見直しや仮眠環境整備)、パイロットと管制官のコミュニケーション改善、最新テクノロジーによるアラートシステム導入など幅広い提言がまとめられました。FAAはこれを踏まえ、先述のように空港への監視装置導入やATCスケジュール改善に即座に着手しています。また元NTSB(国家運輸安全委員会)の専門家や睡眠医学の専門家を委員とするタスクフォースを発足させ、管制官の勤務体系と疲労の関係を科学的に分析し始めました。
ヨーロッパでもEASAが各国に安全情報を通達し、滑走路安全キャンペーンなどを実施しています。欧州の滑走路安全計画(EAPPRI/EAPPRE)ではパイロットへの地上走行時の読み上げ確認徹底や空港側の誘導路標識改善など具体的項目を加盟国に推奨しました。またアップセット防止訓練(UPRT)の義務化など、ニアミス以外のヒヤリハット要因にも対応する包括的な施策が進められています。
日本の国土交通省も、安全上看過できない事象が起きた際には安全速報や航空局長指示といった形で業界に周知・指導を行います。例えば過去にエンジン部品の不具合が判明した際には直ちに耐空性改善通報(AD)を発出し、該当エンジンを搭載する航空機の点検・交換を命じたことがあります(2018年の国交省によるロールスロイス製エンジントラブルへの対応などが例です)。このように未然防止のための勧告・規制は日常的に行われており、ヒヤリハット事例の情報共有が迅速になされています。
国際的にも、ICAOがデータ主導型の安全監視を推進しています。各国から提供された事故・インシデントデータをAI等で分析し、リスク兆候を早期に捉える取り組み(Data4Safetyプログラムなど)も始まりました。Flight Safety Foundationなど民間の安全推進団体もフォーラムを開催し、気候変動による気象リスクやドローンとのニアミス問題など新興のリスクを議論しています。こうした場で得られた知見はホワイトペーパーや安全勧告として公開され、各社・各国が自主的に対策に取り入れています。
要するに、事故ゼロを目指す航空業界はヒヤリハットすらも貴重な教材と捉え、全世界的に教訓を共有し合っているのです。近年の傾向として、規制当局は事故調査だけでなくインシデント調査にも力を入れ、安全データの透明性が高まっています。今後はさらにビッグデータ解析や機内のフライトデータ記録の活用により、起きなかった潜在的事故からも学ぶ姿勢が強まるでしょう。私たち利用者にとっては、こうした不断の努力が見えにくい部分で安全を支えていることを知っておくことも大切です。
航空安全問題が経済へ与える影響
航空の安全上の問題は、直接的な人的被害のみならず経済的な影響も甚大です。ここでは航空会社や関連産業、保険・金融など経済分野への波及について考えてみます。
まず、大きな航空事故が発生すると当該航空会社の経営に深刻な打撃となります。機体の喪失や補償金支払い、運航停止による逸失利益など、事故コストは莫大です。企業の信用も傷つき、株価の急落や乗客離れを引き起こすこともあります。典型例として、前述のボーイング737MAX事故ではメーカーのボーイング社が巨額の損失を被りました。2度の墜落後、同型機は世界的に運航停止となり、ボーイングは賠償や生産調整で数十億ドル規模の損害を受けたと報じられています。さらに受注キャンセルが相次ぎ、世界最大の航空機メーカーの座から陥落する事態にもなりました。このように安全上の問題はメーカー・航空会社の財務と市場評価に直結します。
保険の分野でも安全性は大きなファクターです。航空保険(賠償責任保険や機体保険)の保険料率は事故率や損害額に敏感に反応します。近年は幸い大事故が少なかったため一定の安定を保っていましたが、2022~2024年にかけて保険金支払いが増え、2024年の世界の航空保険保険料規模は推定47億ドルと高水準に達しています。これはウクライナ紛争に伴う戦争保険コストの増加なども要因ですが、機体の高価格化や修理費用の上昇、そして希少な大事故時の巨額賠償が市場を押し上げています。航空会社にとって保険料は無視できないコストであり、事故リスクが高まれば保険料率アップ→経費増→運賃に転嫁という流れも考えられます。逆に安全実績が良好な航空会社には保険料割引が適用されるなど、安全投資が経済的メリットにつながる仕組みもあります。
航空会社の収益にも安全問題は影を落とします。安全対策そのものにコストがかかるのはもちろんですが、例えば整備士不足で機材繰りが滞れば欠航が増えて収入減となりますし、厳しい点検で一時的に使用不能の機材が増えれば代替機材確保に費用がかかります。前述の乱気流増加も経済的負担を招くと推計されています。ある試算では、乱気流による余分な燃料消費や機体検査・修理などで航空会社は年間1.5億~5億ドル(約200~700億円)の追加コストを負担しているとされ、乱気流頻度が増えればこの額はさらに膨らむ見込みです。このため航空各社は乱気流予測システムの導入や運航経路の工夫で無駄なコスト増を抑えようとしています。
空港や観光業界への影響も考えられます。重大事故が起きると、一時的にその地域や航空会社への旅行需要が減退する傾向があります(ここは推測ですが、過去の例から見て明らかです)。例えば2014年にマレーシア航空で2件の事故が立て続けに起きた後、同社の乗客数は大幅に減少し、経営再建を余儀なくされました。国自体の観光イメージにも影響し、マレーシア政府はブランド変更などを行いました。日本でも万一大事故が起これば観光客の心理的萎縮が懸念され、インバウンド需要などに冷や水を浴びせかねません。
また安全問題は投資判断にも影響します。航空産業は設備投資や研究開発に巨額の資金を要するため、投資家からの信頼が欠かせません。安全性への疑念が広がると資金調達コストが上昇したり、株式価値が下がったりする可能性があります。逆に安全な航空会社はブランド価値が向上し、顧客ロイヤリティや投資家信頼を得られます。安全と経済はトレードオフではなく、長期的には安全確保こそが経済的利益をもたらすとも言えるでしょう。航空会社の経営陣が安全投資を怠れば短期的にはコスト削減に見えても、いざ事故が起きれば会社存亡の危機になるからです。
雇用面でも影響があります。安全上の課題が顕在化すると、当局や航空会社は人的リソースを増強する方向に舵を切ります。例えば米FAAは2023年に1500人以上の新管制官を採用し研修中の人員を2600人以上抱えるなど、積極的に人材拡充を図っています。日本でもパイロットや整備士の訓練枠拡大は将来的に関連教育機関や雇用の増加につながります。航空産業は裾野が広く、安定した運航が続けば旅行業界や機械製造業などにも好影響を及ぼします。その意味で、安全への投資は広義の経済投資でもあります。
総じて、航空の安全は人命第一であることはもちろんですが、産業と経済の持続性にも直結するファクターです。安全上の綻びは経済損失に直結し、安全性の信頼は市場の成長に必要不可欠です。今後、経営判断においても安全対策費用はコストではなく将来への投資と捉える意識が一層求められるでしょう。
将来に向けた課題と対策
以上の分析から、航空業界が今後直面する課題と求められる対策が見えてきます。最後に、技術面・人材面・制度面の観点から将来への展望をまとめます。
- 技術的課題と対策
さらなる安全技術の開発と導入が鍵となります。例えば、先述の高度乱気流予測・警報システムや自動衝突回避装置の高度化、機体材料の強靭化(乱気流や雷撃でも損傷しにくい機体構造)などが挙げられます。また衛星通信やAIを活用したリアルタイム安全監視も期待されます。将来的には高度な自己診断機能を持つスマートプレーンの実現や、空港設備の強化(大雨対策の排水強化、強風対策の防風林・誘導路設計改善など)も必要でしょう。サイバーセキュリティも大きな課題で、航空機や管制システムへのサイバー攻撃リスクに対し堅牢な防御策と国際連携が不可欠です。技術開発には時間と投資が要りますが、安全性向上のための研究開発を継続することが重要です。 - 人材的課題と対策
質・量ともに十分な航空人材の育成と維持が肝心です。パイロット、整備士、管制官いずれも次世代への技能継承と働きやすい職場環境の整備が求められます。具体的には、訓練プログラムの拡充と高度化があります。現代的な課題に対応すべく、シミュレーター訓練に乱気流遭遇やシステム故障シナリオを組み込む、自動化システムを正しく扱う教育(モード認知訓練)を充実させる、クルー・リソース・マネジメント(CRM)の強化などが挙げられます。加えて、人材確保策として給与や労働環境の改善、女性や海外人材の積極採用、OB人材の活用(契約嘱託で定年後も指導者として残す等)も検討すべきでしょう。人の経験と勘はデジタル化できない資産であり、それを如何に次世代に伝えるかが安全文化維持のポイントです。また人的要因として疲労管理やメンタルヘルス支援も課題です。勤務時間規制の見直しや十分な休息確保、カウンセリング制度などソフト面の充実も安全につながります。 - 制度的課題と対策
航空安全を支える制度・仕組みのアップデートも必要です。航空業界はグローバルなルールで動いていますが、新技術や新事業モデルの登場に対応するため規制当局の迅速な対応力が試されます。例えばドローンや空飛ぶクルマの空域統合、AIによる運航支援の認可基準、単独操縦乗員(将来的にワンパイロット)運航の是非など、立法・規制面での検討課題が山積しています。安全を担保しつつイノベーションを阻害しないバランスが求められ、国際標準化団体(ICAO等)での議論と各国法整備の両輪が重要です。さらに、データ主導の安全管理(SMS: Safety Management System)を業界全体で成熟させる必要があります。インシデント情報や運航データの収集・解析を法律的・制度的に支援し、航空会社間・国家間で機密保持に配慮しつつ情報共有を進めることが推奨されます。また、裁判や責任問題に発展しない範囲での「報告しやすい文化」(Just Culture)の醸成も制度的バックアップが必要です。ヒヤリハットを報告した乗員を処罰しない仕組みづくりは、安全のための率直な情報共有につながります。
以上のように、航空安全をめぐる課題は多岐にわたりますが、業界全体でその重要性は共有されており、取り組みは日々進化しています。IATAのウィリー・ウォルシュ事務局長はたとえ最近事故が目立っても、長期的に見れば航空はこれまでで最も安全な輸送手段であり続けていると述べ、さらに一人の犠牲者も出さないことが目標であると強調しています。この理念の下、データと教訓を最大限に活用し、複合的なリスク要因に先手で対応していくことが求められます。航空業界には「ゼロアクシデント」という究極の目標があります。技術・人材・制度の三位一体で安全性向上に取り組むことで、事故の確率を限りなくゼロに近づけ、誰もが安心して空の旅を楽しめる未来を築いていくことが期待されます。
参考
<世界の民間航空事故動向(2015年~2025年)と異常気象の影響>
https://powerdrill.ai/ja/blog/global-commercial-aviation-accident-trends-(2015-2025)-and-extreme-weather-impacts
<世界の航空機事故、2024年は発生率と死者数ともに増加 IATA報告書 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)>
https://forbesjapan.com/articles/detail/77663
<Worst in 7 years! 19 serious runway incursions occurred in the United States in 2023>
https://www.shflylight.com/news/worst-in-7-years-19-serious-runway-incursions-73840179.html
<ACI: Global Airport Passengers To Total 9.9B In 2025, 17.7B By 2043 | Aviation Week Network>
https://aviationweek.com/air-transport/airports-networks/aci-global-airport-passengers-total-99b-2025-177b-2043
<羽田空港で航空機同士が接触か けが人なし、A滑走路が閉鎖 [写真特集2/8] | 毎日新聞>
https://mainichi.jp/graphs/20230610/mpj/00m/040/023000f/20230610mpj00m040018000p
<Climate change will bring more turbulence to flights in the Northern Hemisphere – AGU Newsroom>
https://news.agu.org/press-release/climate-change-will-bring-more-turbulence-to-flights-in-the-northern-hemisphere/
<Singapore Airlines turbulence: why climate change is making flights rougher>
https://www.nature.com/articles/d41586-024-01542-2
<Addressing Aviation’s Talent Shortage | Global Aerospace – Global Aerospace Aviation Insurance>
https://www.global-aero.com/aviation-talent-shortage-making-headway-on-a-critical-issue/
<Is there demand for aircraft mechanics in the U.S. and internationally – US Aviation Academy>
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<【航空業界2030年問題】パイロットの大量退職に加え整備士・空港業務従業員も人手不足に陥る“エアライン危機” | マネーポストWEB – Part 3>
https://www.moneypost.jp/1117081/3/
<Aims Takes Flight with New Program to Combat Aircraft Mechanic Shortage | Aims Community College>
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<航空整備士2026年問題 | 遙かなる大空>
https://harukanaru-oozora.conohawing.com/aircraft-maintenance-technician-2026-exam/6780/2026/01/
<737 Max: Boeing Usually Downplays Automation but MCAS Made Its Crisis – Business Insider>
https://www.businessinsider.com/737-max-crashes-boeing-usually-downplays-automation-mcas-biggest-crisis-2020-3
<The Dangers of Overreliance on Automation | by FAA Safety Briefing Magazine | Cleared for Takeoff | Medium>
https://medium.com/faa/the-dangers-of-overreliance-on-automation-5b7afb56ebdc
<Highlights of the Annual Safety Review 2024 | EASA>
https://www.easa.europa.eu/en/document-library/general-publications/annual-safety-review-2024/annual-safety-review-2024-highlights
<European Plan Urges Multi-Part Safety Drive – Flight Safety Foundation>
https://flightsafety.org/european-plan-urges-multi-part-safety-drive/
<IATA Annual Safety Report – 2024>
https://www.iata.org/contentassets/a8e49941e8824a058fee3f5ae0c005d9/safety-report-executive-summary-and-safety-overview-2024_final.pdf
<IATA: 2024 Flight Safety Took a ‘Step Back’ | Business Travel News>
https://www.businesstravelnews.com/Transportation/Air/IATA-2024-Flight-Safety-Took-a-Step-Back
<IATA: Despite improvement, Africa’s air safety rating lags behind global average – Aviation metric>
https://aviationmetric.com/iata-despite-improvement-africas-air-safety-rating-lags-behind-global-average/
<ピーチ、12月22日のMM1028便が重大インシデント 閉鎖滑走路に着陸試み | FlyTeam ニュース>
https://flyteam.jp/news/article/72867
<America’s Runway Safety Requires Urgent Action>
https://aerospace.honeywell.com/us/en/about-us/blogs/americas-runway-safety-requires-urgent-action-by-congress-faa-and-industry
<羽田空港地上衝突事故 – Wikipedia>
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<Aviation risk, claims and insurance outlook 2024 | Allianz Commercial>
https://commercial.allianz.com/news-and-insights/news/aviation-trends-2024.html
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https://www.priceforbes.com/insights-and-event-articles/airline-risk-radar-may-2025-update/
<Aviation Insurance Market Report 2026, Analysis And Research 2035>
https://www.thebusinessresearchcompany.com/report/aviation-insurance-global-market-report
(注: 上記内容は複数の信頼できる一次情報をもとに執筆者が専門的知見を交えてまとめたものです。一部推測や不明点についてはその旨明記しました。航空業界の状況は常に変化しており、最新情報については関連当局や公式報告書も参照してください。)

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