問題の概要と背景
近年、電気自動車(EV)や電子機器の普及に伴いリチウムイオン電池の需要が急増しており、バッテリーのライフサイクル全体で環境・社会面の課題が顕在化しています。欧州委員会の推計では2030年までにリチウム電池需要が現在の10倍以上に拡大するとされます。強力な持続可能性の枠組みが無いまま需要が膨張すれば、原材料の調達圧力、サプライチェーン上の炭素排出量増大、資源採掘の環境破壊といった問題が一層深刻化すると懸念されています。実際、例えば電池材料のコバルト産出地コンゴ民主共和国では児童労働などの非人道的な採掘が報告されており、中国など製造拠点では石炭火力依存による高炭素排出も大きな問題となっています。さらに、使用済み電池の廃棄・焼却は有害物質による汚染や火災リスクを伴う上、コバルト・ニッケル・リチウムなど貴重な資源の埋没を招きます。こうした廃電池を効率的に回収・リサイクルする仕組みはまだ十分整っておらず、リサイクル技術開発やインフラ拡充が追い付いていないのが現状です。また、電池のサプライチェーンの透明性欠如も深刻です。最終製品に搭載された電池が「どの国のどんな原料から、どのような工程を経て製造されたか」は消費者や規制当局には見えにくく、企業自身も下流・上流の全工程を把握しきれていない場合があります。そもそも電池メーカーにとってサプライチェーン情報や材料配合は競争力の源泉であり、公表したがらない性質がありました。このため電池の製造から廃棄に至る一連の過程で何が起きているかがブラックボックス化し、環境負荷や人権問題への十分な対応が遅れる一因となってきました。
こうした課題に対処するため、電池のライフサイクル情報を一元管理・公開する「バッテリーパスポート」の構想が浮上しました。バッテリーパスポートは製品に関する詳細データをデジタルで追跡可能にするもので、EUが循環経済実現の鍵として導入を進めるデジタル製品パスポート(DPP)の先駆け的取り組みと位置付けられています。以下では、バッテリーパスポートおよびDPPの背景と狙い、各国の対応、日本への影響と残る課題について解説します。
原因と構造的課題
なぜ電池をめぐるこれらの問題が生じているのか、その構造的背景を整理します。まず、需給構造の急激な変化があります。脱炭素化の流れでEVや再生可能エネルギー蓄電需要が急増し、必要なリチウムやコバルトなどの重要鉱物の需要が爆発的に拡大しました。一方で、これら鉱物の生産は地理的に偏在しており、一部の国や企業が供給を握っています。例えばリチウム資源はオーストラリア、チリ、中国、アルゼンチンの数か国に集中し、コバルトもコンゴ民主共和国と中国企業が供給チェーンを支配する構造です。このような特定プレイヤーへの依存は地政学リスクを高め、需給逼迫時には価格高騰や争奪戦を招きます。
次に、サプライチェーンの多段階性と国際性も問題を複雑にしています。電池のバリューチェーンには、鉱山会社(資源採掘)、素材精錬・化学メーカー、セル・電池メーカー、自動車・電子機器メーカー、消費者、リサイクル業者といった数多くの主体がまたがっています。それぞれが異なる国境を越えて活動し規制や基準も様々なため、全体を俯瞰して管理する仕組みが欠如していました。特に鉱山のある新興国では労働・環境規制が不十分で、先進国の完成品メーカーとの間に情報格差・認識格差があります。川上(マテリアル生産)と川下(製品メーカー・消費者)との距離が遠いため、上流での人権侵害や環境破壊が川下に伝わりにくく、是正圧力が働きにくい構造でした。企業間取引においても、自社のサプライヤーがさらにどこから原料を調達しているかまで把握できていないケースが多々あります。「車やスマホを作る際にどの鉱山のどの鉱石が使われたかまで遡るのは非常に困難だった」と指摘されるほど、従来サプライチェーンの奥深くは不透明でした。加えて、情報開示インセンティブの欠如も大きな要因です。企業は長らく自主的CSR報告で環境情報を開示してきましたが、その内容は統一性や検証可能性に欠け、利害関係者が容易に比較・評価できるものではありませんでした。メーカーにとってはサプライチェーン情報は企業秘密でもあり、積極的に共有・公開する動機が乏しかったのです。事実、欧州が電池の情報開示を義務化に踏み切った背景には、電池産業でアジア企業に主導権を握られている欧州側がルール作りで巻き返しを図る狙いがあるとも言われています。このように各プレイヤーの思惑や力関係が絡み合う中、全体を通じた透明性確保と責任の所在明確化が困難であったことが、問題解決を遅らせてきた原因といえるでしょう。
世界の対応
EUにおける規制強化とデジタル製品パスポートの先行導入
環境先進地域である欧州連合(EU)は、この問題への包括的対応に乗り出しました。2023年にEU議会で採択された新「欧州電池規則」(Regulation (EU) 2023/1542)にはバッテリーパスポート制度が盛り込まれており、2027年2月からEU市場で販売される電気自動車用・産業用など大型バッテリーへパスポートの実装が義務化されます。これはEUが推進するデジタル製品パスポート(DPP)の初の本格適用例と位置付けられており、バッテリーパスポートがその試金石となっています。パスポートには各バッテリーについて製造時の温室効果ガス排出量(カーボンフットプリント)、構成材料の内訳と原料の調達先、使用履歴(充放電サイクル・劣化状況など)、再生資源の含有率やリサイクル義務達成状況などが電子的に記録・更新され、関係当局や関係者が必要に応じて閲覧できるようになります。このバッテリーパスポート制度は、EU全体で製品のライフサイクル情報を標準化・透明化しようとする持続可能な製品政策の一環であり、後述するように将来的には他の多くの製品カテゴリにも段階的に拡大される予定です。
EU電池規則で導入されるバッテリーパスポートに盛り込まれる主な情報は次のとおりです。
- カーボンフットプリント(原材料の採掘から電池製造・輸送に至るまでのCO2排出量)
- 材料構成と原料調達先(電池に含まれるコバルト・リチウム・ニッケルなど重要鉱物の比率とその原産国)
- バッテリー性能指標(容量・充電サイクル数・劣化度合いなど電池の特性や健全性に関するデータ)
- リサイクル・二次利用可能性(使用済み電池の回収率、電池中に占めるリサイクル材の含有比率など)
- デューデリジェンス(人権・環境配慮)情報(サプライチェーン上で人権侵害や環境破壊がないかの監査・点検結果)
これらのデータは電池ごとに一意のQRコード等に紐付けられたデジタル記録として提供され、バッテリー本体や車両に貼付されたQRコードをスキャンすることで、認可された関係者(修理事業者、リサイクル事業者、規制当局など)が必要な情報にアクセスできる仕組みとなります。電池が市場から姿を消した後(製品寿命を終えた後)も少なくとも10年間はデータが保存され閲覧可能である必要があり、電池の「戸籍」のように一生涯にわたる追跡情報が管理されることになります。2027年の制度施行を目前に控え、自動車・電池メーカー各社はグローバルなサプライチェーンから標準化フォーマットの詳細データを収集・連携するシステム構築に追われています。特に海外サプライヤーが多い場合、各社との間でデータをやり取りし品質を担保する仕組みを整える必要があり、短期間での体制整備は大きな挑戦です。
EUがこのような野心的制度を導入するのは、気候変動対策と循環経済推進の両立という戦略目標があるためです。バッテリーパスポートにより製品ライフサイクル全体の環境情報が標準化・見える化されれば、電池の再利用やリサイクルが効率化し、資源の循環利用が促進されます。また電池製造時のCO2排出が開示されることで、メーカーは自社製品のカーボンフットプリント低減に取り組まざるを得なくなり、結果としてクリーンな生産技術や低炭素素材へのイノベーションが進む効果も期待されます。実際、EU規則ではカーボンフットプリントの算定・公開を義務付けた上で、将来的に一定の基準値以下の電池でないと市場販売を認めない炭素強度規制の導入も検討されています。またパスポートを通じて蓄積される情報は規制当局にとって信頼性の高い監視ツールとなり、各社の取り組みを客観的に評価して目標達成度をチェックできるようになります。消費者にとっても製品のサステナビリティに関する確かなエビデンスが提供されるため、「このEVの電池は持続可能な方法で作られているか?」といった不安に答えが得られ、製品の環境性能を比較検討することも可能になります。このようにバッテリーパスポートは、電池産業を気候変動対策と資源循環に適合した形へと変革していく起爆剤として位置づけられているのです。
もっとも、その実現には多くの課題も指摘されています。第一にデータ管理とシステム整備のハードルです。多くの企業はまだ新制度への準備が途上で、複雑なサプライチェーンから大量のデータを集める仕組みづくりに苦労しています。収集したデータを安全に保存し真正性を保証するサイバーセキュリティ対策も不可欠です。特に中小企業にとっては、トレーサビリティシステムを自力で構築・維持するだけのリソースが乏しく、対応が遅れる企業群が出るリスクもあります。第二にグローバルな制度調和の課題があります。電池は世界中で取引される製品であり、EUだけでなく他の主要国もそれぞれ独自の規制枠組みを検討し始めています。もし各地域で要求事項やデータ形式がバラバラだと、企業は重複投資や非効率な対応を強いられ、せっかくの国際的サプライチェーンに断絶や摩擦が生じかねません。そのため将来的には各国間で規制要件の整合を図り、国際相互運用可能なデータプラットフォームを構築していく必要があるでしょう。第三に検証と信頼性確保の課題です。企業が申告するサステナビリティ情報の正確性をどう保証するかという問題で、例えば児童労働が無いと記録されていても現場では隠れて存在する可能性も否めません。こうしたリスクに対処するためには、独立した第三者機関による監査・認証プロセスが重要となります。デジタル技術面でもブロックチェーン等を活用したデータの改ざん防止や、AIによる異常検知など信頼性を高める仕組みの実装が求められています。最後にコストと公平性の課題もあります。新制度への対応には当初多大なコストを要するため、価格競争力への影響が避けられません。また各社の準備状況に差があると、先行企業と後発企業の間で競争条件に不公平が生じる可能性も指摘されています。規制対応コストを吸収できない企業は市場から退出を余儀なくされるおそれもあり、各国政府は中小企業への支援策なども検討していく必要があるでしょう。以上のような課題を乗り越えつつ、EUはまず電池分野でDPPを先行実施し、その知見を他の製品群にも水平展開していく考えです。実際、2024年に成立したエコデザイン規則(ESPR)では、電池以外の電子機器、蓄電池、建材、繊維製品など幅広い分野で製品ごとのDPP要件を順次策定し、2027年以降段階的に適用範囲を拡大する計画が示されています。EUはDPP情報を集約する統一レジストリ(データベース)と公開ポータルの設置も予定しており、製品比較や市場監視に活用する基盤を構築中です。
例えばGBA(グローバル・バッテリー・アライアンス)が公開したバッテリーパスポートの試作画面では、電池の材料内訳や原産国、トレーサビリティ達成度(追跡できた割合)、有害物質の有無や人権リスク指数などが一覧表示されています。各材料についてどの国で採掘・精製されたか、どの程度の重量が使われているか、環境・人権デューデリジェンス評価が報告されているか等、サプライチェーンの持続可能性に関する詳細データが一目で把握できるようになっています。また、この仕組みはEUのDPPと連携したオープンなデジタルプロトコル上に構築されており、データの機密性を確保しつつ企業間で統一フォーマットの情報を安全にやり取りできるよう設計されています。こうした共通基盤を整備することで、企業ごとのバラバラな報告では実現し得なかったサプライチェーン全体の透明性向上とデータ駆動型の持続可能性評価が可能になるのです。
規制面でEUが先行する一方、国際的な官民連携の取り組みも進んでいます。世界経済フォーラム(WEF)が主導するグローバル・バッテリー・アライアンス(GBA)は、国際標準化されたバッテリーパスポートの実現を目指す産官学の連携組織です。GBAの提唱するバッテリーパスポートは、サプライチェーン全体の持続可能性パフォーマンスを施設レベルで測定・検証・格付けする指標体系を定め、データの収集・共有方法や信頼性保証のルールを策定することで、統一的な電池のサステナ認証制度を構築しようとしています。デジタル製品パスポートの新技術を基盤に据え、サプライチェーンデータを信頼性・相互運用性高く活用できるようにすることが特徴です。GBAは2030年にバッテリーパスポートが産業界で広く採用され、実際の電池に認証ラベルが貼られる未来像を描いており、それはちょうど木材製品にFSC認証マークが付されている状況に匹敵するとしています。企業はGBA認証によりサプライチェーンの透明性と持続可能性を対外的に証明でき、EU規制など各種報告義務にも効率的に対応できるメリットがあります。実際の進捗として、GBAは2023年に世界初となるバッテリーパスポートの概念実証を行い、鉱山から自動車メーカーまでバリューチェーンを網羅するメンバー企業が参加して、電池ごとの技術仕様に加え炭素フットプリント(GHG排出量)や児童労働・人権リスク指標を算定・開示しました。これは世界初のバッテリーパスポート試作品として公表され、我々のビジョンが技術的に実現可能であることを示す重要なマイルストーンとなりました。その後2024年には、世界のEV用電池市場の80%以上を占めるトップ電池メーカー10社が参加するコンソーシアムが組成され、リチウム、人工黒鉛、アルミ、コバルト、銅、リン酸鉄の6種類の原材料について由来追跡とデータ収集の大規模パイロットが実施されています。参加した電池メーカーには中国CATL、日本パナソニック、韓国LGエナジーソリューション、米国テスラなど錚々たる企業が名を連ね、主要サプライヤー7社のデジタルソリューション上で原料のプロヴナンス(出所)と流れを検証し、GHG排出量、強制労働や生物多様性への影響、先住民の権利尊重、循環設計といった7分野のルールブックに沿って各社のデータをスコア化する試みが行われました。この結果、異なる企業間でも調和した形式でサプライチェーン情報を収集・比較できることが示され、国際的なパスポート標準の実現に向け大きく前進しています。GBAには世界中の電池・自動車メーカー、素材企業、IT企業、政府・NGOなど100以上の組織が参画しており、ドイツのショルツ首相が「持続可能な電池バリューチェーンに向けた世界で最も重要なパートナーシップ」と評するなど、その取り組みは国際社会から大きな注目と支持を集めています。
米国や中国など主要国の動向
欧州が制度設計をリードする一方で、米国や中国など他の主要国もそれぞれのアプローチで動き始めています。米国には現時点でEUのように電池パスポートの情報開示を義務付ける連邦規制はありません。しかしインフレ削減法(IRA, 2022年)によって、EV購入補助の適用条件として「電池に含まれる重要鉱物の一定割合以上を米国または自由貿易協定(FTA)締結国で採掘・加工されたもの、もしくは北米でリサイクルされたものとする」ことが求められるようになりました。例えば2024年時点でこの割合要件は50%ですが、年々引き上げられ2027年以降は80%に達します。また電池構成部品の付加価値についても段階的に2029年までに100%北米製造とする目標が掲げられています。これにより、米国でも自動車メーカーは電池材料の原産地や調達経路を詳細に管理・証明するトレーサビリティ体制が事実上必要となっています。実際、フォードやGMといったメーカーはサプライヤーに対し鉱物の原産証明データ提出を求め始めており、米政府による厳格な電池サプライチェーンの監督が強まっています。また民間レベルでも、スウェーデン発祥の自動車メーカー・ボルボがブロックチェーン企業のCirculor社と提携して自社EV用バッテリーのパスポートシステムを開発するなど、先行する動きが出てきました。2024年に発売のSUV「EX90」では車両に実装されたこのシステムを通じ、電池のライフサイクル全般(原料の採掘地、使用中の劣化状態、炭素フットプリント、再生材の含有率など)を追跡して情報開示しています。ボルボ車の購入者は車体のQRコードや専用アプリからパスポート情報にアクセス可能で、規制当局向けにはさらに詳細なデータも提供される予定です。米国ではこのように直接的な規制ではなくとも市場メカニズムや企業の自主的取り組みによって電池の透明性向上が図られつつあります。
中国は電池分野で世界最大級の生産国・消費国ですが、こちらも独自の対策を進めています。中国政府は2018年に「新エネルギー車動力電池リサイクル管理暫定办法」を施行し、電気自動車(NEV)メーカーや電池メーカーに対し使用済み電池の統一的なリサイクルネットワーク構築を義務付けました。これに基づき、自動車メーカー等は提携して専用の回収拠点を全国に設置し、消費者から廃電池を引き取って分類・梱包・保管・輸送する体制を整えています(中国では廃電池の勝手な分解は禁止され、安全点検以外の目的での処理は許可されません)。さらに回収業者にはデジタルツールを用いて在庫電池を追跡しデータ収集することが求められ、集めた情報をメーカーに提供してメーカーが政府当局へリサイクル実績を報告する仕組みとなっています。これにより国内で流通する電池の所在とリサイクル状況を当局が一元管理できる体制が構築されました。加えて中国政府は、EUの電池規則改正を受けて自国版のデジタルバッテリーパスポートの開発にも着手しました。これはEUとの貿易において相互運用可能なデータ基盤を整える狙いがあり、EUが要求する透明性要件に自国システムを適合させることで、中国製電池が引き続き欧州市場で受け入れられるようにする戦略とみられています。中国はすでにCATLやBYDなど世界最大手の電池メーカーを擁しグローバル市場を席巻していますが、環境・人権への配慮でも後れを取らない姿勢を示すことで、自国企業の国際競争力を維持・向上させる狙いもあるでしょう。
その他の国・地域でも、電池の持続可能性確保に向けた政策が広がりつつあります。韓国ではEV用電池の再利用(リユース)やリサイクルを促進する規制緩和や実証事業が進められており、自動車メーカー(ヒュンダイ)がタクシー向けに電池をリース提供して使用後の回収・再利用を保証するビジネスモデルを試行するなど、新たな取り組みが生まれています。また国連の下部組織UN/CEFACTは各国間でデジタル製品パスポートの相互運用を図るための標準仕様「UN/CEFACT Traceability for Sustainable Value Chains and Circular Economy (UN/CEFACT DPP)」を検討中であり、欧州・日本をはじめ国際的な官民関係者が参加して議論が行われています。このように、電池パスポートを含むデジタル製品パスポートの考え方はグローバルな広がりを見せ始めており、将来的には国際協調の下で共通の制度枠組みが形成されていく可能性もあります。
日本の対応と課題
日本企業・政府の取り組み状況
日本においても、欧州発のバッテリーパスポート導入は対岸の火事ではありません。欧州電池規則の適用対象はEU域内で販売される電池ですが、グローバルに事業を展開する日本企業にも少なからず影響が及ぶと考えられます。特に自動車産業にとって欧州市場は重要であり、EV販売拡大を見据える上で欧州規則への準拠は避けて通れません。欧州市場でビジネスを継続するには電池の環境性能や情報開示で世界基準を満たす必要があり、日本企業も柔軟かつ迅速な対応を迫られています。こうした背景から、日本政府も海外動向を踏まえた受け皿作りを進めています。経済産業省は2022年1月に「蓄電池のサステナビリティに関する研究会」を発足させ、電池のGHG排出量の可視化、リユース・リサイクル促進策などをテーマに官民での検討を開始しました。同研究会の下で電池のカーボンフットプリント算定の試行事業も立ち上げられ、国内企業による製品炭素情報のデータ収集が進められています。
さらに政府は2023年4月、産業横断でのデータ連携基盤構想である「ウラノス・エコシステム(Ouranos Ecosystem)」の立ち上げを宣言しました。これは官民連携により企業間・国境間で信頼性ある自由なデータ流通(DFFT: Data Free Flow with Trust)を実現するための枠組みであり、その第一弾ユースケースとして車載バッテリーのカーボンフットプリント(CFP)データ共有プラットフォームが構築されています。自動車メーカー、自動車部品メーカー、電池メーカーなどが参画し、2024年5月には当該プラットフォームの試行運用が開始されました。同年2月には関係業界団体や企業が共同で「自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センター(ABtC)」を設立し、運営主体となっています。ABtCはドイツのCatena-X(自動車業界データスペース)とも連携し、欧州電池規則への対応を視野に入れた電池情報の追跡・共有システムを日本国内で整備する役割を担います。2024年9月には経産省がこのABtCを「公益デジタルプラットフォーム運営事業者」制度の第一号に認定しており、データ基盤運営の中立性・信頼性を国がお墨付きを与える形で支援しています。このように日本でも官民協働の受け皿づくりが着々と進んでおり、欧州発の制度に対応しつつ国際データ連携に乗り遅れないよう備えを固めつつあります。
民間企業レベルでも、先を見据えた自主的な取り組みが始まっています。例えば、大手素材メーカーの帝人株式会社は欧州のスタートアップCircularise社と協業し、製造工場からリサイクル素材まで原材料の流れを一貫して追跡するデジタル製品パスポートの実証実験に成功しました。このプロジェクトでは自社サプライチェーン上の原料由来情報を詳細に把握し、大規模なトレーサビリティ確保の可能性を示したとされています。帝人はCircularise社への戦略出資も行い、得られた知見をもとに循環型社会への移行を加速する方針です。また、電池大手のパナソニックは前述のGBAのパイロットプロジェクトに参加し、テスラ、CATL、LGエナジーソリューションなど海外企業と肩を並べて国際規範作りに貢献しています。自社の電池工場(滋賀工場)がGBAのパスポート試験運用に組み込まれ、実際にCO₂排出量測定やサプライヤー情報提供を行うことで、日本発の電池データを国際ルール形成の一部に組み込む役割を果たしています。このように日本企業も欧州発の流れを他人事とせず、積極的に関与・適応しようとする動きが散見されます。
日本における課題と懸念点
- 中小企業の参画とデータ共有文化
サプライチェーン全体でトレーサビリティを実現するには、大企業のみならず多くの中小企業の参加が欠かせません。データ連携プラットフォームは参加企業が増えるほど利便性向上やコスト低減のネットワーク効果が高まりますが、Catena-Xにおいても中小企業の参画は課題の一つとされています。日本のバッテリートレーサビリティプラットフォームでも、中小企業の負担を減らすため安価な簡易アプリの提供等で対応していますが、そもそも日本企業は自社内にデータを囲い込みがちで、欧米に比べデジタル化の遅れも指摘されています。その結果、適切な形でサプライチェーン情報を提出できない企業が出る懸念があります。企業文化の転換とIT基盤の整備を並行して進め、中小企業も巻き込んだ底上げを図ることが急務です。 - 企業情報の機密保持とインセンティブ設計
バッテリーパスポートは情報開示による透明性向上が目的ですが、企業からすれば素材配合やサプライヤー情報といった機密事項を公開することには抵抗感があります。欧州がルール主導で情報開示を迫る背後には、アジア優位の電池産業で欧州勢が巻き返そうとする思惑もあるとされ、企業間競争の観点から過度な情報開示が自社の不利につながるとの懸念は根強いです。日本企業は特に実利重視でまず目の前の環境規制対応をクリアすることに注力しがちであり、欧州のように将来ビジョンを掲げて自らルール形成を主導するといった発想は相対的に弱いとも言われます。したがって、企業がメリットを感じ主体的にデータ提供できるようインセンティブ設計を工夫する必要があります。例えばパスポート取得電池にエコラベル的なブランド価値を付与する、公開範囲を「公共用データ」「限定公開データ」「機密データ」に区分して競争影響を最小化するといった仕組みが考えられます。実際EU規則でも、消費者向け公開情報と事業者・当局のみアクセス可能な情報に区分することで企業の知財を保護しつつ透明性を高めるバランスを取ろうとしています。日本としても自国企業の技術的優位を損なわないよう留意しつつ、データ共有の利益が上回る状況を作り出すことが重要でしょう。 - データプラットフォーム運営と国際連携
パスポート制度を支えるデータプラットフォームの運営体制も課題です。データの集約・管理主体は中立かつ高い信頼性が求められるため、経産省は2023年に「公益デジタルプラットフォーム運営事業者」制度を創設し、ABtCをその第一号に認定することで運営の透明性・中立性を担保しようとしています。今後、電池以外の製品にもDPPが拡大すれば、産業横断のデータ流通基盤(いわゆるデータスペース)をどう整備するかという国家的課題にも発展します。欧州ではGAIA-XやCatena-Xといったビジョン主導の取り組みが進んでいますが、日本ではまず電池分野の足元の課題解決(欧州規制対応)から着手する漸進的アプローチを取っています。しかし長期的には、単に欧州の動きに追随するだけでなく日本発の提言を盛り込んだ国際ルール形成にも関与していかなければ、将来にわたり不利な条件を押し付けられる懸念もあります。幸い環境・サステナ分野での規制対応は世界共通の課題であり、日本企業にとっても資金調達面での評価向上や投資家層拡大といった戦略的メリットが見込める分野です。蓄電池分野での成功事例を横展開し、国内外の企業が直面する課題の解決に資する実績を積むことで、日本発の標準やソリューションを国際協調の枠組みに組み込んでいく余地も十分あるでしょう。官民協働でそのような戦略を描き、海外とも対等に渡り合い協創していく姿勢が求められています。
経済への影響
バッテリーパスポート(ひいてはDPP)の導入は、産業構造から消費者行動、国際貿易やイノベーションまで幅広い経済的インパクトを及ぼすと考えられます。
それぞれの側面について見てみましょう。
- 産業界への影響
電池メーカーや自動車メーカーなど産業界にとって、パスポート対応は当初コスト負担増につながります。サプライチェーン全体からのデータ収集・管理システム構築や従業員研修など、コンプライアンス対応のための投資が必要となり、特に中小企業には重荷となり得ます。またサプライヤーの協力取り付けや社内プロセスの見直しにも手間がかかり、短期的には利益圧迫要因となるでしょう。しかし長期的視点では、パスポート導入は産業競争力強化につながる可能性があります。サプライチェーンの透明化が進めば、不正行為やサプライリスクの低減によるリスクマネジメント効果が期待できます。さらに持続可能な調達や低炭素生産に取り組む企業ほどブランド評価が高まり、ESG投資を含む資本市場からの評価向上や株価プレミアムといった無形のメリットも得られます。実際、電池パスポート対応による透明性確保は企業の資金調達コスト低減や投資家層の拡大に直結する戦略的メリットを持つとも指摘されています。また先行対応した企業は、持続可能性を重視する市場で競争上の優位に立ち、政府のグリーン調達案件などで有利になる可能性もあります。逆に対応の遅れた企業は、欧州市場への参入機会を逃したり、将来より厳しい基準への適応を強いられることで追加コストや逸失利益が発生するリスクがあります。総じて言えば、パスポート制度は当初こそ負担ですが、中長期的には企業行動を変革し持続可能なビジネスへの転換を促す誘因となり得るでしょう。 - 消費者への影響
バッテリーパスポートは消費者の選択基準にも変化をもたらします。製品の裏側に関する信頼できる情報が提供されることで、消費者は環境・社会に配慮した製品を選びやすくなります。例えばEV購入者は、車載電池の原材料の出所や製造時CO₂排出量などをQRコード経由で確認できるようになります。自分が買おうとしている車の電池がどの国の鉱物から作られ、どれだけのCO₂を排出したのか、エシカル消費の観点から判断材料を得られるわけです。特に昨今は若い世代を中心に製品のサステナビリティを重視する消費者も増えており、このような情報開示は製品差別化にもつながります。また、バッテリーパスポートは中古市場にも好影響を与えるでしょう。EVの中古車を購入する際、最大の不安材料は劣化した電池の状態ですが、パスポートに電池の健全性(State of Health)や残存容量などが記録され15年程度保持されるため、中古車購入者はそのデータを参照して安心して判断できるようになります。これによりEVのリセールバリュー向上や、中古EV市場の活性化が期待されます。ただ一方で、消費者が情報をうまく活用できるよう分かりやすい表示・評価手法を工夫する必要があります。QRコードを自ら読み取って詳細情報をチェックする消費者ばかりではないため、例えば環境負荷を総合評価したスコア表示やラベリングを製品に添付するなど、直感的に理解できる仕組みも求められるでしょう。いずれにせよ、情報が見える化されることで消費者の意識喚起につながり、市場全体が持続可能な製品選好へシフトしていく可能性があります。 - サプライチェーン・貿易構造への影響
バッテリーパスポートはサプライチェーン全体にも波及効果を及ぼします。まず、パスポートによって各部材・原料の由来が明らかになることで、サプライチェーン上の弱点や不公正な慣行が可視化されます。児童労働の懸念がある鉱山やCO₂排出の大きい精錬所など、従来は埋もれていた問題箇所にスポットライトが当たるため、そうしたサプライヤーは是正を迫られるか取引から排除されていくでしょう。これは裏を返せば、持続可能性に優れたサプライヤーほど引き合いが強まりビジネス拡大のチャンスとなることを意味します。企業は調達先ポートフォリオを見直し、必要に応じてより倫理的・低炭素な供給源へ切り替えるインセンティブが働きます。次に、国際貿易への影響も見逃せません。EUのように厳しい環境基準を課す市場では、規制に適合しない製品は販売できなくなるため、持続可能性が事実上の貿易要件化する側面があります。規制先進地域が基準をリードすることで、他地域のメーカーにも対応を強いるスノーボール効果が生じ、世界全体の底上げにつながる半面、一種のグリーン貿易摩擦の様相も帯びます。実際、EUの電池規則はアジアに電池産業の覇権を握られた欧州がルール策定で揺さぶりをかけているとも評されており、環境規制が国際競争の力学と結びついている現実がうかがえます。さらに各国は自国産業保護や資源確保の観点から、それぞれ独自のサプライチェーン政策を打ち出しています。米国がIRAで自国・友好国への調達シフトを促し、中国が自国内での資源循環強化を図っているように、各国の政策は必ずしも足並みが揃っていません。バッテリーパスポートで得られるデータは、こうした資源ナショナリズムの動きと相まって、将来的に資源流通構造の再編を促す可能性もあります。例えばパスポート情報をもとに各国が持続可能性スコアの高い製品に優遇策を講じたり、逆に低いものに輸入制限をかけるといった措置が取られることも考えられます。総じて、バッテリーパスポート導入はサプライチェーン全体の透明性・持続可能性を高めるとともに、国際的な資源・製品流通の在り方にまで変革をもたらす可能性を秘めています。 - スタートアップ・イノベーションへの影響
バッテリーパスポートは新たな技術・ビジネスの興隆も後押ししています。まず、電池の追跡・データ管理を実現するため、ブロックチェーンやクラウド技術を提供するスタートアップ企業が脚光を浴びています。前述のCirculor社や、オランダ発のCircularise社、ドイツ発のMinespider社など、サプライチェーン・トレーサビリティ分野の新興企業が次々と台頭し、自社ソリューションを各国の実証事業に売り込んでいます。大企業もそれらと積極的に提携・出資する動きを見せ、新しいデジタルインフラ市場が形成されつつあります。次にリサイクル・二次利用産業にもポジティブな影響があります。パスポートによって電池に含まれる元素や化学物質の詳細情報が共有されれば、リサイクル業者は処理工程での安全対策を最適化でき、作業者の危険を減らすことができます。実際、EUのBATRAWプロジェクト(電池パスポート実証)では、リサイクル施設がパスポートから得た化学成分情報により安全管理能力を大幅に向上させたとの報告があります。また、電池の残存容量や劣化度合いが明確に分かれば、EV電池の二次利用(例:定置型蓄電池への転用)も進みやすくなります。電池の状態が不確かであったこれまでは敬遠されていたビジネスも、信頼できるデータに裏打ちされれば採算が見込めるでしょう。実際、米国ではテスラ創業メンバーが立ち上げたRedwood Materials社が使用済み電池からリチウムやコバルトを大規模回収・再資源化する事業を急拡大させていますし、日本でもトヨタ系の今治製作所がEV電池リサイクル工場を新設する計画を発表するなど、循環ビジネスへの投資が活発化しています。さらに電池メーカーにとっても、パスポートで自社製品の環境影響が丸見えになることは技術開発のモチベーションになります。たとえば製造時のCO₂排出が小さい全固体電池や、リサイクル材から高性能電池を製造する新プロセスの研究開発など、環境優位性を実現するイノベーション競争が促進されるでしょう。以上のように、バッテリーパスポート導入は関連する幅広い領域で新たな市場機会と技術進歩を生み出しつつあります。
今後の課題
バッテリーパスポートおよびデジタル製品パスポートの展開にあたっては、解決すべき課題がなお残されています。最後に主要な論点を整理します。
- データ標準の統一と相互運用性
各国・各企業が扱うデータフォーマットや指標をいかに統一し、シームレスに連携できるようにするかが重要です。現状でも地域ごとにCO₂算定方法が異なるなど基準の不統一があり、グローバル企業は複数基準への重複対応を迫られる恐れがあります。国際標準化団体(例えばIECやISO)による指標標準化や、GBA・UN/CEFACTを通じたデータモデルの整合が必要でしょう。一貫した国際データスペースが実現すれば、企業は世界共通のプラットフォーム上で情報を共有でき、効率的かつ公平な市場競争が促されるはずです。 - データ信頼性の確保とプライバシー配慮
開示されたデータの正確性・信頼性をどう保証するかも大きな課題です。サプライチェーン各社からの自己申告データだけでは虚偽申告や粉飾のリスクが残ります。これに対し、独立第三者による監査・認証を制度に組み込むことや、ブロックチェーン技術で改ざん不可能な台帳にデータを記録することなどが検討されています。実際EU電池規則でも、2027年までに電池のサプライチェーン人権デューデリジェンスや炭素排出量データの第三者検証を義務付ける段取りが定められています。同時に、企業の知的財産や機密情報を守りつつ必要な情報だけを開示する情報開示範囲のコントロールも重要です。EUではパスポート情報を「公開情報」「限定公開(権限者のみ)情報」「規制当局専用情報」に区分する設計を導入し、企業の機微情報が競合他社に晒されないよう配慮しています。日本でもデータの機密性レベルに応じたアクセス制御や匿名加工の技術を駆使し、透明性と企業機密保護のバランスを取る工夫が求められます。 - 国際協調の難しさ
バッテリーパスポートをグローバルスタンダードとして機能させるには、主要国の協調が欠かせません。しかし各国が自国産業の競争力維持や資源確保を優先すると、制度調和は容易ではありません。例えば中国は自国のデータ主権や知的財産保護の観点から、欧米主導のパスポート枠組みに全面的に組み込まれることに慎重な姿勢を見せる可能性があります。実際、中国企業の中には機密データ流出への懸念から詳細情報の提供に消極的な声もあると伝えられます。また米国も、自国の物価高対策や安全保障上の理由で中国製EVへの高関税措置を取るなど独自路線を進んでおり、環境情報共有を巡る思惑が貿易摩擦に発展するリスクも孕んでいます。今後、各国政府間で制度相互承認(Mutual Recognition)やデータ共有のルールづくりを進め、グローバル企業が一つのパスポートで複数市場に対応できるよう国際協調体制を築くことが理想です。気候変動問題は本来全人類共通の課題であり、電池パスポートはその解決に向けた手段である以上、地政学的対立に巻き込まれず各国が協調して取り組む姿勢が求められます。 - 消費者への浸透と実効性
DPPの究極的な目的はサステナブルな製品を市場に増やすことですが、その成否は消費者がどれだけこの仕組みを活用するかにもかかっています。消費者がQRコードを読み取ってまで環境情報を確認するかは未知数であり、消費者の意識改革と情報提供の工夫が重要です。製品本体やパッケージ上に簡潔な環境スコアやサステナ認証マークを表示する、販売店でスタッフが説明できる体制を作る、あるいは購入者に環境情報閲覧を促すインセンティブ(例:閲覧したらポイント付与)を用意するといった工夫も考えられます。制度側も今後、消費者向けのポータルサイト整備やスマホアプリ普及など使い勝手向上策を講じていく予定です。結局のところ、パスポートに基づく情報が消費者の購買行動を変化させてこそ、企業に対する真のインセンティブ(持続可能な製品を開発・提供すれば売れるという市場圧力)となります。教育・啓発活動を通じて一般消費者の認知度を高めることも含め、制度を実効あるものにするための取り組みが引き続き必要でしょう。 - 制度運用上の不確実性
最後に、制度自体の詳細設計と運用についての課題です。EUの電池規則では具体的な技術基準や報告様式は今後2027年までに委任法で定めていくことになっており、現時点では未知の部分も残されています。例えばデータプラットフォームの管理運営を誰が担うのか、標準化されたデータ交換プロトコルをどう実装するか、企業や国が守るべき技術仕様をどうアップデートしていくか、といった点です。技術の進歩や市場環境の変化に合わせて規則内容も柔軟に見直す必要があるでしょう。仮に将来、全固体電池やリチウムフリー電池といった新技術が主流になれば、その特性に合わせた評価指標やリサイクル手法を新たに検討し直す必要が出てきます。制度が技術革新の足かせとならないよう、柔軟でアップデート可能な設計にしておくことも重要な課題です。さらに各国の法執行体制も課題です。EUでは規則違反に対する罰則も規定され、各国当局が検査権限を持ちますが、実際にどこまで厳格に運用されるかは加盟国次第です。いい加減なデータしか載せない名ばかりのパスポートを許さないために、法執行リソースを十分投入し違反には厳正な制裁を科すことも求められるでしょう。制度発足後しばらくは試行錯誤が続くと予想されますが、こうした不確実性を減らし円滑な運用に乗せることが今後の課題となります。
以上の課題は残るものの、電池パスポートという試みはサプライチェーンの透明化と責任の明確化に向けた大きな一歩であることは間違いありません。批判者の中にはEVはコバルトの児童労働問題があるからクリーンではないといった論調で電動化そのものを否定しようとする向きもありますが、パスポート制度はむしろそうした問題を可視化し改善を促すためのツールとなります。バッテリーパスポートそれ自体が環境・人権問題を即座に解決するわけではありませんが、従来は闇に隠れていた負の側面にスポットライトを当て、企業や政府に説明責任を果たす圧力を生み出す点に大きな意義があります。電池のみならず多様な製品にデジタルパスポートが広がっていけば、サプライチェーン全体でのデータに基づく協調と監視が可能となり、真に持続可能な経済への転換が加速するでしょう。その実現には企業の行動変革と国際協調、そして消費者の支持が不可欠ですが、電池パスポートはそのための確かな第一歩となるはずです。世界が協力してこの仕組みを磨き上げ、持続可能な未来へのパスポートとして機能させていくことが期待されます。
参考
<EU Battery Passport Regulation: What You Need to Know in 2026>
https://base-batterypassport.com/blog/regulations-4/eu-battery-passport-regulation-57
<The battery passport is coming and the industry won’t be the same.>
https://christopherchico.substack.com/p/the-battery-passport-is-coming-and
<欧州電池規則の対象と内容は?施行予定のバッテリーパスポートとともに解説 |SMART ENERGY WEEK>
https://www.wsew.jp/hub/ja-jp/blog/article_96.html
<環境分野の情報管理 その2 デジタル製品パスポート(DPP) ~EUが推進する「製品の一生を見える化」する仕組み~ | DOWAエコジャーナル>
https://www.dowa-ecoj.jp/ce/2025/20251103.html
<Battery laws in the top EV producing countries>
https://www.minespider.com/blog/ev-battery-regulations-around-the-world-what-you-need-to-know
<Volvo’s Battery Passport Traces the Supply Chain – IEEE Spectrum>
https://spectrum.ieee.org/volvo-ex90-battery-passport
<デジタル製品パスポートによるサステナビリティのシステム化 – KPMGジャパン>
https://kpmg.com/jp/ja/home/insights/2025/11/eu-regulation-dpp.html
<Battery Passport>
https://www.globalbattery.org/battery-passport/
<WEF_Digital_Battery_Passport_2023>
www3.weforum.org/docs/WEF_Digital_Battery_Passport_2023.pdf
<ウラノス・エコシステムにみるデータ連携・データスペースの新潮流 | Strategy Institute | FA Portal | デロイト トーマツ グループ>
https://faportal.deloitte.jp/institute/report/articles/923
<Traceability as strategy: How Teijin is scaling circularity with digital product passports>
https://www.circularise.com/jp/case-studies/teijin-circularise-traceability-as-strategy
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